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020:初めての仲間(3)

◇2040年10月@東京 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)は、タワマン最上階にある榊原澪さかきばらみおの自室に戻って直ぐに、敬愛する「ムシ」達の「クイーン」である矢吹天音やぶきあまねに報告を入れた。更に、同じ内容を宇都宮の手塚真琴てづかまことにも送ってある。

真琴は紗理奈の唯一の友達で、その事は天音も知っている。その真琴は郡山ファミリーに所属しており、福島の穂積郁代ほづみいくよとも仲良しなのが気になるけど、やっぱり九十キロ以上も離れていて、簡単には会えないらしい。つまり、真琴も紗理奈と同じく近くに「ムシ」の子がいない状態な訳で、そういう意味でも二人は似た者同士なのだ。

だけど、今日、澪という「ムシ」の仲間が近くで生まれた事で、その関係が崩れるかもしれない……。


いや、それは考え過ぎだと思う。栃木県にだって、どうせ直ぐに別の「ムシ」の子が生まれる筈。そもそも既に予備軍の子が見付かっているのだから、最悪、その子が「ムシ」になるまで待てば良いのだ。


そんな事も頭の片隅で考えながら、紗理奈は澪と心話での会話を続けて行く。

たぶん天音さんの事だから、どうせ直接に話をしたがる筈。その時に上手く答えられるように、紗理奈は澪との話を誘導して行った。

澪の父親は、サカキバラ商事という大会社の社長だ。紗理奈自身もそこそこの規模の会社の社長令嬢だけど、彼女とはレベルが違う。それは、この部屋ひとつ見たって分かろうというものだ。

だけど、彼女にも色々とあるようで、決して幸せなだけのお嬢様って訳ではないみたい。その原因が彼女の障碍、左腕の欠損にあると知った時、紗理奈は自分と何だか似てると思ってしまった。


そこら辺の事まで聞き出した時、天音から着信があった。彼女の部屋の壁のひとつが巨大3Dディスプレイになっていて、そこに天音の顔がアップで表示される。予め澪に着信がありそうだと伝えてあったから、ブルートゥースでの接続も簡単にできた。


『えーと、あなたが澪ちゃんね?』

「あ、はい。榊原澪です」

『ふふっ、見るからに「ムシ」の仲間って感じの子ね。私は、矢吹天音やぶきあまねって言うの。たぶん長い付き合いになると思うから、宜しくね』

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」

『それで紗理奈ちゃん、彼女の翅は、どんなのだったの?』


紗理奈は、綺麗な唐草模様の翅だった事を幾分、興奮気味に伝えた。


「……とにかく、上品っていうかエレガントっていうか、そういう感じの翅だったんです」

『なるほど、そうなのね。やっぱり、澪ちゃんが『お嬢様』だからかしら……あ、紗理奈ちゃんだって、お嬢様だったわね』

「えっ、そうなの?」


澪が「お嬢様」という言葉に思い掛けなく強い食い付きを見せた。そこで初めて紗理奈は、自分の説明を後回しにしていた事にちょっと焦った。


「いやいや、澪ちゃんと比べたら、全然、大したこと無いよ」

『それでも、紗理奈ちゃんだって社長令嬢じゃない」

「もう、天音さんまで……。一応、うちの父は東山モビリティって会社を経営してて……」

「全然、大したこと無くないじゃない! 東山モビリティって、国内だと、うちの大口取引先のひとつだよ」

「えっ、そうなの?」

「だって、首都圏のカーシェアリング業界ナンバーワンでしょう?」

「澪ちゃん、良く知ってるね?」

「一応、私も社長令嬢だもん……。でも、パーティーとかで会ったこと無いよね?」

「うん、まあ、色々あって……あ、庶子だとかそういうのじゃなくて……、一応、長女ではあるんだけど、私、生まれ付き視力と聴力に障害があって、冷遇されてるっていうか……」

「うわあ、ますます私と似たような境遇じゃない。何で早く言ってくれなかったの?」

「だって……、私の場合、『ムシ』になった事で障害が消えちゃったもんだから……」

「ああ、そういう事か。でも、障碍って観点からすると、紗理奈の方が大変だったんじゃないの?」

「まあ、そうだね」


何だか、二人だけで話が盛り上がってしまった。

その事に気付いた紗理奈が天音に「ごめんなさい」と謝ると、少しそっけなく『別に良いわよ』と返された。


『でも、紗理奈ちゃんに新しいお友達が出来たのは、喜ばしい事だと思うわ』

「あ、はい。ありがとうございます」

『それで、澪ちゃんの翅のサイズはどうなの?』

「えっ?」


紗理奈は、『翅のサイズ』と言われて、言葉に詰まってしまった。

実は、今まで紗理奈が直接に会った事のある「ムシ」は、まだ澪で三人目。それら三人の翅は、だいたい同じような大きさなのだ。


「あの、たぶん、天音さんや真琴と同じくらいだと思います」

「えっ、そうなの? てことは、『タテハ』って事かしら?」


「タテハ」というのは、大型サイズの翅を持つ「ムシ」の事らしい。天音や真琴の外には、玉根凜華たまねりんか紺野鈴音こんのすずねが該当するようだ

ちなみに、その上のクラスの「アゲハ」である紗理奈の翅は、「ムシ」達の中で最大だったりする。


『まあでも、良かったわ。私の予想だと、この後も東京近辺では、次々と新しい『ムシ』が生まれてくる筈なの。澪ちゃんは、そういう『ムシ』達のリーダーとして活躍する事になると思う。だから、頑張って頂戴』

