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043:紗理奈の中学デビュー(1)

◇2041年4月@東京 <東山紗理奈>


最近の東山紗理奈(さりな)は、東京精霊女学園中等部への入学準備に余念が無かった。と言っても、大半の事は家政婦の松川愛子がやってくれるので、紗理奈は確認だけで済む。

それ以外の時間は、お勉強メイン。入学早々に実力テストがあるというので、受験が終わっても手を抜けないのだ。


とはいえ、当然、他の「ムシ」達とは会っている。一番多いのは榊原澪さかきばらみおで、手塚真琴てづかまこととも、二度ほど会った。

真琴の場合は、双方が東北自動車道沿いに移動し、利根川付近まで待ち合わせる形だ。その後、付近を飛んだり適当な所で休んだりしながら、延々とお喋り。お互い、夕食の時間までに帰るといった感じ。

それから、水戸の石井めぐみが、本当に東京ネズミーランドを目指して飛んで来たのには驚いた。


三月に入って早々に石井めぐみは、矢吹天音やぶきあまね樫村沙良かしむらさら小室繭菜こむろまゆなの三人の「ムシ」達と、彼女達の母親達に協力してもらって、無事に両親へのカミングアウトを行ったという。

最初は、幼馴染の宮本和馬(かずま)に告白。翌日の日曜日、三人の「ムシ」達が各々の母親を連れて、水戸のめぐみの家を訪問。「茶髪の子の保護者会」を名目に話を勧め、最終的に「ムシ」の存在を認めてもらったそうだ。

その際、既に何度か説明した実績のある沙良の母親、樫村沙奈(さな)が、惜しみなく力を発揮したという。彼女は大手メーカーの研究員であり、研究費獲得の為、日頃から理路整然とした説明プレゼンテーションに慣れているらしい。


実は、紗理奈も「行きましょうか?」と言ったのだが、速攻で断られてしまった。


『有難くはあるんだけど、紗理奈ちゃんの場合、逆効果になっちゃう気がするんだよねー』

「天音さん、それ、どういう意味です?」

『そんなの決まってるじゃん。あんた、あたしと一緒で、喧嘩っぱやいでしょうが。それに、『ムシ』になった時の見た目だって迫力あり過ぎて、初めての人にはマイナスなのよ』


石井めぐみが指摘した通りである。めぐみは一見するとバカそうだけど、意外にも頭は良いようだ。


という事で、紗理奈と澪は、二日間、東京ネズミーランドで大はしゃぎするめぐみを、必死に押し留める役をやらされた訳である。


そんな事があった翌日から、いよいよ暦は四月になっていた。



★★★



東京精霊女学園があるのは、東京都江東区。紗理奈が使う交通機関は、父の孝太郎が経営する会社、東山モビリティのシェアカーである。別に一人でも良かったけど、行きだけは近所のOLのお姉さんが同乗してくれる事になった。その方が安全だからという事だ。

と言っても、入学式の時だけは別である。その日は保護者代理として、家政婦の松川愛子が同行してくれた。

その松川は、出掛けに家の玄関で紗理奈の写真を何十枚も撮ろうとする。正直な所、紗理奈は少し照れ臭かったけど、そんな事をしてくれる家族はいないので、精一杯、協力してやった。


東京精霊女学園の制服は、紺野ブレザーに白のブラウス、青系のチェックのスカート。胸元のリボンは中等部が赤で、高等部は水色だ。

都内でも可愛い制服のランキング上位にリストアップされている。榊原(みお)の城北大付属女子中学校が割と地味な制服の為、羨ましがられて宥めるのが大変だった。


入学式が行われる講堂は、古い木造の大きな建物。そろそろ立て直す予定との事だが、なかなか寄付金が集まらないらしい。

同じ制服姿の女子ばかりの講堂は、紗理奈の目には少々異様に映った。


式自体はありきたりなもので、直ぐに終わってしまった。印象に残った事と言えば、校長先生の頭頂部が、真上からのライドでテカテカと光っていた事だろうか?


