028:年末の天音と真琴の来訪(2)
◇2040年12月@東京 <東山紗理奈>
タワマン最上階にある榊原澪の部屋に到着すると、直ぐに四人の「ムシ」達は、榊原家の応接室に案内された。
案内役は、家政婦の片瀬尚美。澪から三人の友達が来る事は聞かされていたようだけど、たぶん、どうやって三人が最上階のフロアまで来たのかは、全く聞かされていない筈。それなのに彼女が何も訊いて来ようとしないのは、澪に強く口止めされているからか、それとも、家政婦の派遣元による教育の賜物だろうか?
片瀬が部屋を出て行った後も東山紗理奈は、そんな事をぼんやりと考えていた。
尚、ここに来る前に紗理奈が澪に確認した所によると、彼女の家庭教師として同居している女子高生の坂下美倖は、既に実家に帰省しているとの事。本人は大晦日からで良いと言っていたのを、澪が強引に少し長めの休暇を取らせたのだそうだ。
片瀬はと言うと、年内中は働いていて、正月の二日から休暇を取る予定らしい。
「でも、私達、本当に澪ちゃんの所に泊まって大丈夫なの?」
「はい。と言っても、天音さんと真琴さんに泊まって頂くのは、ひとつ下の階のお部屋ですけど。そっちは、来客用のお部屋が並んだフロアなんです」
初めて榊原家に来た矢吹天音と手塚真琴の二人は、さっきから落ち着かない様子だった。きっと、家具や調度品の豪華さに圧倒されてるって感じなんだろう。
「あの、ご両親とかは?」
「父と兄は、出張でいません。母はパーティーで、帰宅は深夜の筈です。明日の朝は遅くまで寝てますから、絶対に顔を合わせる事は無いです」
「えーと、それで良いのかな?」
「はい。気にしないで下さい」
ちなみに、紗理奈も澪のご両親とは、まだ顔を合わせた事が無い。当然、澪の方も同じで、紗理奈の両親に会ってもらってはいない。
紗理奈の両親の場合、澪を邪険に扱う事は有り得ないのだが、面倒そうなのでスキップしている状態だ。
「うーん、色々と問題だとは思うけど……、もう少し時間が必要かもね」
「はい。そう思います」
「まあ、今回は、私達四人で楽しみましょう」
まるで心の不安を断ち切るように、天音が言った。
★★★
それから、四人の「ムシ」達は、二十八日から三十日までの二泊三日、思いっ切り遊びに遊んだ。四人の内の三人は受験生なのだが、それはそれという事で、全てを忘れて遊び惚けたのである。
初日は、近場の新宿から渋谷のエリアを中心に繁華街を巡り、途中で声を掛けて来る男達を逆に揶揄ってみたり、理不尽な目に遭っている中高生とかを助けてあげたりした。強引な手法で女子高生を手籠めにしようとする輩には、紗理奈が蜂蜜色の髪の毛を動かして、首を物理的に締め上げたりもしたのだが、その時は天音に〈紗理奈ちゃん、やりすぎよ!〉と叱られたりもした。
お昼は青山通りのイタリアンレストランでパスタを食べて、その後、高級ブティックを冷やかしてから、今度はクリープを食べながら代々木公園に行って、イチャつくカップルを見てフリーズ。顔を真っ赤にした挙句に、「ムシ」になって緊急避難。向かった先が赤坂離宮で、真琴が〈うわあ、宮殿みたい!〉と叫んだかと思うと、そのまま迎賓館に飛び込んで行く。
〈ちょっ、ちょっと真琴ちゃん、待ちなさい〉
〈行っちゃいましたよ。どうします、天音さん?〉
〈追い掛けましょう〉
という事で、突然、始まった鬼ごっこ。その後、地中に潜って出て来たのが庭園の噴水で、たまたま周囲にいた人達をビックリ仰天させたのは言うまでもない。
メインの二日目は、早めに朝食を取って、そのまま「ムシ」の姿で東京ネズミーランドへ移動。開館時間なんて関係ないから、イチ早く園内に入り、人気のアトラクションに乗り放題。その後、夜のパレードが終わるまで遊びまくった。
最終日は、水族館と美術館巡り。その後、上野の動物園に行って、ライオンやトラ、キリンにゾウとかと戯れたりした。その際、紗理奈が覚えたのは、腕の先だけ実体化するというもの。それだと、ライオンの鬣をもふもふする事が可能なのだ。
