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016:真琴との出会い

◇2040年8月@千葉県浦安市 <東山紗理奈>


家政婦の松川愛子を含め、家に誰もいない三日間を満喫した東山紗理奈(さりな)だったが、三日目の夜、その松川の一言で一気に落ち込んだ。「お帰りなさい」と出迎えた紗理奈に、「お嬢様がお元気そうで何よりです」と言ってくれた所までは良かったのだ。でも、リビングとキッチンの様子や冷蔵庫の中身を軽くチェックされた途端、「まあ、六十点って所ですね」と言われてしまったのだ。


「いくら夏だとはいえ、もう少しちゃんとした物を食べて頂かないと困ります。どうせコンビニやファーストフードのお店で、ジャンクフードとかに手を出しておられたんでしょうけど、ほどほどにして頂けませんと……。ゴミ箱の中にポテトチップスの袋が堂々と残っていますし、ほら、こういう所にもお菓子の粉がいっぱい……」


そうやって次々と証拠を見せ付けられては、反論のしようがない。


「それに、デザートをお求めになるのでしたら、スーパーで売ってるようなプリンでは無くて、ちゃんとしたケーキ屋さんの手作りの物にして下さいな。お身体からだに良くありません」


紗理奈には自分が上流階級の人間だという意識なんて無いのだが、松川の場合は先輩の家政婦達から色々と余計な情報を吹き込まれているようだ。


そんなゴタゴタがあった日の翌朝、紗理奈は四日ぶりに松川の手料理の朝食を堪能して自室に入った所で、珍しく昼間に矢吹天音やぶきあまねからスマホに着信があった。


『ねえ、紗理奈ちゃん。明日は暇?』

「はい。まだ父は海外出張で、母は弟を連れて実家に行ってますから、日曜まで私はフリーです」

『あら、そうなのね。だったら、ちょうど良いわ。実は、宇都宮の手塚真琴てづかまことちゃんが、紗理奈ちゃんに会いに行きたいって言うの。そっちに泊めてあげられないかしら?』

「えーと、家政婦の松川に話してみます。最近、あの人は私の味方をしてくれるから、たぶん大丈夫だと思います」

『それなら、良かったわ……。ふふっ、真琴ちゃんが紗理奈ちゃんに会いたいってのは嘘じゃないんだろうけど、ネズミーランドにも行きたいんだと思うの。あの子、紗理奈ちゃんと似た所があって……、「ムシ」になる前は目の障害のせいで、お母さんに嫌われていたの』


「ムシ」になる前の手塚真琴がは全盲だったのは、以前、天音から聞かされた事がある。紗理奈も弱視と難聴だった為に母の若菜から理不尽な虐待を受けてきた訳だが、真琴も紗理奈ほどじゃないにせよ、同様の状況に置かれていたらしい。母親のプライドが高く、娘の障碍を直視できずに拒絶してしまった辺りも良く似ている。もっとも、真琴の場合、その母親との関係が最近は修復しつつあるのだそうだ。


『それでね、真琴ちゃんは『どうせ何も見えないんだから』って、何処どこへも連れてってもらってないの。実際には、彼女なりの手法で周囲の様子を知覚していたっていうのに、酷い話だと思わない? だから、本当は良くないんだけど、ネズミーランドへ潜りこんじゃいなさい』

「それって、タダで……」

『紗理奈ちゃんだって、間違って色んな所に入りこんじゃう事があるでしょう? 私達、「ムシ」なんだし』

「まあ、そうですね」


その後、紗理奈は松川愛子に、明日、友達が泊まりに来る事を打ち明けた。


「その子、私がネットで知り合った子なの。たぶん、会えば私と友達になった理由が分かると思うわ。だから、申し訳ないんだけど、お母さんには内緒で泊めてあげて欲しいの」


そして、翌日、朝のうちにやって来た真琴を紗理奈が家政婦の松川に引き合わせると、本当に一瞬で全てを了承してくれた。真琴の髪の毛は厳密に言うと金髪ではないにせよ、淡い茶髪。更に色白の肌と小柄で華奢な体型といった所も、紗理奈にそっくりなのだ。つまり松川は、真琴が紗理奈と似た容姿だから、友達になったと思ったのは間違いない。当然、紗理奈の狙い通りである。

元から紗理奈の味方である松川愛子は、真琴のもてなしに全面的な協力を申し出てくれた。もちろん、母の若菜には絶対に内緒にしてもらう。


午前中は紗理奈の自室でお喋り。その後、早めの昼食を食べてから、紗理奈と真琴は二人だけで外出した。普段の紗理奈は松川に隠れてこそこそと家を抜け出すのだが、今日は堂々と玄関から出て行った。

