044:紗理奈の中学デビュー(2)
◇2041年4月@東京 <東山紗理奈>
入学初日に小川真花という友人を得る事が出来て、東山紗理奈の中学デビューは、一見すると順調に見えた。だけど彼女は、それがとんでもなく検討違いだという事を、入学二日目にして実感する事になる。
入学式の日に担任の堀内杏里が、「このクラスに金髪の子が二人いるけど、どっちの子も地毛だから、変な目で見ないであげて頂戴」と言ったのには、ちゃんとした理由があったのだ。
その事を紗理奈が最初に目撃したのは、下駄箱での事だった。そこに真花の姿を見付けた紗理奈は、駆け寄って「おはよう」と声を掛けた。だけど、真花の方は、何故か浮かない様子。
その真花は、自分の下駄箱の前まで行くと、エイッと勢い良く開けた。途端に漂う腐臭。そこにあったのは、明らかに生ゴミだった。
彼女は持参したトートバックからゴミ拾い用のトングとレジ袋を取り出すと、中のゴミを丁寧に取り出して行く。それから、ウェットシートで中を拭って、それもレジ袋へ。更にトートバックから上履きを取り出すと、それを履いて、脱いだ学校指定のローファーを下駄箱へ。
その間、真花は、終始全くの無表情だった。
「あ、あの、小川さん。靴を下駄箱に入れちゃうと、また悪戯されるんじゃ……」
「大丈夫。放課後までは安全だから」
「そうなの?」
「うん」
そんなやり取りをしながら、真花は昇降口に置かれた大きなゴミ箱に、エイッと生ゴミの入ったレジ袋を投げ込んだ。
「あのー、あんまり言いたくは無いんだけど、私と付き合うと、東山さんまで私と同じような目に遭っちゃうよ」
「平気。私、そういうのは慣れてるから」
「あなたもイジメられてたの?」
「うーん、私の場合は、もっとストレートな奴だったなあ」
「ストレートって、暴力とか?」
「うん。大勢の男子に取り囲まれて……、リンチって奴?」
「あなた、大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃない事もあったけど、何とか生きてる」
そこで真花は、思い付いたように言った。
「そういや、東山さんって公立校だったね」
「うん。小川さんの話も聞きたいけど、長くなりそうだから、後にしようか」
「あ、そうだね」
気が付くと、一年A組の教室の前に来ていた。
紗理奈と真花が教室へ入って行くと、懐かしいざわめきが起こった。
「うわあ、早速、一緒にお出ましかよー」
「やっぱ、金髪のヤンキーは、直ぐに仲良くなるんだねー」
「でも、堀内先生が地毛だとか言ってたんだけど」
「そんなの、嘘に決まってるじゃん。紙切れ一枚で、真実が隠し通せる訳ないっしょ」
「まあ、そうだよね」
こういう連中に何を言っても意味が無い。噂話をしている集団をスルーして自分の席まで行ったら、椅子の上に画鋲が三つ。紗理奈は、それらを摘まみ取ると、窓から外へポイっと放り投げる。
机に落書きとかはされていないようなので、学習用のタブレット端末を取り出して自習を始めた。
★★★
その後も陰湿なイジメは続いたけど、命に関わるような過激なものではないので、全て紗理奈は無視を貫きとおした。
そうして教室内を観察すると、自分や小川真花の悪口を言っているのは、クラスの三分の一強だと分かった。その彼女達が、きっと内部進学組なんだろう。つまり、真花は初等部の時からイジメを受けていたという事だ。
ところが、その真花もまた紗理奈と同様に、ほとんどイジメに耐えているといった感じがしない。まるで日常業務であるかのように、やられた事を淡々と処理してしまう。
幸いなのは、連中が過激な事を一切して来ない事だ。机の落書きなんかをしない所からして、恐らく、担任の堀内先生に発覚するのを恐れている様子。なので、紗理奈には全く怖くない。何たって、紗理奈の前の学校では、その先生が率先して紗理奈を虐めていたのだから……。
入学して三日目からの二日間、実力テストがあった。特に二日目は土曜日で、公立校しか知らない紗理奈には、土曜なのに学校があるってのが新鮮に思えた。
そのテストは、小学校の時と同じ大手教育企業による全国共通テストのようだけど、内容は意外と難易度が高くて、ターゲットを成績上位者に置いているのは明らかだった。
テスト結果は、翌週の後半にならないと分からないとの事。コンピュータによる採点なので瞬時に結果が出るのだが、学校によって実施日が若干前後にズレる為の措置だという。
終了後、紗理奈が真花に「難しかったよね」と言うと、彼女から「別に」と返ってきた。
「実力テストは、いつもあんなもんだよ。東山さんの場合は、違ってたの?」
公立校で受けた実力テストは優しい内容ばかりだったから、レベルが違うのは間違いない。でも、画面に時々現れるロゴマークには見覚えがあったので、きっと同じ会社が作ったテストだと思われる。全国共通テストを謳いながらも、たぶん複数の異なるレベルの物が用意されていて、学校の実情に合わせて選べるようになっているんだろう。
