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048 :最高の誕生日プレゼント(3)

◇2041年4月@千葉県船橋市~東京都新宿区 <吉岡苺>


榊原澪さかきばらみおもまた、この日は朝から不思議な胸のざわつきを感じていた。だけど、それは東山紗理奈(さりな)よりはずっと小さくて、しかも初めて感じたものだった為、彼女はそれを無視して朝食の席に向かったのだが……。


「お嬢様、今朝はご体調が優れないのではありませんか?」


声を掛けてくれたのは、家政婦の片瀬尚美かたせなおみ。澪自身が気付かない事まで指摘してくれるのだから優秀だ。


「たぶん、大丈夫よ。学校に行くわ」

「そうですか」


澪は、そんなやり取りがあった事すら直ぐに忘れてしまった。

だけど、タワマンのエレベータで一階のホールに降りて、スマホに入ったメッセージを見た途端、さっきの胸のざわつきの理由が分かった。

メッセージの送付元は、東山紗理奈。内容は、『また新しい「ムシ」の子が生まれそうです』というもの。てことは、さっきから感じている胸のざわつきが、きっとそれなんだろう。

澪は、自分も予感めいたものを感じた事を、返信のメッセージで伝えた。


送信ボタンを押した時だった。澪は、ふいに自分が大切な事を忘れていたのに気付いて愕然とした。

ああもう、もうちょっと早く思い出せばよかったのに……。


澪は、出迎えの車に乗り込むと同時に、再び紗理奈へ追伸のメッセージを入れた。


『紗理奈、ハッピーバースデー!』



★★★



昼休みに紗理奈から得た情報によると、新しい「ムシ」の子が居るのは、浦安よりも更に東の方との事。つまり、残念ながら千葉だ。

それでも澪が『私も行った方が良い?』と訊いたら、『澪は、ネズミーランドのシンデレラ城の辺りで待ってて』と返された。要は、紗理奈が迎えに行くからという事らしい。しかも、夕食を済ませてからで良いとの事だった。

それで澪は、ゆっくりと夕食を取って自室に戻ると、お嬢さんっぽいフリル多めのワンピに着がえた。新しい「ムシ」の子に舐められない為だ。そして、サッと「ムシ」になって、いそいそと屋上から空へ飛び出した。遅めの出発だったのは、『待ってなんかやらないからね』という意思表示の筈だった。それなのに……。


遅い!


東京ネズミーランドに着いて五分もすると、澪はイラつき出した。普段はこれくらいで遅いとは思わないんだけど、今日はどうにもじれったい。

もちろん、それは期待の表れなのだが、中学に上がったばかりの澪が気付く事はなかった。


そうして、待ち時間が十分じゅっぷんを超えた辺りで、シンデレラ城の塔の周囲をグルグルと回っていた澪は、ふいに紗理奈の気配を感じた。

澪は、近付いて来る紗理奈に向かって心話を放った。


〈もう、紗理奈ったら、遅いっ!〉


ところが、期待した新しい「ムシ」の子が見当たらない。


〈それで、新しく「ムシ」になった子はどうしたの? 紗理奈と一緒じゃなかったの?〉

〈あのさあ、澪……〉


紗理奈の呆れた様子が伝わったせいで、今度は気配を探ってみる。

うん。確かに、知らない「ムシ」の子がいるみたい。でも、何処どこに?


