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025:二人だけのクリスマスパーティー(1)

◇2040年12月@東京 <東山紗理奈>


榊原澪さかきばらみおの所の家政婦、水森茅乃(かの)を追い出した事で、東山紗理奈(さりな)は彼女と今まで以上に親密になれた気がした。

同じ湾岸の光の上を飛び回るにしても、一人よりは二人の方がずっと良い。一人と違って気の向くままに勝手に行き先を決められない反面、次はどっちに行くかで言い争って、時に相手を言い負かしたり逆に譲歩したりしながら行き先を決めるのが、今は凄く楽しいのだ。

それに、二人だと感想が言い合えるし、色々なお喋りが出来る。一人だと見逃してしまう発見があるし、危険だって回避できる。万が一、何か失敗してしまった時だって、相棒がいれば安心だ。


そうこうするうちに、暦は十二月になっていた。そして、十二月というと、クリスマスである。

既に街のあちこちが煌びやかなデコレーションで飾り立てられていて、道行く人達も何となく浮かれている感じがする。


〈ねえ、紗理奈の所って、クリスマスパーティーとかやらないの?〉

〈家族としては、やっていないんじゃないかな?〉

〈な、何で疑問形なの?〉

〈だって、家族で何かやるとしても、そん中に私は入ってないから〉

〈……〉

〈でも、たぶん、家族ではやってないと思う。お母様と弟は、毎年、進藤家のパーティーに呼ばれてるみたいだし、お父さんは、あちこちの取引先のパーティーを掛け持ちで回ってて大変そうだし……〉

〈ふーん。たぶん、そん中にうちの会社のパーティーも含まれてるんだろうね〉

〈たぶんね。そこに澪も出るの?〉

〈うん。こないだの茅乃さんの件で貸しが出来ちゃったから、今年は出るしかないと思う〉

〈そっか。頑張ってね〉

〈うん〉


社長令嬢にとっての会社のパーティーってのは、大人達に愛想を振り撒くっていう大事なお仕事の場なのだ。そういう機会を全く与えられていない紗理奈だって、それくらいの事は分かってる。


〈そんでも、お腹いっぱい料理を食べても陰口を叩かれたりしないのは、子供の特権だよね。逆に、やたらとデザートとか勧めてくるオジサンとかもいたりして、それはそれで大変なんだけど……〉

〈ふーん。私も、お腹いっぱいケーキとか食べてみたいかも〉

〈まさか、「ケーキ、食べた事ない」とか言わないよね?〉

〈それは無いよ。私の家政婦も不愛想だったり、意地悪したりする人ばいたけど、ケーキくらい出してくれたよ〉

茅乃かのさんみたいな人は、いなかったって事?〉

〈極端に酷い人はいなかったと思う。うちは常に複数の人が来てるってのと、派遣先の査定とかあるからじゃないかな〉

〈そんでも、小さい頃は、放置されてたんでしょう?〉

〈うん。小学校へ行く前は、結構、雑な扱いされてたかも〉


どんな仕組みがあろうと、親に疎んじられた子供の扱いが雑になるのは仕方ないのかもしれない。


〈それで、今年はどうする? いっそ、うちのパーティーに来る?〉

〈えっ、どうやって?〉

〈一人くらい混じってたって、バレない気がする。美倖みゆきさんだっているし〉

〈いやいや、マズいでしょう〉

〈そうかな? じゃあ、終わった頃に来る? お料理とか、残しておくけど〉

〈できるの?〉

〈何とかするよ〉


サカキバラ商事のクリスマスパーティーは二十三日の日曜日。今年はイブの二十四日が月曜日なので、前倒しでパーティーをやる所が多そうだ。もっとも、前から二十四日は本命の為に開けておいて、その前後に仲間とのパーティーをやるってのは、割と普通だったみたいだけど……。


それから話は、「茶髪の子の保護者会」主催で行われるというクリスマスパーティーの話になった。場所は福島県の猪苗代湖畔との事で、そっちは土曜日に予定されている。

紗理奈も澪も福島の方へは行った事が無くて、どういう所かは知らない。イメージとしては、「雪が多い所」という感じだろうか?


〈二十二日の土曜日だと、東山モビリティのパーティーがあるんだ。お母様と弟も出席する筈だから、私はフリーだよ。いっそ、福島まで行っちゃおうかって感じ〉

〈私も土曜日に予定は無いけど、さすがに夜中まで家を空けるのはムリかな〉

〈うちの松川にカミングアウトして、完全に仲間にしちゃえば別なんだろうけどね……。仕方ないから、澪と一緒にいる事にするよ。どのみち天音あまねさんには、「たぶん、行けない」って話してるから大丈夫〉

〈ありがとう〉


矢吹天音やぶきあまねには、『リモートでパーティーに参加して欲しい』と言われている。会場に大きなスクリーンを設置して、そこに紗理奈達の映像を投影してくれるというのだ。

