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040:オフ会前のデート

◇2041年3月@福島県郡山市 <関口仁志&矢吹天音>


未確認飛行少女(UFG)情報サイト」第三回オフ会開催の当日の朝、関口仁志せきぐちひとしは郡山駅行の高速バスの車中にいた。隣の窓際の席には、矢吹天音やぶきあまねが座っている。今朝から彼女は、機嫌が良い。そして、やたらと関口に話し掛けてくる。

最近の天音は割と頻繁に郡山にも行っているのだが、いつも高速バスなんて使わない。「ムシ」になって飛んで行けば、一時間も掛からずに着いてしまうからだ。

逆に郡山の玉根凜華たまねりんかも時々岩木市に来るが、全て自分の翅で飛んだりはぜす、大半の道程は磐越自動車道を走るトラックの荷台に乗っていると聞く。そこら辺の違いは、二人の性格の違いもあるだろうけど、たぶん、「ムシ」としての能力の差も関係しているんだろう。


ともあれ、普段は「ムシ」になって飛んで行く天音が、何で今朝は隣にいるのかが、正直、関口には分からなかった。

それに、オフ会は午後一時からだから、こんなに早く行く必要なんて無いのだ。それなのに早朝のバスに乗ったのは、隣の席の天音の希望である。彼女は、「せっかく郡山に行くのだから、ついでに郡山市立美術館でも行ってみましょうよ」と言ったのだ。誰のかは忘れたが、何でもアメリカのシカゴ美術館から、割と有名な絵画が来ているらしい。

それを見た後は、やはり天音が行きたいというパスタ屋で食事をする事になっていて、密かに関口は『まるで、デートみたいだな』と思ったのだが、当然、天音には言っていない。恥ずかしいし、余計な事を言って今の関係を壊したくないからだ。


天音としては、関口が四月から東京に行ってしまうので、今のうちに少しでも自分を彼にアピールしておこうと彼女は必死なのだが、残念ながら彼には伝わっていなかった。

高校二年の夏に天音と知り合って、一年と七カ月。それまでの関口にとって、女子は未知の生命体だった。その後、それこそ試行錯誤しながら彼女達と付き合ってきて、現在に至る訳だが、未だに彼の試行錯誤は続いている。


今では自分の両親よりも身近な存在でありながら、関口にとっての天音は相変わらず良く分からない存在で、だからこそ興味を引くし、何だか愛おしくもある。正直な所、もう絶対に手放したくなんてないのだ。


遅れて芽生えた彼の未熟な恋愛感情は、まだまだ発展途上のようである。



★★★



先日、合格発表を見る為に岩木高校を訪れた矢吹天音は、その事を最初に関口仁志へ伝えたいと思った。だけど、良く考えてみれば、彼の方は、まだ志望校の合否を待っている状態。自分のメッセージが嫌味になるのを恐れた彼女は、一瞬だけ躊躇ためらって、結局、送付ボタンを押してしまった。優しい彼なら絶対に喜んでくれると思ったし、むしろ連絡しない方が悲しむって気がしたからだ。

案の定、メッセージが既読になり次第、関口から『おめでとう、良かったね』の返信が来た。それに取り敢えずホッとした天音だったけど、よくよく考えると、彼が東大の合格通知を受け取るまでは、次の一手が取れそうにない。天音は彼の合格を信じているけど、彼としては、どっちつかずで落ち着かない心境だろうからだ。


今まで受験生だった天音は、同じく受験生である関口仁志との関係を、なかなか深められずにいた。それを、この三月で挽回しようと思っていたってのに、この状態は、どうにもじれったい。

それに、今までは勉強の分からない所を教えてもらうという名目で、割と自由に彼の自室へ押し入る事ができたのが、もはや、その言い訳が使えないのも大きな痛手だ。

となると、彼が東大に合格したタイミングで、一気に彼の所へ押し掛けるしかない。でも、具体的にどうすれば……。


そんな事を天音がうだうだと考えていた頃、急遽、玉根凜華からもたらされたのが、「UFG情報サイト」第三回オフ会開催の情報だった。

何で凜華かと言うと、最近の凜華は、大槻由佳おおつきゆか従姉いとこである朝香あさか高校生、大槻乙音(おとね)と知り合いになっていて、その乙音こそが関口にオフ会開催を持ち掛けた張本人だったからだ。


『天音さん、これはチャンスですよ。関口さんが郡山に来るとき、天音さんも一緒に付いて来ちゃえば良いんです』

「でも、万が一、関口さんが東大を不合格になったりしたら、気まずくなんない?」

『その時は、天音さんが慰めてあげれば良いんですよ。てか、滑り止めの城北大は合格してるんですから、それでも良いじゃないですか? 城北大合格だって、結構、凄いと思いますよ』

「まあ、そうなんだけど……。あの、私ってオフ会には出られないと思うの。前回も『出たい』って言ったけど、断られたもの」

『別に、オフ会に出なくたって良いんですよ。そのオフ会って、午後なんでしょう? だったら早朝に岩木を出て、午前中は何処どこかでデートして、お昼を一緒に食べてから別れたらどうです? その後は私と一緒に温泉でも行って、デートの結果を聞かせて下さいよ』