〈うーん、この辺に居そうなのは分かるんだけど……。えっ、まさか、そのちっこいの?〉


その直後、脳内に怒りの絶叫が届いた。


〈ちっこい言うなあーっ!〉


その子は、巨大な「アオスジ」の陰でふらふらと飛ぶ、小さな赤い翅の「シジミ」だった。



★★★



そのちっこい子は、東京ネズミーランドのシンデレラ城の塔の上で、「自分が『チビ』であるが為に、これまで如何いかに虐げられたか!」を切々と語ってくれた。

普通、「ムシ」の子は人と違う髪色でイジメを受けるってのがテンプレなんだけど、どうやら彼女は違ったみたい。てか、本当は髪の毛とセットでイジメを受けてたにも関わらず、本人は「チビ」しか認識してなかったって可能性が高いかも……。


現在、三人は未だにシンデレラ城の上にいて、並んで座ってお喋りしている。一応、翅は消してるけど、身体からだに光は纏っている状態だ。ここは、あちこちキラキラしているから、それでも目立たないだろうとの判断である。

一応、榊原(みお)の「ちっこい」発現は、何度か謝って許してもらった。


〈てことはさ、「ちっこい」の以外、障害とかは無いって事だよね?〉

〈もう、また「ちっこい」って言う〉

〈あ、ごめんごめん。まあでも、「ちっこい」は障害じゃないんだから、良かったじゃないの?〉

〈良くない。てか、澪も紗理奈も小さいのは同じでしょ?〉


そこで紗理奈が割り込んできた。


〈「ムシ」の子はね、みんな、小柄で華奢な子ばかりなんだよ。そういうのを「ムシ体型」って言うの〉

〈何それ、詳しくプリーズ〉

〈「ムシ」の子は、誰もが金髪かそれに近い髪で、小柄で華奢で色白なの。それに、障碍を持ってる事が多いんだ。実はね、私も弱視で難聴だったの〉

〈えっ、マジで?〉

〈「ムシ」になったら、治っちゃったんだけどね……。あ、でも、澪は違うから〉

〈えっ、澪も障害があって、治ってないって事?〉

〈私、左腕の肘から先が無いの。これ、実は義手なんだ〉

〈ええーっ!〉

〈まあ、「ムシ」になった今は、これも個性だと思ってる。てか、そう思えるようになったんだ。今は普通の人が出来ない事が色々とできるから、腕の一本くらい、どうでも良いって感じ〉

〈うわあ、澪って、かっちょ良いじゃん〉

〈ふふっ、澪は、カッコ良いだけじゃないんだよ。実は、お嬢様なんだ〉

〈紗理奈だって、本当はそうじゃない〉


そこで澪の目が少し遠くの大観覧車を捕らえた。ちょうど良いと思った澪は、〈そろそろ移動しない?〉と提案した。


〈この続き、あそこの観覧車の中で話そうよ〉



★★★



閉園時間まで残り少ないとあって、大観覧車には男女のカップルが多数押し掛けていた。それでも、スタッフの不手際と要領の悪い客とが重なった時には、どうしても乗客無しのゴンドラが生じてしまう。そんなゴンドラを素早く見付けた紗理奈は、先にに苺を押し込んで、次に澪に入るように促してくれる。

澪と紗理奈は直ぐに変異を解いたのに、苺はゴンドラの真ん中に漂ったまま。〈さっさと変異を解いて座りなよ〉と言ってやると、翅が半分の大きさになった。身体からだに纏う光も弱まって、苺のピンクブロンドの髪とピンクのジャージが露わになる。


