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121:七夕の時の事の顛末

◇2041年7月@東京 <東山紗理奈>


七月に入って二度目の月曜日、東山紗理奈(さりな)が教室へ入って行くと、既に自席に座っている小川真花(まはな)から直ぐに心話が飛んで来た。


〈紗理奈、おはよう。昨日は大変だったね〉

〈本当だよ。なんか色々とあったよね〉

〈でも、気が付くと、うちのファミリーのメンバーって、八人に増えちゃってない?〉

〈えーと、沼津の子って、芹沢千里せりざわちさとちゃんだっけ? さすがに沼津はエリア外だと思うよ〉

〈だけど、名古屋じゃないよね?〉

〈うーん、静岡は、東海地方なんじゃない?〉

〈まあ、関東じゃないけど、名古屋でもないと思うよ〉

〈そっかなあ?〉


自席に座った紗理奈は、タブレット端末を立ち上げると、東京からの直線距離を調べてみた。


〈うわっ、沼津迄百十キロもあるじゃん〉

〈名古屋からだと、百八十キロだよ〉

〈うーん……〉


紗理奈の時のように、クィーン直属って訳にも行かないだろうから、やっぱり東京ファミリーって事になるんだろうなあ……。


〈取り敢えず、休みの時に会いに行くしかないね〉

〈私はパスかな。みおと亜美ちゃんと三人で行ってよ〉

〈何それ?〉

〈あんた達なら、一時間半とかで着くんじゃない?〉

〈別に電車に乗ってけば良いじゃん。小田急とかでさ〉

〈それだったら、私、トラックの荷台に乗って行く方を選ぶわ〉

〈それ、真凛さん方式って奴じゃない?〉

〈私は、穂積郁代ほずみいくよさんが始めたって聞いてるんだけど〉

〈確か、真琴が「ムシ」になった時の事でしょう?〉

〈そうそう。九十キロを一人で移動したって話。でも、紗理奈だったら、一時間も掛かんないよね?〉

〈あ、先生、来たみたい……〉


紗理奈と真花は気軽に雑談していた訳だが、その芹沢千里の周辺が大変な事になっていたとは、全く思いもしなかったのである。



★★★



その話を紗理奈が知ったのは昼休みの事で、発端は榊原澪さかきばらみおからの短いメッセージだった。


『千里ちゃん、家から追い出されちゃったみたい』


当然、こんなメッセージを受け取ったら、直ぐに返事するしかない。紗理奈は、澪とのチャットを始めた。


「ねえ、澪。それ、『千里って子が家出した』って話の間違いじゃないの?」

『間違いなく、千里ちゃんが両親に追い出されたんだよ』

「うーん、クズ親だとは聞いてたけど、そこまでクズだったとはねえ……。でも、何でそうなったの?」

『発端は、千里ちゃんが「ムシ」になろうとした所を、親達に見られちゃったみたいなの』

「てことは、まだ『ムシ』になってなかったって事?」

『うん。一応、本人から聞いたんだけど、光を纏って直ぐに解除したんだって……』


それから、昼休み全てを使って聞き出した話によると、夕方、千里は人目を避けて家の裏手で変異しようとしたらしい。ところが、両親もまた人気ひとけの無い場所を探しており、たまたま思い付いた場所が一致してしまったという事のようだ。

その時の両親は、前夜、サカキバラ商事の社長や支店長から叱責された事を逆恨みしており、「何とかして、出来損ないの娘を放り出せないか?」といった話し合いをしようとしていたのだ。そこで運よく当の娘が現れて、しかも不気味な光を発したりしたものだから、「お前なんか、勘当だ。家から出て行け!」となったらしい。


昼休みが終わって五限目の社会の授業が始まっても、紗理奈は真花との間で心話による会話を続けた。


〈で、その親達って、何で、そこまで自分の娘を嫌ってるわけ?〉

〈ひとつは、元から子供が好きじゃなかったってのがあるみたい。それなのに、赤ちゃんが出来ちゃって、気付いた時には堕ろせなくなってたんだって〉

〈ちゃんと避妊はしてたの?〉

〈してる訳ないじゃん〉

〈呆れた。そんなんで、やる事やれば出来ちゃうに決まってるじゃない〉

〈もう、真浜ったら、あんまりストレートに言わないでよ。授業中だよ〉

〈ごめんごめん〉

〈そんでさ、生まれて来た娘が淡い茶髪だったもんだから、父親の方が、「何だ、この汚らしい娘はっ! どっかへ捨てて来いっ!」って怒鳴ったんだって〉

〈酷いね〉

〈でしょう? そん時は、さすがに母親の方が、「あんな痛い思いをしたのに、何てこと言うのよっ!」ってキレちゃって、大変だったみたい〉

〈ふーん。良く離婚しなかったね?〉

身体からだの相性が良かったみたい〉

〈何それ、誰が言ったの?〉

〈澪も同じ事を思ったみたいでさ、家政婦の片瀬かたせさんに訊いたら、そういう風に言われたんだって〉

〈なるほど……〉


その後、千里が成長すると右足に障碍がある事が分かり、ますます両親は育児の大変さを娘本人に愚痴るようになったという。

それでも、その二人は自分達が「娘を愛している」と思い込んでいたそうだが、今回、「愛しているどころか虐待している」と言われた事で、反省するんじゃなくて、「愛してないんだったら、手放してしまえ」となったんだそうだ。


