表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/57

024:企みの結末

◇2040年11月@東京 <榊原澪&水森茅乃>


榊原澪さかきばらみおの父の陸翔りくとと兄の海渡かいとが久しぶりに帰って来て、「これから東京にいる間は、余程の事が無い限り、ここに泊まる」と宣言した日の翌朝、陸翔は大阪へ、海渡は福岡へ出張、母のあやは知り合いと観劇、住み込みの家庭教師である坂下美倖(みゆき)と澪は学校へと向かった。

一番最初に帰宅したのは澪だった。すると、家政婦の水森茅乃(かの)が玄関フロアで待ち構えていて、澪が靴を脱ぐのも待たずに鋭く言い放った。


「お嬢様。昨日の茶番劇は、お嬢様が仕組まれた事ですね?」


当然、澪は「えっ、何でそんな事を言うの?」としらばくれるが、それが通るはずもなく……。


「何をふざけた事をおっしゃるんですかね。こないだの日曜日、あの金髪の小娘や美倖と一緒に色々と企んでいたのを、私が知らないとでも思ってるんですか?」

「えっ、聞いてたの?」

「そんなの、当然ですよ……。まあでも、何とか間に合って良かったです。若旦那様が手配した派遣会社の方に、ちゃーんと私から手を伸ばしておきました。今更、私の知らない女なんかに、この家の敷居を跨がせてなんてやるもんですかっ!」


澪は、『マンションなのに、敷居なんてあったっけ?』と思ったけど、口には出さないでおく。


その後も茅乃は、澪の前で散々に悪態を吐くのを止めなかった。その為、澪は玄関口で立ち往生。痺れを切らした澪が、「ねえ、茅乃さん、そこに立って居られると、私が中へ入れないんですけど」と訴えても、全く聞きゃしない。

仕方がないので、澪は薄っすらと身体からだに光を纏った。そして、そのまま茅乃の身体をすり抜けて自室へ向かう。

相変わらず自分勝手な理屈を延々と捲し立てていた茅乃は、一瞬、何が起こったのか分からない様子。それでも二秒後には、後ろを振り返って怒鳴った。


「ちょっ、ちょっとあんた、まだ話が終わってないじゃないっ! ほんと、小学六年生にもなって、礼儀も何もあったもんじゃないわね」

「あの、お言葉を返すようですが、一介の家政婦のくせに主人の娘を『あんた』呼ばわりする人に、『礼儀がなってない』だなんて言われたくありませんね」

「な、何を言ってんの! そんな屁理屈、通用しませんよ」

「あら、屁理屈が通用しないのは、茅乃さんの方じゃないかしら? 今まで自分勝手やり放題だったせいで、世間の常識とか忘れちゃったんじゃなくって?」

「な、何を生意気なっ! ガキのくせに、ふざけないでよっ!」


茅乃が鬼の形相で澪の方に近寄って来るけど、再び身体に光を纏った澪は、全く恐怖を感じない。

その茅乃は、大きく右手を振り上げたかと思うと、澪の頬を目指して力一杯に振り下ろしてきた。しかし、その手は何故か空を切ってしまい、バランスを崩した彼女は、床へ倒れ込む寸前でギリギリ踏み止まった。

それを見た澪は、小さく「ちぇっ」と悪謡を吐く。そして、鬼のような形相になった年配の家政婦を睨み付けて、じっと精神を集中した。



★★★



それは、ほんの一瞬の出来事だった。目の前にいた筈の小娘が、いつの間にかいなくなっていたのだ。


ああ、忌々しい小娘だこと!


水森茅乃(かの)は、自分の脇を平然と通り抜けたと思われる小娘に対し、心の中で精一杯の悪態を吐いた。そして、気が付くと茅乃は、その小娘を呼び止めていた。


「ちょっ、ちょっとあんた、まだ話が終わってないじゃないっ!」


その後も茅乃は、勢いに任せて小娘と言い合いを続け、最後に、「ガキのくせに、ふざけないでよっ!」と啖呵を切ってやった。

ところが、廊下の先に立つっ小娘の顔に、微かな笑みが浮かんだのだ。


それまでの小娘は、やや怯えた表情だった筈。ここで茅乃が働くようになってから、毎日のように見て来た表情だ。自分の何倍も生きている大人が怒ったのだから、怯えるのが当然だ。

それなのに、その余裕のある表情は何なんだ!