「うーん、最後のは余計だと思うんだけど……」


その後、乙音から凜華経由でオフ会の二次会の情報が入り、天音も出席する事になった。そして、「郡山市立美術館を訪れた後に、人気のイタリアンレストランで食事」といった、天音と関口のデートコースまでもが、凜華によって決められてしまったのだった。



★★★



その後に関口仁志は、東大へ無事合格。天音は、その情報を割と早いタイミングで知る事が出来た。情報の入手先は、叔父で岩木高校教諭の金成雅也かなりまさや。つまり、母の涼子の歳の離れた妹である葉子の旦那だ。


その事を知った天音は、即座に「ムシ」になって関口の自室へ飛び込んで行った。昼間で彼の両親がいないからこその行為だったのだが、彼を滅茶苦茶に驚かせたのは言うまでもない。しかも、その時の彼は、未だに自分の合格を知らなかったと言うのだから、尚更である。

何でそうなったかと言うと、金成雅也は、東大のホームページで関口の合格を確認した直後に天音へメッセージを送付。臆病な関口は、その時点でホームページを見るかどうか悩んでいる最中だったのだ。

天音が「ムシ」になって関口の部屋へ飛び込むまでは、僅か三秒。変異を解いて彼に抱き着くまでが一秒で、彼が天音の「東大、合格おめでとう!」の言葉を認識し、今の状況を把握するには、それまで倍の八秒を要した。


「ちょっ、ちょっと天音ちゃん……」

「だから、関口さん、合格したんですってばっ!」

「えっ、でも何で?」

「私、新しくできた叔父さんが、岩木高校にいるんです。で、たった今、関口さんの受験番号が東大のホームページにあったってメッセージが届いて……」


それから、遅ればせながら関口が自分で東大のホームページを確認し、ようやく「天音ちゃん、ありがとう。ぼ、僕、合格したよ……うわあ、バンザーイっ!」となった訳だ。

その後、二人は手を取り合って喜びを分かち合い、そのまま二人の唇が近付いて行って……といった事には全くならず、急に恥ずかしくなった天音は、再び「ムシ」になって自室へ舞い戻って来てしまったのだった。



★★★



とまあ、そんな事があった後で、ようやく迎えた待望のデート(だと思っているのは天音だけなのだが……)の日、お気に入りの水色ワンピにカーディガンといったいで立ちで、天音は「ムシ」になって颯爽と岩木駅前のバスターミナルへと飛んで行った。

荷物は、腰に巻いたウエストポーチだけ。最近、郡山に行く機会の多い天音は、玉根凜華の部屋にお泊りグッズ一式を置かせてもらっているので、一泊程度なら荷物は必要ないのだ。

岩木駅近くのビルの裏手に降り立った天音は、足早に駅前へと向かい、関口仁志の姿を発見。小走りで駆け寄って、「すいませーん、遅れちゃいましたあ」と声を掛ける。


「いや、僕も今来た所だから」

「本当ですかあ?」

「ほんと、ほんと。それより、荷物は無いの? ひょっとして日帰り?」

「いや、凜華の部屋に泊まりますよ。パジャマとか着替えとかなら凜華の所にありますから」

「なるほどね。帰りは、『ムシ』の姿で飛んで帰るって訳だ」

「ふふっ、当然です。だって、タダなんだもん」

「タダって……。そんでも、行きはバスなんだろう? なんか矛盾してるような……」

「あ、バスが来たみたい。行きましょう」


天音は、さっさと関口との会話を切り上げて、バスに乗り込んで行った。



★★★



バスの中は大きな声が出せない事もあって、ありふれた雑談しか出来なかった。だけど、それが却って普通のカップルみたいで天音には嬉しかった。普段の関口とのやり取りは、「ムシ」の将来の事とかが多くて、天音は少々不満だったのだ。

高速バスを降りた後は、普通のバスに乗り換えて郡山市立美術館へ向かう。今回の特別展は割と見たい画家の作品だったから、天音は大満足。だけど、ずっと関口と一緒にいられた事の方が嬉しかった。


天音は、今日の関口が普段よりも口数が多いと感じていた。天音の前だと、いつも割と良く喋る人だけど、何となくテンションが高めな気がする。考えられる理由は希望の大学に合格して舞い上がってる事だけど、天音としては、『今、私と二人だけでいる興奮が、ほんの少しでも含まれていて欲しい』と願わずにはいられない。


そうこうするうちに、予約してあったイタリアンのお店に到着。思ったよりもオシャレな店だったからか、彼は微妙な表情だ。確かに店構えは高級そうだけど、ランチメニューのお値段が割とリーズナブルなのは確認済。他の心配としては、客層が男女カップルばかりって事だろうか?

だけど、それこそが凜華のお勧めの理由。これがデートだってのを、彼に分からせてやる必要があるんだそうだ。

そうして、少しぎこちないながらも、美味しいパスタのセットメニューを楽しく頂いて、二人は足早に店を出て郡山駅へと戻り、天音は「それじゃ、後で」と言い残して関口と別れた。


最後は少し慌ただしくはあったけど、充分に楽しかったから良しとしよう。それに、この後、また直ぐに会えるんだから淋しくなんてない。

そんな風に天音は思い直してビルの谷間に身を隠すと、サッと「ムシ」へと変異した。そして、たぶんヤキモキして自分を待っている筈の玉根凜華と合流すべく、天音は昼間の郡山の空へと舞い上がって行った。




END040.


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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