入学式の後は、予め連絡されているクラスへと移動する。中等部と後頭部が同じキャンパス内にあるので、建物が多くて移動が大変そうだけど、スマホの校内専用ナビアプリがあるから迷う事はない。

紗理奈のクラスは一年A組。席順は決まっていて、紗理奈は決められた窓際の中ほどの席に座った。


やがて、教室に入って来た先生を見て、紗理奈は思わず息を飲んだ。その人は、面接の時、髪の毛の事で紗理奈を擁護してくれた女性教師だったのだ。

その先生は、堀内杏里ほりうちあんりと名乗った。それから自己紹介に入る前に、「このクラスに金髪の子が二人いるけど、どっちの子も地毛だから、変な目で見ないであげて頂戴」と言ってくれた。


紗理奈は、『もう一人の子は誰だろう』と思って教室を見回してみたら、前の方の席にいる子がそうだった。名前は、小川真花(まはな)。小柄な紗理奈よりも、更に小さい子だ。だけど顔は整っていて、金髪との相性も良く、紛れもない美少女だった。地味な黒縁の眼鏡めがねなんか掛けてるけど、案外、男避けなのかもしれない。もし共学校だったら、男子の注目を浴びるに違いないからだ。

その子は、初等部からの内部進学組のようだった。そこで、ようやく面接の時にも、その事を堀内先生から聞いたのを思い出した。そういや、その面接の時は、「その子とお友達になりたいです」と言ったんだっけ。


そうこうするうちに紗理奈の順番が来て、名前と出身校だけを言った後、少しだけ考えて、「できれば、お友達になって下さい」と付け加えた。

ところが、紗理奈が座った途端、教室内がざわめいた。


「ねえ、浦安市立西小学校って知ってる?」

「知らなーい。ひょっとして、公立校なんじゃない?」

「まさか。公立校からうちに入る子なんて、普通いないと思う」

「あの子、どう見ても普通じゃなさそうじゃん」

「静かにっ!」


「ムシ」になってからの紗理奈は耳が良いので、どんな囁き声だって聞き取れてしまう。

最後は、堀内先生の叱責で次の子の自己紹介へ移ったけど、紗理奈は『やっぱり、友達を作るってのは前途多難ね』と思ったのだった。



★★★



その日は初日なので、自己紹介の後は、堀内先生から簡単な注意事項があっただけで終わってしまった。

終業の礼の後、直ぐに紗理奈は小川さんの所に行った。何て声を掛けようか迷ったけど、彼女の方から話し掛けてくれた。


「えーと、東山さんだっけ?」

「うん。東山紗理奈だよ。えーと、小川真花さんだよね?」

「うん」


それから紗理奈は、思い切って知りたい事を質問してみた。


「ねえ、小川さんって、お母さんも茶髪?」

「うん。でも、割と濃い茶色だよ。お姉ちゃんは、もう少し薄い茶色だけど」

「へえ、お姉さんがいるんだ」

「うん。姉と妹がいるの」

「わあ、凄い。三人姉妹なんだ」

「うん。そんでね。妹の唯花ゆいかも金髪なんだ」


うーん、この子は「ムシ」になっていてもおかしくないんだけど……。


「あの、小川さんって何月生まれ?」

「分かった。私がちっちゃいから聞いたんでしょう。実は、二月生まれなんだ」

「そっか……。あ、私は四月生まれだけど、ちっちゃいままだから、小川さんの方が大きくなるかもだよ」

「慰めても無駄だよ。まあ、気長に大きくなるのを待つつもり。お姉ちゃんは、そんなに小さくないんだけどね」

「そうなんだ」


二月生まれだったら納得だ。これから「ムシ」になるんだろうけど、その時期は、きっともうすぐだ。


「それと、その眼鏡、伊達じゃないよね?」

「もちろん、違うよ。私、弱視なんだ」

「ふーん……。あ、ごめん。気分を害したんなら、謝るよ」


紗理奈は、慌てて付け足した。


「でも、何で、そんなこと言ったの?」

「えーと、どっかでちゃんと話さない?」

「私、ママが車の所で待ってるから、あんまり時間が無いんだ」

「そうなんだ。実は、私も弱視だったんだけど、治ったんだ」

「えっ?」

「まあ、信じないよね。でも、大丈夫。小川さんも、もうすぐ治ると思う。あ、もう時間みたいだね」


気が付くと、教室に残っているのは紗理奈達二人だけになっていた。

そして、教室に入って来たのは、茶髪の中年女性。たぶん、小川さんの母親なんだろう。

その人は紗理奈を見るなり、「あらまあ」と大きな声を上げた。


「あなた、日本人なのよね?」

「はい。私の知っている限り、外国人の血は入っていない筈です」

「なるほど。うちの子だけじゃなかったって事ね。うちの下の子二人が、あなたのように金髪なの。一番上の子だけは、私より少し薄いだけの髪色だったんだけど、真花が生まれた時はびっくりしたわ」

「実は、私の従妹いとこの姉妹も金髪なんです」

「なるほど……。あ、うちの子、大人しい子で、あんまりお友達がいないみたいなの。だから、あなたみたいな子がお友達になってくれると、助かるわ。だから、宜しくね」

「ちょっ、ちょっとママ」

「別に、良いでしょう。この子、しっかりした良い子じゃない」


という訳で紗理奈は、入学初日にして新しい友達をゲットしたようである。




END043


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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