茅乃の知る小娘は、気弱で常に怯えている存在だった筈。それが、最近は少し変だ。今だって、こんな風に歯向かってくるのは明らかにおかしい。

それに気付いた途端、茅乃は言い知れぬ恐怖に襲われた。


廊下の先は、他よりも薄暗い。その為、そこに立つ小娘の身体からだが、不気味な光を纏っているのがハッキリと見えていた。それは、あたかも昔話に登場する物の怪のたぐいのようだ。

だけど、この時点での茅乃は、まだ廊下の先の小娘が自ら発光しているとは思っちゃいない。どうせ光の加減だろうと思っている。

だからこそ茅乃は、『お前のような小娘に、ビビッてなんてやるもんですかっ!』と懸命に心を奮い立たせて前に出た。そして、憎たらしい小娘の頬を思いっ切り引っぱたいてやった……つもりだったのだが、何故か頬には当たらずに空を切ってしまう。


その時だった。ふいに茅乃の周囲で、つむじ風が起きたのだ。

彼女のエプロンがバタバタと音を立ててはためく。その直後、壁に掛けてあった絵画の留め具が外れて下に落ちた。ガッシャーンと大きな音がして、ガラスの破片が廊下全体に散らばる。


ギャーッ!


女の汚い叫び声がする。誰だろうと思ったら、自分だ。

その事に気付いた時、茅乃の視界がフェーズアウトして、彼女は気を失って廊下へ倒れ込んだ。



★★★



〈ふーん。そんなんで気を失っちゃうなんて、あのオバサン、割と小物だったんだね〉

〈それはそうなんだけど、その後、大変だったんだよ。床に散らばったガラスの破片の上に倒れちゃったから、額とか切って、ドバ-ッて血が出ちゃってさ。『救急車、呼ばなきゃ』って、すっごい焦っちゃった〉

〈あはは……。で、呼んだの?〉

〈うん。まずは美倖みゆきさんに連絡して簡単に状況を説明したんだけど、結局、「救急車を呼んじゃった方が早い」って事になって、私が電話した〉

〈ふーん〉

〈そしたら、オジサンが二人も来てくれて、服にもガラスの破片とかくっ付いてたから、結果的に救急車を呼んで良かったと思う〉

みおは、付いてったの?〉

〈当然だよ。まあでも、ああいう時って、小学生だと楽だよね。子ども扱いだから、面倒な事はやらなくて良いし……。茅乃さんのマイナンバーカードなんて、私、何処どこにあるか分かんないもん〉

〈てことは、茅乃さん、なかなか目覚めなかったって事?〉

〈一応、救急車の中で一度は目が覚めたんだけど、全く話ができない状態でさ。ああいうの、錯乱状態って言うのかな?〉

〈ふふっ、それって、澪のせいじゃない〉

〈あはは。まあ、そうなんだけどね……。それより、ムカついたのは、ママだよ。メッセージ送ってんのに、ちっとも来てくれないんだもん〉

〈そっか……。で、どうなったの?〉

〈夕方の六時半には茅乃さんが何とか正気に戻ってくれて、そんでも、「一晩は様子を観ましょう」って事で、私だけ帰されたんだけど……。そん時は病院の受付フロアとか真っ暗でさ。玄関とかも閉まってるし…、「ムシ」じゃなかったら、たぶん、泣いてたと思う〉

〈そっか。「ムシ」で良かったね〉

〈本当だよ。「ムシ」だと鍵が閉まってるとか関係ないし、空を飛んで簡単に帰れるもんね。私、昨日ほど「ムシ」になって良かったと思ったことないわ〉

〈まあ、その騒動を起こしたのって、澪なんだけどね〉

〈もう、言わないでよ〉

〈そんで、今日はどうなったの?〉

〈だから。茅乃さんが失踪したんだってば。私が学校へ行ってる間に、一度はマンションに帰って来たみたいなんだけど、大事そうな物は、だいたい無くなってて……〉

〈病院の退院手続きとかは?〉

〈あ、それは本人がやったみたい。でも、ママの方にも未だに連絡が無いんだって。「八年も働いてたってのに、一言もなく出てっちゃうなんて」って、ママ、怒ってた〉

〈それって、何か盗られたりしてない?〉

〈ううん。うちには現金とかほとんど置いてないし、貴重品とかも銀行に預けてあるから……。ママが「指輪が無い」とか騒いでたけど、あの人って仕舞うの苦手だから、茅乃さんが盗ったかどうか分かんないみたい〉



★★★



水森茅乃(かの)が失踪した翌々日には、二名の新しい家政婦が榊原家にやって来た。その内の年配の方の片瀬尚美かたせなおみみおの担当になってくれて、今の所は優しく接してくれている。


〈その片瀬って人には最初に左腕の事も話して、義手を外した所を見せたりもしたんだ。そん時に、「分かりました」って言ってくれて、そんでも、多少は顔が強張ってはいたんだけど、まあ、当面は様子見かなあ〉

〈そっか〉

〈もう一人の方は佐藤さんって言うんだけど、今ひとつ得体が知れないっていうか……。歳はアラサーくらいで、独身みたい〉


今の所、二人の家政婦は試用期間との事。だから、今だけ猫を被ってるって可能性はあるんだけど、今回は兄の海渡かいとが気を使ってくれていて、「何かあれば言って欲しい」って事だから、たぶん、大丈夫だ。


そんなこんなで、澪の悩み事がひとつ消えたのだった。




END024


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