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026:二人だけのクリスマスパーティー(2)

◇2040年12月@東京 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)は、新宿のタワマン最上階にある榊原澪さかきばらみおの自室にいた。二人の金髪少女の前には、豪華な夕食が並べられている。それらの料理の大半は、普段、澪が部屋で朝食を取ったり、おやつを食べたりする小さめの食卓テーブルにあって、そこにに並べきれない分は、ソファーの前のローテーブルに置かれていた。

今日は十二月二十二日の土曜日。本当は少し早いけど、二人だけのクリスマスパーティーなのだ。

料理のセッティングをしてくれたのは、家政婦の片瀬尚美かたせなおみ。彼女は既に部屋にはいない。その片瀬には、夜の八時までは部屋に入って来ないように言い付けてある。念の為、ドアにカギを掛けてあるから、どのみち勝手には入って来られないのだけど……。


二人だけのパーティーと言いながらも、実は福島の猪苗代湖畔で開催されている、「茶髪の子の保護者会」主催によるクリスマスパーティーとは、スマホのアプリで繋がっている。壁一面の巨大な3Dディスプレイには、そっちのハーティーの様子が一望できるようになっているのだ。

ディスプレイに映っているパーティー会場は、相当に広い。手塚真琴てづかまことからの情報によると、参加者は八十九名との事だ。そのうち四十五名が中学生以下の子供達で、二人以外は金髪かそれに近い髪の女子。保護者の方も母親の方がずっと多く、その大半が茶髪だから、一見して会場内は日本じゃないって感じになっている。


〈凄いね。私、こんなに大勢いるとは思わなかったわ〉

〈ふふっ。別に、茶髪の子の全員が「ムシ」って訳じゃないんだよ〉

〈えっ、そうなの?〉

〈「ムシ」の子は確か十五人で、私達を入れて十七人かな。残りは予備軍って言われてる小学生で、三十人近くいるって話だよ。そん中には、低学年のチビちゃんも割といるみたい〉

〈だけど、それって期待させといて「ムシ」にならなかったら、どうすんの?〉

天音あまねさんが言うには、まず大丈夫だって話だよ〉

〈そっか。じゃあ、安心なのかな?〉

〈たぶんね〉


そこで紗理奈は一拍置いて、自嘲気味に言った。


〈でも、それって変だよね。「ムシ」って「化け物」とか言われてる訳だから、むしろ、そんなのにならなくてラッキーって思うのが普通なのにさ〉

〈紗理奈、それ、本気で言ってる?〉

〈まさか。そもそも私の場合、「ムシ」になれなかったら死んでたもん〉

〈だよねえ〉


そんな話をしてると、突然、ディスプレイに知ってる「ムシ」の子がアップで映り込んだ。

事前に聞かされていた話では、会場に設置されたカメラの下に、大型のディスプレイが置かれているとの事だった。


『ヤッホー、紗理奈と澪、元気―っ?』


相手は、言わずと知れた安斎真凛あんざいまりんである。隣には、彼女が暴走した時に備えてか、玉根凜華たまねりんか紺野鈴音こんのすずねも控えている。


『今日の目玉は、何と言っても、お寿司だよー。なんと、その場で握ってくれるんだぞー』


そう言って真凛は、大口を開けて手元の握り寿司を頬張る。だけど、紗理奈も澪も今ひとつ反応が薄かった。二人の前には、特上寿司が置かれているからだ。

でも、その状況を正確に察していたのは、鈴音だけだった。


『こら、真凛。あんた、大人げないでしょうが』

『でもさあ、これ、マジで美味しいよ。やっぱ、感動は共有しなきゃだよー』

『あのね、真凛。食べ物の場合、画面じゃ共有できないの。はた迷惑にしかなんないんだからねっ』

「大丈夫ですよ、凜華さん。こっちにも、お寿司はありますから」


そう言って紗理奈が、極上のウニの巻き寿司をカメラの前に差し出すと、ディスプレイの真凛の『ぐぬぬ』という唸り声が聞こえてきた。

あきれた声音で、鈴音が口を開いた。


『あのね、真凛さん。紗理奈ちゃんも澪ちゃんも社長令嬢なんだから、食べ物で敵う訳がないじゃないですか』


その視点は凜華も持ち合わせていなかったようで、『なるほど、それもそうね』と納得顔。


『だ、だったら、フライドチキンは? 外はカリカリで中身はジューシーって奴で、サイコーだよー』

『はいはい。真凛さんは、黙って食べてた方が良いですよ。ほら、向こうはチキンが丸焼きになってますからねー』


鈴音の言う通り二人のテーブルには、チキンが一羽丸ごとローストされたのが載せられている。だけど、紗理奈の本音は、その隣のローストビーフの方が好きだったりする。あ、このボイルされたエビも美味しい。ピリ辛チリソースがサイコーだ。

隣りでは澪がバケットにキャビアを載せて、優雅に口へ運んでいた。


その後も、次々と「ムシ」達が挨拶に来て、更には、保護者会の菅野彩佳(あやか)さんや、大谷真希(まき)さんといった事務局の方々も、順番に声を掛けてくれる。


「あ、関口さん、お久しぶりです」


未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の管理人である関口仁志(ひとし)は、「茶髪の髪の保護者会」設立時から関わっており、高校生にして役員でもあるという。紗理奈は、まだ直に会った事はないけど、スマホのアプリで矢吹天音との会話中に良く現れるので、だいぶ顔見知りなのだ。