見た目はともかくとして、一応、真琴は中学生。だから、昼間の外出は問題なしとの判断なのだが、それでも心配性の松川は、スマホ以外にも防犯ベルを持たせてくれた。その上、「何かあったら、直ぐに連絡して下さいよ」と、しつこいくらいに念押しされた。


ちなみに、その日、宇都宮を朝早く出た真琴は、東北自動車道を走る無人トラックの荷台にちょこんと乗って南下。それを川口の手前で紗理奈が捕捉した。それからは二人とも「ムシ」になって空へと舞い上がり、千葉の浦安にある紗理奈の家までやって来たのだった。



★★★



手塚真琴の翅は黄緑色で、模様とかは無い。形はモンシロチョウと同じだけど、一回り大きい「タテハ」のサイズ。「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」では、「レモングラス」の愛称で呼ばれているように、黄緑色だけど飛び立った後の残り香がレモンのような爽やか柑橘系だ。

彼女は三百六十度、周囲の状況が「分かる」という。それは、生まれ付き全盲だった彼女に備わっていた能力のようだけど、「ムシ」になった後は一層鮮明に「分かる」ようになったのだそうだ。それと、壁の向こうの様子が分かる辺りは、紗理奈と同じ。他には、目が見えない分、相手が何を考えているかも何となく「分かる」そうだ。その傾向は天音や紗理奈にもあるのだが、真琴の能力の方が強力らしい。


〈あの、真琴さん。私、天音さん以外の『ムシ』の人と直接に会うのは初めてなんで、今、すっごく感動してます〉

〈もう、緊張なんてしないでよ。敬語も止めてくれない?〉

〈でも、真琴さんは中学生で……〉

〈何を言ってんの? 私の方が学年は上だけど、生まれたのは三ヶ月しか違わないのよ〉

〈えっ、そうなんですか?〉

〈そうよ。私は一月生まれで、紗理奈ちゃんは四月生まれでしょう?〉


そうやって言うけど、常に落ち着いた態度の真琴は年齢以上に大人びて見える。あまり他人と接してこなかった紗理奈にとって、いきなり敬語無しってのはハードルが高いのだ。


〈あのね、紗理奈ちゃん。今まで他人と接してこなかったのは、私だって同じよ。私の場合は全盲だったんだからね〉

〈それは知ってますけど……、あの、言葉遣いは徐々に直すって事で、お願いします〉


そんな訳で、昼食後、二人は人気の無い所で「ムシ」になり、勢い込んでネズミーランドへ突進。やはり人気の無い所を選んで降り立ってみたら、列車が走るレールの上で、慌てて光を纏ってやり過ごしたり、逆にちゃっかり開いてる後ろの席に座って、待ち時間ゼロでアトラクションを楽しんだり、更にはアトラクションの中に溶け込んで、お化けのフリしてゲストを驚かせてみたりと、普通とは違う楽しみ方をして、どの来場者よりもネズミーランドを満喫した。

それでも、夕食時間には東山邸に戻って、松川愛子の渾身の手料理を心行くまで味わい、いったんは寝たと見せかけて、再びネズミーランドに舞い戻った。そして、今度は「ムシ」に変異したままでパレードに参加、そのまま夜空で花火と戯れる。

その後、湾岸の紗理奈の周遊コースへと真琴をいざなって、最後はスーパー銭湯に忍び込んで今日の出来事の振り返り。もちろん、会話は心話だから、近くにいたオバサン達には聞かれない。その後もベッドでお喋りを続けていたけど、いつの間にか寝落ちしていて気が付けば朝だった。


翌日は、東京観光。と言っても、「ムシ」になっての移動がメインで、動物園も水族館も美術館もタダで入場。浅草の仲見世をそぞろ歩く時は変異を解いていたから、二人で怖いオジサンを揶揄からかったりして、それはそれで面白かった。

お昼は遅めの時間にもんじゃ焼きを食べて、夕方になる前に東北自動車道の浦和インターの辺りまで飛んで行く。そこで紗理奈は、真琴が高速で走るトラックの荷台に乗ったのを見届けてから、心話で「さよなら」を言って別れた。


その時の二人は、すっかり打ち解けていて、お互いを下の名前で呼び捨てにする程の親しい友人同士になっていた。


以上が、やがて、北関東の「ムシ」達を束ねる立場になる手塚真琴と、東山紗理奈との最初の出会いの一幕である。

真琴は、生まれ付き視力が無かったにも関わらず、穏やかで優しく畳の深い性格の女性だ。一方、若い頃の紗理奈は少々やんちゃな気質で、何かと暴走しがちな所があった。そんな彼女のストッパー役を果たしたのが、手塚真琴だったと言える。

紗理奈と真琴の生まれは三ヶ月しか違わないのだが、この先ずっと真琴は、天音に次ぐ良き相談相手として在り続けたのである。




END016


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

また次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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