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001:飛行少女との邂逅

◇2041年3月@東京 <鵜飼優流>


東日本大震災から30年が経った2041年3月のその日、テレビはどのチャンネルも大震災の記録と、その後に起こった原発事故の特番ばかりが放映されていた。ネット上でも同じで、動画サイトにも年配者が当時の思い出の数々を絶え間なくアップしている。

鵜飼優流うかいすぐるは、その震災から十年以上が過ぎた後の生まれだ。当然、大して関心がある訳じゃない。両親は計画停電が大変だっただとか、津波の映像が凄かったといった話を良くするけど、当時まだ学生だった二人にしたって所詮は他人事だ。

よって、鵜飼家での大震災三十周年の扱いは、夕食時に少しだけ話題になる程度のものでしかなかった。


その鵜飼優流は、つい先日に高校の卒業式を終えたばかりの十八歳。彼は長い受験勉強の日々を経て希望のトップ私大に合格し、四月からの大学生活に胸を躍らせながらも、久しぶりに自由にできる時間を満喫していた。

そして彼の場合、そうした時間の過ごし方となるとゲーム一択である。最近はVR(仮想現実)ゲームの方が主流だけど、彼はパソコンのディスプレイを見ながらのRPGロールプレイイングゲームの方を好む傾向にあった。しかも、少々クラシックな名作とかがお気に入り。だからこそ、窓の外の変化に気付けたとも言える。


鵜飼家の住居は、東京の荒川沿いに建つタワーマンションの三十二階にある。一人っ子の優流には六畳程の広さの自室が割り当てられており、窓からはスカイツリーを始めとした東京の夜景が一望できる。

そして、その日も夕食後は自室に引き籠り、ゲームに興じていたのだが……。


その時、突然、カーテン越しの外が光った。彼は雷かと思ったのだが、それとは違う感じがする。

気になった優流は、立ち上がって窓際へ寄り、そっとカーテンを捲って外を見た。その途端、彼は驚愕で自分の目を疑うことになったのである。



★★★



優流の部屋の外には、ベランダがある。タワマンの高層階のベランダは、エアコンの室外機の設置や緊急時の避難路確保が目的であって、そこに人がいることは稀である。それなのに、そこには少女がいたのだ。

コートを着た後ろ姿なので曖昧にしか言えないが、歳は小学生くらいに見える。彼女はベランダの端に座っており、両足は鉄柵から外に出してブラブラさせていた。

その周囲に光源は無さそうだ。となると、さっきの光は何だったんだろうか?


いや、問題は、その少女の事だ。

いったい彼女は誰なのか?

そもそも彼女は何処どこから来たのか?


優流は、一度も窓を開けた事が無い。普通、タワマンの住民は、窓を開けたりしない。開けるとしたら非常時か、それこそ自殺でもする時だろう。

少し考えて、彼は窓ガラスをコンコンと叩いてみた。だけど、直ぐに彼は後悔した。

彼女が妖怪か物の怪(もののけ)たぐいだったら、どうするんだ!


実は、この時の彼女の身体は薄っすらと光を纏ってもいたのだが、幸いなのか彼は気付いていなかった。


未だに夢の中のような状態の彼は、カーテンを捲ったまま立ち尽くしていた。本当はカーテンを元に戻して、そっとその場を離れるべきなんだろうけど、身体からだが動かない。

すると、その時、声が聞こえた。甲高い女の子の声だ。


『誰?』


確かに、そう聞こえたのだ。窓ガラスは防音なので余程の音量でないと聞こえない筈だというのに、半ばパニック状態の優流は気付かない。


突然、彼女が振り向いた。と思ったら、ゆっくりと立ち上がった。

彼の目は彼女に釘付けになった。思いがけなく見惚れてしまう程に、その彼女は美少女だったのだ。二人は、分厚い窓ガラス越しに見詰め合った。

まるで人形のように整った顔。薄暗い中でも分かる色白の肌。綺麗な二重ふたえの碧い瞳。そして、さっきは気付かなかったけど、ショートカットの彼女の髪は、とても美しいブロンドだった。


年齢は、やはり小学生に見える。

服装は下がジーンズで、上に暖かそうなアンバーのコート。足元は、ショートブーツ。いずれも高級品っぽい感じからすると、割と良い所のお嬢さんかもしれない。


もしも彼が普段の状態だったら、この時点で彼女が人外の存在だと思った事だろう。

だけど、彼女に魅了されていた彼の口からは、自然と言葉が漏れ出ていた。


「オレは、鵜飼優流って言うんだ。四月から大学生だよ」


割と小声で言ったのに、彼女の耳に届いたようだった。

それでなのか、今度もマヌケな言葉を発してしまった。


「それより、そんな所にいたら危ないよ」

『大丈夫。私、飛べるんだ』

「えっ?」


彼女の発した「飛べる」という言葉が、ちゃんと頭に入って来ない。

彼は、混乱していた。


『ねえ、それより、また会いに来て良い?』


優流は、思わず息を飲んだ。その美少女が彼に向けて笑ったからだ。そして、それは思わず叫びたくなる程にインパクトのある笑顔だった。

だけど、この時だけはハッキリと答えた。


「良いよ。てか、いつでも会いに来てよ」

『ありがとう、お兄ちゃん!』


再び、優流を衝撃が襲った。一人っ子の彼にとっての「お兄ちゃん」というのは、もの凄く魅惑的な言葉だった。

彼は必死に考えて、次の言葉を口にした。


「えーと、君の名前は?」

『私? 私は、紗理奈さりなだよ』

「紗理奈ちゃんかあ。良い名前だね」

『そっかなあ?』


彼の心に三度目の衝撃が襲う。またもや彼女が笑ったからだ。

ところが、本当の意味で驚いたのは、その後だった。


『じゃあ、私、そろそろ行くね。バイバイ、お兄ちゃん!』


その言葉の直後、彼女の全身が強い光に覆われた。そして、その光はどんどんとこ光度を増して行く。彼が眩しくて目を開けていられなくなった時、光は彼女の周囲に広がった。

そして、思わず彼が目を瞑って、再び瞼を開いた時、そこにあったのは単なる光の塊じゃなくて、巨大なチョウの形状をしていた。

さっきの少女が胴体部分で、銀色の光を纏っている。そして彼女の背中には、光で形作られたチョウの翅があったのだ。いわば、それは「光のチョウ」とでも言うべき存在だった。


そのチョウは、次の瞬間には既にベランダから飛び立っていた。そして、銀色の粒子を撒き散らしながら、どんどんと遠ざかって行ってしまう。


その翅は、アゲハの形状をしていた。左右の後翅の下部に長い尾状突起がある。それから、何よりも印象的なのは、外側に反った大きな双弓の模様。色は鮮やかな青緑。

優流は、そのチョウの名前を知っていた。


――アオスジアゲハ!

確か、小さい頃、田舎の野原で見付けたアゲハチョウの一種だ。


その頃の思い出が、一瞬で脳裏に蘇ってきた。


その間にも、「光のチョウ」は急速に小さくなって行く。

やがて、それは光の点になってしまい、その時には既に街の灯りと見分けが付かなくなっていたのだった。




END001


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

第一部から継続して読んで頂いた方にも、新しく読みに来て頂いた方にも伏して感謝申し上げます。

あまりストックが無い状態での見切り発車ですので、投稿が不定期になるやもしれませんが、長くお付き合い頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★



できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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