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039:三度目のオフ会準備

◇2041年3月@福島県郡山市 <関口仁志>


未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の第三回オフ会の話は、一月後半からあった。つまり、そのキッカケは、「ペパーミント」の愛称で呼ばれる大槻由佳おおつきゆかが、「ムシ」になった時に遡る必要がある。


郡山市在住の由佳は、元々「ムシ」予備軍にリストアップされており、彼女の従姉いとこには朝香あさか高校二年の大槻乙音(おとね)がいる。その乙音は、朝香高校生徒会副会長で、朝香高校UFO 研究会の部員でもあった。

今回、関口仁志せきぐちひとしにオフ会開催を持ち掛けてきたのは、その大槻乙音だったのだ。


最初に、関口が大槻乙音と会ったのは、昨年十一月の第二回オフ会だった。その時の彼女は、会場となった喫茶店のバイト店員で、メイドコス姿。一緒に参加した彼の友人の二人、蛭田健吾ひるたけんご江尻貴志えじりたかしの目が爛々と輝いていたのを、彼は良く覚えている。

実は、蛭田と江尻がメイドコスの店員に前のめりだった分、二人とは対照的にクールな関口は紳士的に見えていたのだが、当然、そういう事に鈍感な彼は気付いていなかった。


ともあれ関口としては、それほど多く乙音と言葉を交わした記憶は無いのだが、彼女の方は全く違っていたようだ。

その時、乙音は初めて「ムシ」という存在を知り、それなりに大きな衝撃を受けた。そして、年末年始に従妹の由佳と会った際、本人から「ムシ」予備軍であるのを打ち明けられ、その上、昨年末の「茶髪の子の保護者会」主催によるクリスマスパーティーの時の話を聞き、「ムシ」達の自己紹介や湖上演舞の映像を見せられた彼女は、更に強烈な衝撃を受けたのである。

その際、前回のオフ会の時に入手した情報とか、関口の発言内容とかを思い出した乙音は、大切な従妹の事が改めて心配となり、一月の由佳の「ムシ」発現で、その心配が爆発したという訳だ。


一月下旬、関口が乙音と再会したのは……、と言っても、その時はスマホのミーティングアプリを介してなのだが、大槻由佳が「ムシ」になった翌日の事だった。たまたま矢吹天音やぶきあまねと話していた時、玉根凜華たまねりんかが割り込んで来て大槻由佳を紹介され、その際に一緒にいた乙音も話に加わって来たのだ。そして、その時の乙音は、関口とは知り合いだと明言していた。

だけど、それよりも印象的だったのは、凜華と由佳が乙音に「ムシ」であるとカミングアウトしていた事だ。つまり、この時点で乙音は、完全な「身内」になったって訳だ。

関口が乙音から三回目のオフ会開催を打診されたのは、まさに、その時だった。もはや乙音も「身内」であれば、関口としても、その申し出を無下にする訳には行かない。

乙音が言うには、従妹の由佳が「ムシ」になった後に起こりうる諸々の問題について、『ぜひとも相談に乗って欲しい』との事だった。それと、彼に紹介したい人もいるといいう。


ちなみに、乙音は来春から朝香高校の三年生。見た目は清楚なお嬢様といったいで立ちで、生徒会副会長という肩書からしても、彼女が品行方正な才女なのは間違いない。

成績だけは良いとはいえ、陰キャでオタク気質の関口にとって、乙音は全く釣り合わないというか、本来なら縁の無い筈の「高嶺の花」だ。そんな女子が自ら『会って話がしたい』なんて言ってくるのだから、世の中、何が起こるか分からないものである。


しかしながら、この時の関口は受験生。しかも受験本番が近付いた状態だった為、「受験が終わった後なら」という条件で乙音の申し出を受けたのだった。



★★★



この頃の関口仁志は、つい先日、無事に志望校の東京大学に現役合格を果たしたばかりで、初めての一人暮らしに胸を躍らせていた。

彼が卒業した県立岩木高校は地域で一番の進学校とはいえ、毎年、東大に進学するのは、浪人生を含めても片手にも満たない数でしかない。つまり、それだけ関口は優秀だった訳だが、そんな関口も、本来は地味で目立たないタイプの男子だった。


身長は平均よりも若干低め。体格は細身で見方によっては弱々しい感じだ。男子にしては長めの黒髪を真ん中で分けている。その上、やや童顔で柔らかい印象の女顔と色白な肌とが悪い方向に作用して、彼を気弱な性格に見せていた。

そんな彼も、実は割と目鼻立ちが整っており、綺麗な二重ふたえの瞳とも相まって、それなりにイケメンと言えなくもない。なのに以前は陰キャな性格が足を引っ張っていたせいで、彼の評価を落としていたって訳だ。


とはいえ、彼は実際に運動が苦手で、典型的なインドア派。だけど、見た目ほど気弱では無いし、人付き合いが出来ない訳ではない。

彼は一人っ子で、幼少時から独りが平気だったが故に、無理に友達を作ろうとはしなかった。その上、生まれ付き頭が良すぎたせいで、周囲から避けられていたのは否めない。

そうした諸々の事柄が災いして、今まで彼を地味な男子に見せていたのである。


そんな関口仁志の周囲に最近、女子がひっきりなしに寄って来るのは、実は割と必然だったりする。その事に彼自身は気付いていないようなのだが、彼が矢吹天音と知り合った頃から、彼の評価は既に変わり始めていた。そして高校三年生になった時には、完全に学内の女子達の彼を見る目が変わっていたのだ。

