027:年末の天音と真琴の来訪(1)
◇2040年12月@東京 <東山紗理奈>
二十二日の土曜日に二人だけのパーティーをやって、翌日の日曜日もサカキバラ商事のパーティーの余り物でアフターパーティーを行ってからも、東山紗理奈は榊原澪の部屋に入り浸った。
ただし、最初の頃はお喋りだけだったのが、直ぐに勉強会に変わった。と言うのは、二人は揃って受験生だったからだ。そして、坂下美倖が時々そこに混ざる。彼女は澪の家庭教師で、ついでに紗理奈の分からない所も教えてくれるから大助かりだ。
「でも、紗理奈ちゃんがいてくれて、本当に良かったわ。澪ちゃんだけだと、こんなに長時間、集中して勉強してくれないもの」
「そうなんですか?」
「そうよ。一人だと、どうしても集中力が続かないものなの。それに、紗理奈ちゃんの存在は、とても良い刺激になってるんじゃないかしら」
「そうでしょうか?」
「そうに決まってるわよ。私も、紗理奈ちゃんみたいに頭の良い子なんて初めてよ」
そんな会話をしながらも、紗理奈は有名中学の過去の入試問題をスラスラと解いて行く。
「それより、何で紗理奈は東京精霊女学園なの? 城北大付属にしなよ」
「駄目よ、澪ちゃん。紗理奈ちゃんの家からだと、城北大付属は遠すぎるもの」
「うーん、逆に私が『精女』に通うと、割と時間が掛かっちゃうんだよねえ。上手く行かないなあ。いっそ、紗理奈がここに住んじゃえば良いのに」
「そんなのダメに決まってるでしょう。紗理奈ちゃんのお母さんが許さないわよ」
実際には、母の若菜は何も言わない気がする。だけど、現実的でないのは間違いない。
「それより澪ちゃんは、ちゃんと中学でお友達が出来るように頑張りなさい」
「それって、中学デビューって奴でしょう? 私、そういうのには、あまり期待してないんだけど」
「どういう事?」
澪が言うには、彼女の場合、今もクラスで浮いてるって訳じゃないそうなのだ。だけど、それは「サカキバラ商事の社長令嬢だから」でもある。そして、そういった表面的な付き合いというのは、中学になると更に増えるに違いない。
「私だって、人前で愛想良く振舞う事ぐらいは出来るんだよね。でも、それと友達を作るってのとは、別なんじゃない?」
「なるほど。澪ちゃんが欲しいのは、紗理奈ちゃんみたいな友達って訳ね?」
「それはそうなんだけど……。そんでも、紗理奈は特別って気がする」
「そっか。確かに、澪ちゃんにとっての紗理奈ちゃんは、貴重な存在かもね」
紗理奈と澪には、見た目の共通点が多い。だけど、それ以外にも、お互いに社長令嬢だとか、家族との関係が微妙だとか、紗理奈は改善したとはいえ、生まれ付き障碍を持っていたとかの共通点がある。
たふん美倖は、そういう事を言ったんだろうけど、もちろん、本当の理由は別にある。
「……ネットで知り合ったって話だけど、本当に良く出会えたわよね。まさに奇跡だって思うわ」
実の所、紗理奈にとっての澪は、「出会うべくして出会った」存在だ。それに、澪ほどじゃなくても、これから自分は大勢の仲間達に出会えると思っている。
そういう意味では、紗理奈もまた「中学デビュー」には、それほど期待していなかった。
「ふふっ、紗理奈ちゃんも澪ちゃんと同じって顔してるわね。まあ、中学レビューだなんて身構えずに、自然体で行けば良いのかも。私から見た紗理奈ちゃんは、凄く良い子なんだし……」
「あの、美倖さん。私達、まだ中学っ受験の前なんですけど」
「あら、紗理奈ちゃんなら、絶対に大丈夫な筈でしょう?」
唯一の不安は内申点だけど、今の担任教師だったら、決して悪くは書かない筈。