澪の自室にも巨大な3Dディスプレイがあるから、ちょうど良いかもしれない。


〈その日は、私の部屋に御馳走を用意してもらうから、私達も二人だけのパーティーをしようよ〉

〈ディスプレイで、福島のパーティーの様子を眺めながらって事?〉

〈うん。一人でそれやるのは嫌だけど、二人ならきっと楽しいよ〉


という訳で、二十二日の土曜日に、澪の部屋で二人だけのパーティーをやる事になった。



★★★



そうして迎えた十二月二十二日の土曜日。紗理奈は家政婦の松川愛子に、「今日は友達の所に行くから、夕食はいらない」と言い残し、午後の早い時間に家を出た。


当然、電車なんて使わない。人気の無い所でサッと「ムシ」に変異して、空へと舞い上がる。天気は晴れだし、この強い日差しの中では、目立たない筈……。

実を言うと、そう思っていたのは彼女だけ。巨大なアゲハが飛び立てば、そこだけ黒い何かが存在する事は明らかで、気になってしまえば誰もがしっかり見てしまう。そうなれば、もはや隠しようがない。いくら薄ぼんやりだろうと、巨大なアゲハチョウの輪郭は見て取れる。それが騒ぎにならない訳がない……。

やがて、昼間に現れる巨大アゲハの噂は、首都圏でもまことしやかな都市伝説として囁かれるようになって行くのだが、それはもう少し先の話である。


さて、タワマン最上階のみおの部屋に到着した紗理奈は、いつものようにまったりした時間を過ごしていた。

そんな時に飲み物を運んで来てくれるのは、新しい家政婦の片瀬尚美かたせなおみである。歳は、たぶんアラフォーより上。ていうか、オバサンの歳なんて、小学生の紗理奈には分からないし、興味もない。それより、ハッキリと分かるのは、自分が嫌われていないという事。紗理奈は、他人からっ向けられる悪意には人並み以上に敏感なのだ。

だけど、不信感を持たれているのは、どうしても伝わってくる。


〈ねえ、やっぱりバレてるよね?〉

〈でも、さすがに天井から入って来てるとは思ってないよ。忍者じゃないんだし〉

〈タワマン最上階の天井から侵入するってのは、忍者でもムリだと思う〉

〈まあ、そうだね〉


普通、タワマン最上階の榊原家を訪れるには、それなりの手続きが必要なのだ。しかも、ここはサカキバラ商事の最新の技術がふんだんに使われていて、密かに忍び込む事は不可能に近い。

だけど、さすがに空を自由に飛び回れて、しかも壁抜けまで自在に出来てしまう存在がいるなんてのは、絶対に想定外に決まってる。


〈実は、この前、美倖みゆきさんも不思議がってたんだよね〉

〈まあ、そうだよね〉

〈やっぱり、美倖さんには、全て話しておいた方が良いのかなあ?〉

〈うーん、どうだろう?〉

〈どうしても、悩んじゃうんだよねえ。カミングアウトして嫌われちゃったら、どうしようって思っちゃう〉

〈だったら、行ける所まで行けば?〉

〈そうだね……。うん、そうする……。あ、それでさ、これなんだけど……〉


澪は、そこで大きめの段ボール箱から、思い掛けない物を取り出した。


〈これって、ドローンだよね?〉

〈うん。中古品ではあるんだけどね。ネットで買っちゃった〉

〈それは良いけど、どうするの?〉

〈今日の福島でのクリスマスパーティーに私達、スマホのコミュニケーションアプリを介して参加するじゃない。そん時に使おうと思ってさ〉


今日、福島の猪苗代湖畔で行われる「茶髪の子の保護者会」主催のパーティーで、「ムシ」達の自己紹介がある時、紗理奈と澪もリモートで参加するのだ。


〈でも、この部屋ならカメラ以外の機材が揃ってるから、ドローンなんていらないんじゃない?〉


そういった機材が一通り部屋にあるのは、澪が父の陸翔りくとや兄の海渡かいとと、彼らの出張時に連絡を取る為らしい。要は、紗理奈とは違って、前々から澪は、それだけ父と兄に愛されていたという事だ。


〈まあ、この機材を使うのは、月に一回有るか無いかなんだけどね〉

〈そんでも、出張中に娘と連絡が取りたいと思う事自体、澪が愛されてるって事じゃん〉

〈うーん、そうなのかなあ?〉

〈そうに決まってるよ〉

〈そっか……。あ、それでさ。この後の自己紹介の時に、「ムシ」になってタワマンの屋上とかで参加しようと思ってさ〉

〈その姿をドローンに撮影させるって事?〉

〈うん。ちゃんと、予行練習もしてあるんだよ〉

〈あのさ、ドローンって、勝手に街中で飛ばしちゃダメなんじゃなかった?〉

〈自宅だったら、関係ないでしょう? このビル、うちの所有だよ〉

〈うーん、ちょっと違う気がするんだけど……。あ、それと天音さんから、「ドローンの電磁波は『ムシ』の天敵だから、気を付けるのよ」って言われてるんだけど〉

〈充分な距離を保って撮影すれば、大丈夫なんじゃない?〉

〈確かに……〉


という訳で、たった数分間の自己紹介だというのに、どうやら相当に大掛かりな演出になりそうである。




END025


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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