002:優流の告白
◇2041年3月@東京 <鵜飼優流>
鵜飼優流が不思議な少女と出会った翌朝、彼は来月から通う事になる東都大学のキャンパスに来ていた。幼少時からの友人である立花奏音と会う約束をしていた為である。
約束の時間に少し遅れて行くと、彼は待ち合わせ場所の一号棟入口辺りで女の人と一緒にいた。近付いて行くと、彼女が彼の姉の初音さんだと気付いた。
「優流くん、久しぶりね。それと、合格おめでとう」
「初音さんこそ、ご婚約おめでとうございます」
「ふふっ、奏音に聞いたのね。婚約したと言っても、特に何かが変わったって訳じゃないのよ」
「姉貴は、前から海渡さんの婚約候補だったもんな」
「そうね。海渡さんとは、親同士で決めた主に許嫁だったの。だから、今回の婚約は、ただの確認なのよ」
「そうなんですか。でも、今の時代に許嫁ってのは珍しいですね」
「まあ、そうかもね」
「でも、奏音は淋しいんじゃないのか?」
「あ、いや、僕は姉貴が良いなら、別に構わない」
そうは言っても、奏音が淋しそうなのは一目瞭然だった。明らかに浮かない表情だったからだ。
婚約相手の榊原海渡は、初音の三つ年上で既に社会人。その勤め先は、あのサカキバラ商事だ。つまり、海渡はセキュリティの総合商社として世界的に有名なサカキバラ商事の社長令息なのである。
もっとも、初音の父親も相当な規模の貿易会社を経営しているので、彼女もまた社長令嬢である。その上、彼女の母親は著名なピアニスト。要するに海渡と初音は、セレブなカップルという訳だ。
「それで、ご結婚は、いつの予定なんですか?」
「それが、まだ決まってないのよね。最短だと卒業と同時なんだけど、海渡さん次第って感じかな」
はにかみながら答えてくれた所からすると、この結婚話を初音が嫌がっていないのは間違いない。まあ、大学卒業後に即結婚ってのは、早過ぎる気がしないではないんだけど、きっと政略的なものが絡んでいるんだろう。
ちなみに、初音は優流や奏音より三つ年上で、四月から東都大学の四年生。つまり、優流達の先輩って訳だ。
その初音の外見は、小柄で華奢な美少女って感じ。割と童顔なのも相まって、パッと見は、女子高生と言われてもおかしくない。ただし、生まれ付き淡い茶色の髪をしていて、肌も色白。優流は昔から『ちょっとガイジンさんっぽい』と思っていた。
奏音の髪も茶色っぽいけど、初音ほどじゃない。
ところで、初音が東都大学にいたのは、奏音の大学入学手続きの手伝いの為らしい。本来、奏音は国立狙い。それが不合格になってしまい、仕方なく東都大学に行く事になったって訳だ。優流としては「同じ大学に通えてラッキー」って感じだけど、当然、本人には言えない。
一方の優流は最初から私立一本だったので、とっくに入学手続きを済ませている。
優流のモットーは、「何事もほどほどに」。実力以上に背伸びしたって、良い事なんて何もない。余裕を持って「ほどほどに」生きるのが一番だと、彼は常々信じているのだ。
★★★
その後、立花初音と別れた優流と奏音は、大学の近くのコーヒーショップに入った。
今日、優流が奏音と待ち合わせたのは、昨夜の出来事を聞いてもらう為だったのである。
最初は高校の知人達の合否情報を交換し合ってから、優流は頃合いを見て、「そう言えば……」と彼にとっての本題を切り出した。
「……昨日の夜だけどさ、オレ、すっごく不思議な体験をしたんだ」
唐突気味に始めた打ち明け話だったけど、奏音は意外にも真面目に聞いてくれた。
「お前、バカげた作り話だとは思わないのかよ?」
「いや、思わない。だって優流は、そんな真顔で冗談とか言える奴じゃないよね? それに、君が考えたにしては、でき過ぎな気がするんだよ。優流って、想像力、貧困だし」
優流が不思議に思ったのには、理由がある。昔から奏音は、お化けだとか怪奇現象の話が苦手。オカルト映画は絶対に見ないし、遊園地のお化け屋敷すら嫌がるタイプだ。
なのに今日の奏音の反応は、あっさりし過ぎている。まあ、ポーカーフェイスが得意な奴だから、必死に動揺を隠してるのかもしれないけど……。
「本当に、そうか?」
「あのさ、僕達、小学校の時からの付き合いなんだよ」
それから奏音は、おもむろに胸ポケットから手帳サイズの折り畳み式ディスプレイを取り出した。そして、それをテーブルの上に広げると、左手首に装着したウェアラブル端末を操作する。次の瞬間、ディスプレイの上に鮮やかな3D映像が立ち上がった。
「それとさ。ちょっと優流に見て欲しい動画があるんだ」
そう言って奏音は、動画サイトにアクセスして、お気に入り登録されたリンクのひとつをタップした。
★★★
最初のうちは、真っ黒な画面だった。その中央に光の点が現れて、次第に大きくなって行く。何かが近付いて来ているようだ。
ザザーッという雑音に交じって、若い男女の会話が聞こえてきた。
『何か、近付いてくるぞ!』
『ねえ、大丈夫なの? 逃げたほうがいいんじゃない?』
『車の中なんだし、大丈夫なんじゃないか?』
優流は、ザザーッという雑音が急に気になり出した。どうやら、波の音のような気がする。てことは、海岸なんだろうか?
その間にも、光はどんどんと近付いて来る。
気が付くと、最初は点でしかなかった光が形を成していた。
「これって、チョウだよな?」
優流が奏音に問い掛けた。昨夜、彼がベランダで最後に見た「光のチョウ」に似ていたからだ。
「そうだよ。でも、それだけじゃないんだ」
チョウの形が、更にハッキリと分かるようになった。翅は薄い緑。形はモンシロチョウに似ている。
チョウの胴体部分が、金色に光っていた。いや、光ってはいるのだが……。
「分かるかな? 胴体が人の形をしてるんだ」
直ぐ近くまでやってきた「光のチョウ」が、地表に降りようとしている。暗くて分かり難いが、そこは浜辺だろうか?
やがて降り立ったチョウの胴体部分は、もはや疑いようもなく人の形だった。しかも、女性だ。胴体の部分が少しくびれていて、女性特有の丸みを帯びた身体付きが見て取れる。
さっきまでは眩しかった光が、サーッと弱まった。
そして現れたのは、ダッフルコートを着込んだ、まだあどけない顔の少女。小学生のようにも見えるけど、コートの下は制服みたいだから、恐らくは中学生……。
「この動画、先月の終わりにアップされたものなんだけど、実は別の所にもコメント付きで投稿されててさ。優流には、そっちのサイトの方を見て欲しいんだけど……あ、今、アドレスを送っといたから」
優流は、奏音から送られて来たメールのリンクをタップした。すると現れたのは、「未確認飛行少女情報サイト」というタイトル。そして、その下にあった画像を見て、彼は思わず息を飲んだ。
何故なら、そこにあったのはさっき見た動画とは別の「光のチョウ」の画像。
「これって、アオスジアゲハだよね?」
「ああ、そうだ。間違いない。この『光のチョウ』の少女に、昨夜、オレは出会ったんだ!」
END002
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
また次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




