003:二人の女友達(1)
◇2041年4月@東京 <鵜飼優流>
東都大学の入学式から数日後、鵜飼優流と立花奏音の二人は、学食のテーブルに隣り合って座っていた。さっきから二人が同時に覗き込んでいるのは、大きめのタブレット端末。そこにっ表示されていたのは、「未確認飛行少女情報サイト」だ。
そのサイト上では、何故か「光のチョウ」の事が「ムシ」と呼ばれていた。
「お、また新しい『ムシ』の子が見付かったみたいだぞ」
「ああ、僕も昨日、見たよ」
「その『ムシ』って呼び方、オレ、まだ慣れないんだけどな」
「分かるけど、しょうがないんじゃない?」
「最初は、チョウだけだとは思わなかったって事だろ? それに、確かにチョウも昆虫の一種ではあるんだが、やっぱ、こじ付けっぽいよな」
「そんでも、チョウ以外にも色とりどりの光を帯びたトンボだとかセミだとかがいたとしてさ、そいつらが夜空を飛び回ってる様子を想像すると、なんか幻想的ではあるんだよね」
「あはは、お前って、昔から男のくせにロマンチストなんだよな」
「あのさ、男の方がロマンチストで、女の方が現実的とも言うよ」
「まあ、人によるって事だな」
育ちが良いからか、奏音は少し夢見がちな所のある奴だったりする。そのくせ、お化けだとか怪奇現象だとかには弱いのだけど……。
「けどさ、このサイトの管理人って、元から虫の類が大っ嫌いだったみたいだぞ」
「普通は誰でもそうなんじゃない? 僕も毛虫やムカデやナメクジとか、大っ嫌いだけどね」
「昆虫の話なんだけどな」
「昆虫でも、Gの事は大っ嫌いだよ」
「ゴキブリなら、たいていの奴は嫌いだろ」
「あとは、スズメバチだとかカマキリだとか……、それと、バッタやコオロギだって、良く見ると怖いよね」
「そうか? コオロギとか可愛いけどな」
「それは、普通のサイズだからだよ。夜中に巨大なコオロギと出くわしたりしたら、絶対に怖いと思う」
「あのな、サイズがデカけりゃ、何だって怖いんだよ。実際、初めて『ムシ』に遭遇した人は、『化け物だあ!』って逃げ出すって話だぞ」
「優流は、そうじゃなかったんだよね?」
「先に、女の子の方を見てたからな」
そうやって二人がのんびりと話していられるのは、既に昼の混雑時を過ぎていて、学生がまばらにしかいないからだ。今、この学食にいる連中は、大半が友人やサークル仲間とかで集まって、優流達と同様にお喋りに興じている。その為、時々あちこちで笑い声がしたりして、割とうるさい。
「そういや、新しい『ムシ』の子の話だったよな?」
「うん。『イチゴちゃん』って呼ばれてるみたいだね」
何で「イチゴちゃん」かと言うと、翅の色が赤くて黒いつぶつぶがあるからだ。東京近辺で見られる「ムシ」としては三番目。サイズは一番小さい……、ていうか、圧倒的に小さい。その代わり、ちょこまかと複雑な動きをするようだ。
奏音は画面をスクロールして、「イチゴちゃん」のイラストを表示した。そこには可愛らしい女の子の背中に、イチゴににた翅が描かれている。翅のサイズは、小柄な彼女の身長の三分の二くらい。バランス的にはちょうど良いと言えなくもないけど、「アオスジ」とかだと、圧倒的に翅の方がデカいのだ。
ちなみに、最近の傾向としてUFG情報サイトには、画像と同じくらいにイラストが溢れている。それらの中には酷いのもあるけど、大半はレベルが高い。それと、明らかに女性の物と思われるイラストが増えている。つまり、女性の閲覧者が大勢いるという証拠だ。
それには、「エッチな書き込みを根気よく削除する」という管理人の努力があるのは間違いない。このサイトの管理人は、女性の閲覧者を増やしたいようだ。
そんな訳で、ハダカの女の子のイラストは残っていないのだが、チョウの翅を持つ水着や下着姿の女の子のイラストは珍しくない。実際、二人が眺めている「イチゴちゃん」にしたって、極端に布面積の狭いビキニ姿だったりする。
「でも、この『イチゴちゃん』、東京で三番目の『ムシ』って言っても、目撃されてるのは、千葉県だろ?」
「一番多く見られるのは、船橋の辺りって話だよね。ネズミーランドにも良く行くみたいだけど……」
「スカイツリーにもいたそうだぞ」
「『アオスジ』と一緒だったって話だよね?」
「ああ、こないだオレが会った子だ」
「あら、面白そうなの見てるじゃない」
「てか、あんた達、まだ懲りもせずにエッチなサイト覗いてるわけ?」
その時、突然、後ろから相次いで声が掛かった。咄嗟に優流が振り返ってみると、そこにいたのは、二人の女子大生だった。