もっとも、紗理奈の場合、「難しいと感じた事」イコール「出来なかった」ではない。むしろ、「やりごたえがあって、面白かった」というのが、彼女の正直な感想である。
ちなみにテストの媒体は、紙ではなくタブレット端末上に文字や数字を打ち込む形式だ。メモ用紙を持ち込む事は可能だけど、たいていの生徒は、タブレット端末上のメモ機能を使っているようで、紗理奈も同じだった。
★★★
翌週になると紗理奈は、実力テストが終わった事での解放感を覚えて、教室でリラックスしていた。小川真花はと言うと、見た所、全く普段通りである。
その一方で、内部進学組による二人へのイジメは激化した。と言っても、物が無くなるといったパターンじゃなくて、真花と同様、紗理奈の下駄箱にも生ゴミが投げ込まれた程度。それなら、真花が毎日持参して来るトングとレジ袋で問題なく対処できる。
あとは、教室内で囁かれるというか、もはや声高々に交わされる悪口の数々だけど、面と向かって何かを言って来たり、手を出されたりする訳じゃない。単なる騒音であれば、自席に座って耳にイヤホーンをすれば問題ない。
そうこうするうちに紗理奈は、「ムシ」の能力で不要な会話を無意識にシャットダウンできるようになり、その子達に感謝したい気分になった。
だけど、そんな事が続いた昼休み、二人一緒に食堂で昼食を食べていると、「あの、言い難い事なんだけど……」と真花が切り出してきた。
「私、トイレで何となく聞いちゃったんだ。東山さん、もうすぐ呼び出しを受けるみたい」
「えっ、先生から? 私、何もしてないよ」
「ううん。内部進学組の上級生だと思う。毎年、この時期に素行の悪い生徒を校舎裏とかに呼び出して、個別に指導するらしいの」
「ふーん。なんか楽しみかも」
「えっ?」
真花は、紗理奈の反応が意外だったのか、キョトンとした顔をしている。
「大丈夫。私、そういうのには慣れてるから」
「そ、そうなんだ」
「うん、任せといて」
★★★
上級生からの呼び出しは、その日のうちにあった。時間は放課後で、場所はお決まりの校舎裏。まさに、典型的なイベント発生だ。
紗理奈は、先に真花を帰らせた後、喜び勇んで指定された場所へと向かった。
相手の数は十二名。その内、上級生は半分くらいだろうか?
だけど、そいつらは、なかなか紗理奈に手を出して来ない。ひたすら悪口を並べ立てるだけだ。
痺れを切らした紗理奈は、不敵な笑みを顔に貼りつけながら言った。
「ねえ、あんた達、向かって来ないの?」
「向かって来ないって、どういう意味ですの?」
「暴力に決まってるでしょう? てか、あんた達、武器は持ってないの? 銃とかはムリでしょうけど、金属バットとか鉄パイプとか、色々とあるじゃない」
「な、何を野蛮な……」
「野蛮なって、こういう所に呼び出したんだったら、集団で殴る蹴るの暴行が当たり前でしょう? 大丈夫。私、経験あるから。武器も持たない女子なんて、二十人いたって平気だよ」
「……っ」
「知ってるでしょう? 私が公立校出身だって事。あっちじゃ、こんなのは日常茶飯事。私、本物の拳銃で撃たれた事だってあるんだからね。当たらなかったけど……」
話ているうちに、紗理奈は笑いが込み上げてきた。こういうのも、たまには楽しいかもしんない。
すると、集まった女子達の何人かがパラパラと去って行く。それで紗理奈が不満そうに、「ええーっ、もう逃げちゃうのー!」と言ったのがいけなかった。
残った連中がパニックになって、甲高い声で叫びながら一斉に逃げ出したのだ。
紗理奈は、落胆した。ようやく、榊原澪の竜巻の技をマスターしたってのに、せっかくの見せ場が無くなっちゃったじゃない!
それどころか、「ムシ」になる必要すら無かったなんて、期待外れって言うか、しらけちゃう……。
それでも、紗理奈は軽く肩をすくめただけで、迎えの車が待っている駐車場の方へと歩いて行った。
END044
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
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※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
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※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
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※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