〈あはは、苺らしい恰好だねえ〉

〈そう言う澪は、やっぱりお嬢様なの?〉


苺が言う通り、今の澪は余所よそ行きの白いワンピ。フリル多めなので、お嬢様に見えてもおかしくない。


〈でも、紗理奈だって水色ワンピじゃない〉

〈紗理奈は、社長令嬢だからでしょう?〉

〈あら、澪だって社長令嬢だよ。しかも、あのサカキバラ商事だから〉

〈げっ、マジ?〉


さっきは言いそびれたからか、すかさず紗理奈の心話が飛んで来た。苺の問い掛けにも澪は、仕方なく頷いてやる。


〈うーん、もうちょっと隠しときたかったのにぃ〉

〈どうせ、直ぐにバレるでしょうが〉

〈そう言う紗理奈だって、東山モビリティの社長令嬢でしょうが〉

〈げげーっ、紗理奈もなの? うちが使ってる車も東山モビリティなんだけどー〉

〈でもさあ、苺の家も割とデカかったよね?〉

〈うちは、サラリーマンだよ。まあ、共働きで、どっちも外資系だから普通のリーマンよりは給料が高いとは思うけど〉

〈そっか。うーん、福島のお姉さん達には、あんまり言わない方が良いかも〉

〈えっ、福島のお姉さん達って?〉


苺の質問に紗理奈が答えていると、地上が近付いて来る。澪は二人に、〈そろそろ出るよ〉と言って、昇降口の反対側へと飛び出して行く。二人は、直ぐに付いて来てくれた。


〈まだパレードがやってるみたいだから、行ってみる?〉

〈そうだね。行ってみようよ〉

〈わーい、パレードだあ!〉


最後に苺が騒いでたけど、今ひとつ不安だ。そして、案の定、苺は、パレードの中に飛び込んで、カボチャの馬車の屋根で踊り出す。その様子は、プロのダンサーと見分けが付かないレベルだ。背中の小さな赤い翅の影響で、他のダンサー達より目立っているかもしれない。

一方、澪と紗理奈の翅は大きすぎて、翅を仕舞って踊りに加わるか、やや上方をゆっくりと舞うしか選択肢が無い。当然、いつもは前者一択なんだけど、今夜は身体からだを発光させて、ペガサスの背中に座ってみた。澪と紗理奈の二人乗りだ。ただ座ってるだけでは芸が無いので、曲に合わせて身体からだを揺らしていたら、だんだんダンサーの気分になってきた。

そのペガサスは、台車の上に鉄パイプで作られた骨組みに支えられている。当然、人なんて乗せられない張りぼてなんだけど、光を纏った身体からだなら乗っても大丈夫。澪と紗理奈が見物客に手を振ると、直ぐに反応を返してくれる。


〈ねえ、紗理奈。これって、楽しくて病みつきになるかも〉

〈私も、そう思う〉

〈でも、苺には負けるよね?〉


苺のダンスは、次第にアクロバットが加わって、小さく宙返りしたり、翅を動かして飛び上がってみたりと、観客を飽きさせないパフォーマンスに余念がない様子。元々リズム感が良いのか、ちゃんと曲に合った動きをする辺りも、プロのダンサーと思わせる要因になっていた。


そうして、最後のエンディングになると、澪と紗理奈は大きな光のチョウになって舞い上がる。その後ろを小さな苺がちょろちょとと付いて来る。

再びシンデレラ城の塔の上に戻って来た三人は、興奮気味に乾燥を言い合った。


やがて閉園時間が過ぎて、地上の灯りが落ち始めた頃、澪が思い付いたように紗理奈に言った。


〈そういや、今日は紗理奈の誕生日だったね〉

〈えっ、紗理奈、誕生日なの?〉

〈うん〉

〈うわあ、誕生日、おめでとう!〉

〈ありがとう〉

〈でも、ごめん。プレゼントが無いや〉

〈あ、私も忘れてた〉

〈澪は、古いゲームソフトとかで、もう飽きた奴で良いよ〉


最近、澪がタブレット端末でも出来る様々なゲームを教えてあげた所、割とハマってしまったようなのだ。


〈うーん、アタシはどうしよっかな……〉

〈苺からは、要らない。もうプレゼントは貰ってるから〉

〈えっ、どういう事?〉

〈私の大好きな「苺」をくれたじゃない?〉

〈えっ?〉

〈私は、食べ物のイチゴも大好きなんだけど、今夜、私が貰ったのは、もっと素敵なもの。大切な仲間だよ。それが私にとっては、最高の誕生日プレゼントだったんだ!〉


そう言って、ニッコリと笑った紗理奈は、薄っすらと纏った光とも相まって、とってもキラキラと輝いていた。




END048R


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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