『やあ、紗理奈ちゃん。わざわざリモートで参加してくれてありがとう』

「いやいや、私達も楽しいですから」

『えーと、澪ちゃんだっけ? 君とは、今日で二度目かな?』

「はい、お久しぶりです」


やがて、ディスプレイの向こうでデザートが出て来て、そこに小学生を中心に大勢の女の子が一斉に群がる。それと同時に、紗理奈と澪も用意してあったショートケーキに手を伸ばした。

更に、もう少しすると、「ムシ」予備軍の子達の紹介が始まった。小さい子もいるので、保護者と一緒に前へ出て短い挨拶を行う。それでも、人数が多いので時間が掛かりそう。


〈じゃあ、そろそろスタンバイしよっか?〉

〈うん〉


そこで紗理奈と澪は、いったんディスプレイの電源を切った。



★★★



澪がドローンを外へと放ってから、二人は素早くコートを着込む。そして「ムシ」に変異して、天井をすり抜けてタワマンの屋上に出る。

変異を解いた途端、強風で吹き飛ばされそうになった。それを懸命に耐えて、澪はドローンを引き寄せ、紗理奈はスマホを操作。

小さな画面の向こうでは、「ムシ」予備軍の子達の紹介が終盤を迎えていた。


紗理奈は、直ぐにスマホをポケットに入れて、マイク付きのワイヤレスヘッドホーンを装着。同じ事を澪も行う。

間もなくして、菅野彩佳(あやか)の声が聞こえた。


『紗理奈ちゃん、澪ちゃん、そろそろ出番だけど、準備は大丈夫?』


紗理奈と澪は、いったん変異を解いて「大丈夫です」と答える。


『じゃあ、合図したら話し始めてね……。ハーイ、スタート!』

「はーい。東京の東山紗理奈でーす」

「榊原澪でーす……。私は東京だけど、紗理奈は千葉なんじゃない?」

「別に良いじゃん。浦安には東京ネズミーランドがあるんだから、東京みたいなもんでしょう?」

「はいはい……あ、私は、十月に『ムシ』になったばかりで、紗理奈とは違って東京のド真ん中の新宿に住んでまーす。今は、その新宿のタワマンの屋上からの中継でーす。じゃあ、紗理奈、行くよ」

「オッケー!」


そこで二人は、同時に「ムシ」へと変異。ドローンと一緒に空中へ浮かんで、ゆっくりとタワマンの周囲を一周した。



★★★



福島のパーティー会場では、正面の壁一面に設置された巨大スクリーンに二人の姿がアップで映っていた。二人とも見事な金髪。それに、一人は青い瞳だ。今の所、青い瞳の「ムシ」は、他に菅波杏樹すがなみあんじゅしかいない。

大谷真希が、『二人とも、フランス人形みたいに綺麗ね』と呟くと、近くの人達が相次いで首を縦に振る。

だけど、本当に驚いたのは、二人が「ムシ」になった姿を披露した時だった。


榊原(みお)の翅は、煉瓦色をベースにした見事な唐草模様。サイズは「タテハ」だから、「ムシ」達の中でもトップレベルの大きさだ。

だけど、それを遥かに凌駕するのが、東山|紗理奈である。彼女の翅は、唯一の「アゲハ」。それも、アオスジアゲハに酷似している彼女の翅には、大きな青緑の模様がある。ベースは黒なのに微かな銀の光が感じられるが故に、翅の輪郭が薄っすらと見て取れる辺りも、美しさに磨きを掛けている。


そんな二人が夜空を舞う姿は、東京の美しい夜景とも相まって、この上なく優雅で、ある種の神々しさすら感じられたのだった。



★★★



紗理奈と澪が福島のパーティー会場の巨大スクリーンに映っていたのは、ほんの五分程度でしかなかった。その前の準備時間を含めても、十五分といった所だろうか?

それでも、二人が澪の自室に戻った時、既に部屋にあった料理のたぐいは、綺麗に片付けられていた。紗理奈は澪がどういう説明をしたのか知らないが、家政婦の片瀬の手によるのは間違いない。


澪は、壁の3Dディスプレイのスイッチを入れた。すると、直ぐに天音と真琴が現れたので、簡単な挨拶をする。この後、猪苗代湖上での「ムシ」達による空中演舞が行われるので、向こうのパーティー参加者は、全員が防寒具を着込んで外へ出るのだと言う。

紗理奈と澪は、天音達に「頑張って下さい」と言い残し、再びディスプレイの電源を落とした。

ちなみに、「猪苗代湖上での『ムシ』達の空中演舞」はビデオカメラで撮ってあって、後で見せてもらえる事になっている。


紗理奈達は、もう一度「ムシ」になって外へ出ると、まずは東京タワーの方向へと飛んで行く。そして到着すると、塔の周囲をグルグルと回り出した。


〈ねえ、紗理奈。こんな風に二人だけのクリスマスも案外、良いかもね〉

〈女の子同士なのに?〉

〈女の子同士だから、良いんじゃない〉

〈そっか……。あ、でも、二人だけってのは、今年だけだと思うよ〉

〈来年は、新しい「ムシ」の子が加わるからって事?〉

〈たぶんね。ひょっとすると、すっごく賑やかになってるかも〉

〈ふふっ、それはそれで楽しそうだね〉


実際、翌年は紗理奈の言葉通り賑やかになるのだが、今の二人は未来の事をあれこれ想像しながら、二人だけの夜を思う存分に楽しむのだった。




END026


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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