〈こら、紗理奈ちゃん。気を付けないと、腕がなくなっちゃうわよ〉
〈天音さん、それ、澪ちゃんの前で言っちゃダメですってば〉
〈あ、そっか。ごめんなさい〉
とにかく、「ムシ」の状態だと何処だって素通りだから、国会議事堂なんかも自由に入れる。と言っても、国会の開催期間中じゃないのは確認済。やっぱり、大人の邪魔はしちゃいけない。
そうこうするうちに、気が付くと最終日の午後になっていた。
〈ねえ、天音さん、次は何処へ行きます?〉
〈うーん、やっぱり、東京でしか見られないのが良いよね〉
〈となると、何でしょう?〉
〈芸能人とか?〉
〈えっ、芸能人?〉
〈紗理奈ちゃんったら、何を驚いてるの?〉
〈いや、天音さんのイメージとは会わないなあって……〉
〈てか、この四人って、皆、そんな感じだよね〉
〈そういう澪って、案外、ミーハーなんじゃない?〉
〈あれ、真琴さん、何してんの?〉
〈人気アイドルグループのスケジュール確認だけど〉
〈うわあ、真琴さんだって、興味あるんじゃないですかあ〉
〈私は、最近になってからだよ。目が見えない頃は全く興味なかったんだけど、近頃は地上波のテレビで芸能番組にハマっちゃっててね〉
そうして忍び込んだのは、夕方の早めの時間に行われていたコンサート。四人は、そっと天井から忍び込んで、手頃な剥き出しの梁に座って下を眺める。そうかと思うと、真琴が何を思ったのか今度は舞台の裏側へ移動して、カーテンから覗き込んでいる。
すると、次は澪が舞台の下に潜り込み、顔だけ突き出すという暴挙に出た。ダンスの際に踏まれたりするけど、実体が無いので大丈夫。てか、明らかに喜んでるみたい。
結構、滅茶苦茶やってるけど、堂々としてる分、意外と見付からない。楽しくなった紗理奈も便乗して、バックダンサーのフリして踊ろうとしたら、さすがに天音に止められた。
★★★
そんなこんなで三日目の夜になり、最後はファーストフードのお店に入った。そこで四人はハンバーガーを食べながら感想を言い合っているうちに、気が付くと夜の八時。
〈着いたら夜中になっちゃいますけど、大丈夫なんですか?〉
〈大丈夫。「夜、遅くなる」って言ってあるから〉
〈私も大丈夫だと思うんだけど、やっぱり、十一時には帰ってた方が良いかも〉
という事で、慌てて外へと飛び出した四人は、来た時と同じで、澪が真琴を、紗理奈が天音を見送る事になった。
紗理奈は、真琴に手を振って別れた後、まずは常磐自動車道を目指して北上。この時間でも片道三車線の道路が車でギッシリ埋まってるけど、何とか流れているようなので、大きめのトラックの荷台に天音を押し込んだ。
〈取り敢えず、そこにいて下さい。寝ちゃダメですからね〉
〈大丈夫。郡山なら、こうして何度も行った事あるから〉
〈岩木から郡山より、こっちの方が距離があるじゃないですか〉
〈あら、良く知ってるわね。さすが紗理奈ちゃん……ふわあ、眠い〉
〈もう、本当に大丈夫なんですか?〉
今回、前回よりも長く付き合ってみて分かったのは、意外と天音に残念な所があるって事。もちろん、それでも天音が先輩として尊敬する人であるのに違いは無くて、むしろ、前よりも大好きになった。
〈今度は、紗理奈ちゃんが岩木に来る番よ。待ってるからね〉
最後に、そんな事を言われたけど、今の所、いつになるかは分からない。
だけど紗理奈は、天音が最初に「ムシ」になった時に訪れたという岩木夢浜海岸の海を、自分の目で絶対に見てみたいと思うのだった。
END028
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
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※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