そのひとつは、大学受験が身近になった事で、成績の良い関口がクローズアップされた事にある。それまでは活発な体育会系男子や、遊び慣れて話し易い男子とかが女子の視線を集めていた所に、学力という評価指標が加わった。そうなれば、常に学年一桁の優等生である関口が、女子を含むクラスメイト達の関心を引くのは当然だ。

更に、自らサイトを立ち上げた上に、天音を始めとした多くの「ムシ」達と知り合った事で、彼の内面が変化した。彼女達に様々なアドバイスを与えていく過程で、彼の中に「『ムシ』達の役に立ちたい、彼女達を守って行きたい」といった信念や責任感が芽生えた事が、彼の外見を良い方向に変えていたのだ。


天音と知り合ってからの関口は、「ムシ」や「ムシ」予備軍の子達を中心に、今まで全く縁の無かった女子との付き合いが激増した。と言うか、最近、彼が話すのは女子ばかりと言っても過言ではない。

それに最初は、ずっと年下の少女ばかりだったのが、近頃は、大槻乙音のように歳の近い女子が含まれるようになった。


ところが、そんな風に、一見すると我が世の春を謳歌しているかに見える関口仁志だが、相変わらず本人には全く自覚がない。その上、最近は勉強の分からない所を教えてもらう名目で、平気で自分の部屋に入り浸るようになった天音の事でさえ、彼は未だに「妹分」としか考えていない様子。

玉根凜華を始めとした「ムシ」の子の多くが口癖のように、「ラブラブですねえ」と揶揄からかっても、単なる挨拶程度にしか思っていないのは明らかで、それが近頃は、天音の悩みの種だったりするのである。



★★★



発起人が朝香高校の大槻乙音であるように、今回のオフ会参加予定メンバーのほとんどが、朝香高校UFO研究会メンバーと、その関係者だった。というか、それ以外のメンバーとなると、岩木市から駆け付けた関口仁志と江尻貴志の二名のみといった状況だ。

今回、蛭田健吾は不参加。彼は東京の私立を何校も受験するも不合格続きで、滑り止めの一校だけに合格した。それで浪人するかどうかで悩んでいたが、結局、その東都国際大学という私大に行く事にしたらしい。だけど、本人は傷心旅行と称して、一人で沖縄へ旅行に行ってしまった。

一方の江尻は、国立の千葉大工学部に合格。そして関口は、晴れて東大への現役合格を果たしている。


朝香高校UFO 研メンバーは、全員参加。具体的には、部長の柳田、副部長の小野、四月から二年生になる早坂柊耶(しゅうや)と佐々木(じゅん)、そして生徒会と兼務の大槻乙音と阿部鶴衣(つるえ)である。

更に、乙音が呼んだのが、早坂柊耶の姉であり、前の朝香高校生徒会長で四月から東都大学へ進学する早坂琴音(ことね)、現生徒会長の宗像千乃むなかたちの、そして大槻乙音の従弟いとこで大槻由佳の兄、来春から朝香高校に入学する大槻玲音(れおん)の三人だ。

更に、朝香高校UFO研OBで東大生の二瓶丈晃(たけあき)も帰省中との事で、今回も参加してもらう事になった。


場所は、前回、前々回と同じ郡山駅前繁華街の喫茶店。ただし、前回は大槻乙音と阿部鶴衣がメイドコス姿の店員として働いていて、ほぼ貸し切り状態だったのに対し、今回、貸し切りに出来るかどうかは微妙らしい。それと、バイトの店員については、乙音と鶴衣がUFO研メンバーとして参加する為、別の子が担当するだろうとの事だ。

つまり、その場では第三者に聞かれても良い事しか話せない訳で、言うなれば、未だ「ムシ」は「未確認」の存在と見做しての会話をする必要がありそうだ。

ちなみに大槻乙音によると、会場となる喫茶店は、決してメイト喫茶ではないという。店長の趣味で店員にメイドコスをしてもらっているだけで、店員も納得の上でコスプレを楽しんでおり、中には独自のアレンジを加えた衣装を着ている子もいるのだとか。


それから、オフ会では「ムシ」に関する突っ込んだ話を出来ない為、乙音には「二次会にも参加して欲しい」旨のお願いをされた。メンバーは、関口と乙音の外に、前生徒会長の早坂琴音、現生徒会長の宗像千乃、従妹いとこの大槻由佳、それから、「ムシ」の代表として、矢吹天音と玉根凜華にも同席してもらう方向で進めているそうだ。

場所は、近くのカラオケボックスを考えているらしい。

近頃の天音は、ちょくちょく単身で郡山まで遠出しており、特に高校受験を終えた後は、あちこちの「ムシ」達の下を頻繁に訪れているのを関口も把握している。だから、天音の参加は、別に驚く事ではなかった。むしろ、片道でも同行できればと思ったくらいだ。


という訳で、「UFG情報サイト」第三回オフ会の準備は、大槻乙音の協力の下に着々と進められ、後は当日を待つだけとなっていたのだった。




END039


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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