「ふふっ、天音さんの予想というか予知って、良く当たりますものね」

「あの、首都圏のリーダーは、紗理奈じゃないんですか?」

『うーん、紗理奈ちゃんは別格っていうか、たぶん、私よりも凄い存在になりそうなの』

「えっ、そうなんですか?」


紗理奈は、そんな事を前にも天音に言われた事がある。でも、本人としては半信半疑だ。


「それでね、澪ちゃんの場合は、紗理奈ちゃんを一番近くで支えて行って欲しいの。あなたには、充分な能力があるから……、と言っても、まだまだ先の話なんだけどね。それに、澪ちゃんの他にも同じような役割の子が何人か生まれそうではあるんだけど……、やっぱり東京ってのは日本の中心でしょう? だから、特別なのよ』

「……はい?」


途中から予言めいた口調になった事で澪が首を傾げているのを見て、紗理奈は天音に予知の能力がある事を説明してあげた。


『予知と言っても、先の事は、そんなに確実じゃないのよ。まあ、占いみたいなもんだと思って聞いてね』


天音はそう言うが、単なる占いじゃないのは間違いない。だけど、『その事を澪に言うのは、今じゃない方が良い』と、何となく紗理奈は思ったのだった。



★★★



『ヤッホー、紗理奈ちゃん、ひっさしぶりー。真凛まりんだよー! えーと、みおちゃんだっけ? 初めましてー』


そこでスクリーンに現れたのは、大勢の女の子達。全員が金髪かそれに近い髪色だ。そして、大半が紗理奈や澪よりも年上である。


『ちょっ、ちょっと、真凛さん。いかにも頭の悪そうな子の挨拶、止めてくれません?』

『いやいや鈴音すずねちゃん、真凛さんがアホの子なのは、前からだから』

『こらあ、珠姫たまき。こないだの実力テストの県内順位、アタシの方が上だったの忘れたのかなあ?』

『えっ? あれってまぐれだったんじゃ……』

『あのね、珠姫。真凛さんは見た目と言動は残念な子だけど、アホの子じゃないんだからね。まあ、この私が勉強を教えてるんだから、当然なんだけど……』

『だって、鈴音ちゃん、さっき真凛さんのこと「頭の悪そうな子」って言ってたじゃん』

『違うでしょう? 私が言ったのは「頭の悪そうな」であって、「頭の悪い」じゃなかった筈よ』

『はいはい。身内でのくだらないお喋りは止めなさい。今は天音さんとも紗理奈ちゃんとも繋がってるんだよ』

『げっ、そうだったあ』

凜華りんかさん、もっと早く言って下さいよー』

『真凛は、最初から気付いてたよ。鈴音ちゃんは、ちょっと微妙だけど』

『珠姫は、全然、分かって無かったよねー』

『もう、みんなったら、今日の目的、忘れちゃったのかなあ?』


真凛の一言で、彼女達が所属する郡山ファミリーのFC(ファミリーキャップ)玉根凜華たまねりんかが、『朔美さくみちゃ-ん、出番だよ』と声を上げた。

後ろの方から現れたのは、とても大人しそうな女の子だった。


『あ、あの、私、八巻朔美やまきさくみって言います。榊原さんとは、同じような時期に「ムシ」になったんです』


それから彼女は、『宜しくお願いします』と言ってペコリと頭を下げた。

朔美は紗理奈や澪と同じ歳の筈だが、身長は高めだ。でも、猫背な為か、そうは見えない。それに痛々しい程に痩せていて、血色も悪い。

更に何より気になるのは、右腕の肘から先の欠損。澪の場合は義手を付けているけど、彼女の場合は長袖のブラウスの先が揺れていて、そこに何も無い事を悠然と物語っている。

すかさず口を開いたのは、凜華だった。


『もう分かったと思うけど、朔美ちゃんは澪ちゃんと同じ障害を抱えてるの。それに彼女の場合、家庭内でも色々と問題があって、鈴音ちゃんを中心に動いてはいるんだけど、もう少し時間が掛かりそうで……。とにかく、澪ちゃんは同じ学年だし、仲良くしてくれると嬉しいかな』


重そうな話のようだった。

だけど、それは多かれ少なかれ、ほとんどの「ムシ」の子にも言える事。天音に言わせると、『だからこそ、「ムシ」はみんなで団結する必要があるの』って訳だ。


榊原澪は、そんな事も含めて、初めて出会った仲間達の存在に相当な感銘を受けたようだった。紗理奈にも経験があるけど、今まで一人ぼっちだと思っていた自分に、大勢の仲間がいると分かった時の衝撃は、言葉では言い表せない程に強烈だ。案の定、ずっと今まで強気でいた澪が、とうとう泣き出してしまった。

その新しい妹分の事を、スクリーンの向こうの仲間達は、温かい目で見守ってくれていたのだった。




END020


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

また次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


いよいよストックが無くなってきましたので、投稿が不定期になるかと思います。

ですので、ブックマークをして頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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