★★★
「でも、これぐらいだったら、そこまで目くじら立てなくても良いんじゃない?」
「そうかしら、相手を不愉快にさせた時点で、セクハラだと思うんだけど」
「まあ、ロリコンっぽい画像ではあるわね」
「でしょう? 私の周りの男子って、ロリコンだらけなのよね」
「オレは、ロりじゃない!」「これ、ロりとは違うと思う」
「あらあら。君達、仲良しなのね?」
「まあ、小学校からの幼馴染だからな」
「だったら、私も仲良しよね?」
「お前とは、ケンカばかりだろ」
「ふふっ、ケンカするほど仲が良いって奴かしら?」
そこに現れた二人のうち一人は、小川千花。彼女とは、小学校の時からの付き合いだ。と言っても優流の場合、親同士が知り合いってだけで、それほど親しかった訳じゃない。中学がら別の学校へ行ってしまったから、それ以降は会っておらず、こないだ大学で再会したばかりだ。
もっとも、奏音は少し違っていて、中学以降も親同士のパーティーとかで頻繁に顔を合わせていたらしい。
優流と奏音が千花と別の中学へ行ったのは、実は当たり前の事だったりする。三人がいた小学校は「東京精霊女学園付属小学校」という所で、男子は中等部に行けないからだ。本体の東京精霊女学園は、私立の中高一貫校。世間では「精女」と呼ばれる典型的なお嬢様学校で、学力が高い事でも知られている。併設の女子大も、かなり偏差値の高い名門校だ。更に、東大を始めとする有名大学を受験する生徒も多く、小川千花の場合も、そうした外部進学組である。
尚、その「精女」という略称だが、最近は「聖女」と表現される事が多い。そこへ通う生徒が容姿端麗な上に、知性と品位を兼ね備えた女子であるとされている為だが、本当に性格が良いのかは定かじゃない。いや、少なくとも『千花を見てる限り、絶対に違う』と優流は思っている。
いつの間にか千花を含む女子二人は、ちゃっかり優流と奏音の前の席に座っていた。席順は優流の前が千花で、もう一人が奏音の前だ。
「それより、そっちの子は『聖女』の友達か?」
「確かに早坂さんは聖女のようではあるけど、高校は福島なの。あ、こいつら、私の同級生だったんだ」
「ええーっ、男子なのに、女子校に行ってたの? てか、男子の恰好してても、本当は女子? 性転換したとか?」
「あはは、面白い子だね。単に、僕らが通った小学校は、共学だったってだけだよ。中学からは、ちゃんと別の私学へ行ったよ」
「なーんだ。そうだったんですね……。あ、私は、早坂琴音って言います。福島の朝香高校出身です。小川さんとは、同じクラスなんです」
東都大学では、一年の語学のクラスが、高校までのクラスの役目を担っている。人数も四十人くらいで、その時だけは高校時代と同じ雰囲気を味わえるのだ。もっとも、皆が制服でないのは、少し違和感があるのだけど……。
「あ、オレは鵜飼優流。で、こいつは立花奏音だ。宜しくな。で、早坂さん、千花と同じクラスって事は、フランス語かな?」
「はい。そうなんです。えーと……」
「あ、オレ達もフラ語だよ」
「ふふっ、優流くん達がフラ語を選んだのって、女子が多いからなんじゃないの?」
「違うわ。オレは、奏音に誘われたんだ」
「へえ、意外ね」
奏音は、男性にしては小柄で細身の体型だが、女子と見間違えるような可愛い顔付きで、昔から良くモテる。逆に彼の周りで女子同士のいさかいが絶えない事から、やや女嫌いな所があるのだ。
よって、奏音が「女子が多い」所をわざわざ選ぶなんてのは有り得ない。その事は千花も知っている筈である。
「優流にフラ語を勧めたのが僕だってのは、本当の事だよ。姉貴がフラ語を取ってたからなんだけど、変だった?」
「いや、変じゃないけど……。相変わらず奏音くんって、初音さんが大好きなのね」
「別に、そういうのじゃないけど、姉貴に色々と教えてもらえるから楽ってのはあるかな」
「ふーん、そういう事ね」
「あのー、それって、『未確認飛行少女』っていうサイトでしょう?」
その時、おずおずと早坂琴音が声を上げた。
「えっ、早坂さん、このサイト、知ってるの?」
奏音の問い掛けに、琴音はハッキリと頷いたのだった。
END003
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
また次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