それに、他にも何校か受験する事になってるから、さすがに中学も公立校へ行く事にはならないだろう。
尚、何も期待してなかった筈の中学で、紗理奈は、もう一人の親友と出会う事になるのだが、それはまた別の話である。
★★★
そんな風に年末の日々を二人で過ごしていた紗理奈と澪の下へ、二十八日の金曜日になって更に二人の「ムシ」達がやって来た。福島県岩木市の矢吹天音と、栃木県宇都宮市の手塚真琴である。
その二人は新幹線とかJRの特急とかでやって来た……筈もなく、どちらも「ムシ」になって飛んで来た。しかも同じような時間だったので、天音は紗理奈が、真琴は澪が迎えに行く事になったのだが……。
〈……てことは、天音さん、水戸からは自分の翅で飛んで来たんですか?〉
〈うん。やっぱり年末だよね。常磐道があんなに混んでるなんて初めてだよ〉
普段は高速道路を走るトラックの荷台に乗って楽をするのだが、渋滞でその手が使えなかったという訳だ。
今は自動運転が主流なので、昔ほど渋滞しなくなってはいるのだが、それ以上に交通量が多かったって事だろう。その大半がトラックだという事も、関係してるのかもしれない。今日の金曜日辺りは、年末年始の分を纏めて配送する業者が多いのだ。
〈いやあ、さすがに疲れたよ〉
〈昼間の飛行は、疲れますもんね〉
〈本当だよ……って、朝早く出たってのもあるんだけどね〉
〈天音さん、あと少しですから、そろそろ動きましょう〉
二人がいるのは、大型トラックの荷台の上。首都高が渋滞している事もあって、さっきから目立ってしょうがないのだ。多少なりとも身体が光っている分、荷台に女の子が乗ってるのが一目瞭然。空が曇天なのが災いしていた。
〈ここからだと、ゆっくりでも二十分は掛からないですから、もう少し頑張って下さい〉
周囲の人の目が気になり出した紗理奈は、天音を促して飛び立った。目指すのは、新宿のタワマン最上階にある澪の部屋。そこへ到着する五分くらい前に、澪から「紗理奈、遅いっ!」という心話が飛んできた。
〈仕方ないじゃん。天音さんが、渋滞に巻き込まれてたんだもん〉
〈「天音さんが乗ってたトラックが」って事でしょう?〉
〈高速道路が渋滞してたって事だよ。てか、真琴は?〉
〈真琴さんなら、とっくの昔に着いてるよ〉
〈紗理奈ちゃん、久しぶり。東北道も渋滞続きだったから、ほとんど飛んで来ちゃった〉
〈それは、凄いわね。やっぱり、若いからかしら〉
〈あ、天音さん、こんにちは。真琴です〉
〈澪でーす。天音さんだって、まだ中学生じゃないですか〉
〈もうすぐ高校生よ。まあ、受験に受かったらだけど〉
現在、天音は中学三年生。残り二ヶ月で高校受験なのである。
〈そういや、私達四人のうち、私以外は受験生ですね。まあ、紗理奈と天音さんは大丈夫だと思うけど〉
〈うっ、なんか、私だけ危ないみたいじゃないですかっ〉
〈ふふっ、澪だって、一応は「A」判定なんだから、大丈夫だよ。それに、三つも受けるんだから、最悪、どっかに受かるでしょう?〉
〈うーん、紗理奈に言われると複雑な気分〉
そんな雑談を心話で交わしていた四人の「ムシ」達の眼前に、新宿副都心の高層ビル群が迫りつつあった。
この四人は、全員が「ムシ」達の中でも特別に大きな翅を持つ「タテハ」か「アゲハ」。それだけ飛行速度が速い。
それから二分も経たずして四人の「ムシ」達は、ひときわ高いタワーマンションの最上階にある榊原澪の部屋へ、一斉に飛び込んで行ったのだった。
END027
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