〈もう、何で、そういう発想になっちゃうの? 頭おっかしいんじゃない?〉

〈だから、普通の人じゃないんだってば。まだ簡単な調査しか出来てないそうなんだけど、近所の人とかに少し聞き取りをしただけで、彼らの悪口が出るわ出るわって感じだったみたい〉

〈ふーん〉

〈綾さんが言うには、「一種の発達障碍なんじゃないかしら」って事らしいよ。原因は良く分かってないんだけど、食品添加物だとか空気の汚染だとか色々とあって、最近、そういう人が増えてるんだって……〉



★★★



その日の夜、新宿のタワマン最上階にある榊原(みお)の部屋に紗理奈、真花まはな、亜美、京姫みやびが集まっていた。

その中で、ここに来るのが初めてな京姫だけは、そわそわと落ち着かない様子。

その京姫は、妹の姫奈ひめなと共に今日は学校を休んでいて、母親の月穂つきほさんは、昨日、夫に蹴られた脇腹とかのケガの状態が良くなくて、ベッドから起き上がれないでいたらしい。


問題は京姫達の父親の事だが、一晩だけ八潮署で引き取ってもらった後は、「所詮、家庭内のイザコザだから」という事で、今朝になって釈放されてしまったという。

そうなれば当然、自宅へ戻って来る訳で、たまたま月穂は娘達に伴われて病院に行っていたから良かったものの、もし鉢合わせたりしたら、再び暴行を受けるハメになっていたのは間違いない。


〈で、それで今は、病院の診断書や現場の写真なんかを持って、再度、警察と掛け合ってるって訳ね?〉

〈はい。お陰様で〉

〈それに、サカキバラ商事の伝手つてを頼って、県警の上層部に働きかけたりもしてるそうだから、たぶん、今度は何とかしてくれると思うよ〉


結局、月穂は三日程度、病院に入院する事になり、その間、京姫と姫奈の姉妹は引き続き学校を休んで、澪の所に泊まる事になった。と言っても正確には、ひとつ下の階のゲストルームである。

それと合わせて、離婚手続きのサポートも進めて行くそうだ。


〈昨日の今日で月穂さんも疲れてるみたいだから、お見舞いは明日にして欲しいって言われてるんだよね〉

〈あの、我儘を言ってすいません〉

〈大丈夫。じゃあ、明日、みんなで行こっか?〉


という訳で、「茶髪の子の保護者会」の話は、その時、月穂の体調を見て行う事にしたのだった。



★★★



一方で昨日、家から身ひとつで追い出された後の芹沢千里せりざわちさとだが、その後、ちゃっかりと自室へ戻り、昨夜は自分のベッドで就寝。今朝は、両親が仕事に出かけてから、冷蔵庫の中の物を適当に見繕って朝食を取った後、澪に長々とメールで状況を伝えて来たという。

千里の場合、両親からの虐待は今に始まった話じゃなく、家に入れてもらえないなんてのは日常茶飯事。まして今は「ムシ」の能力を得ており、当面は何のダメージも無い。

一方、千里のメールを受け取った時のみおは、授業中だった。休み時間に千里からのメールに気付いて、母親のあやと連絡を取り、昼休みになって紗理奈に連絡を入れたという訳だ。


尚、学校の方は、面と向かって「お前なんか、勘当だ!」と言われた手前、取り敢えず休む事にしたらしい。「教師から親に連絡が行った際、彼らがどういう反応をするか知りたい」といった思惑もあったという。もっとも、実際は担任教師が面倒事を嫌って、何のアクションもしなかったのだが……。


〈で、その子、今は何処どこにいるの?〉

〈うちの会社の沼津支店。最悪、仮眠室で寝てもらうって話になってる〉


現在、サカキバラ商事沼津支店の方で弁護士と相談し、市役所の窓口と交渉。育児放棄の案件として対処してもらっているという。


〈ほとんど交流が無いみたいだけど、どちらの親も祖父母が健在みたいなの。それに、母方の伯母もいるそうだから、どこかが引き取ってくれるとは思うんだけど、駄目なら最悪はうちで引き取る事になるかも。後は、うちで学費の援助をする形で、全寮制の中高一貫校に入れようかって話も出てるみたい〉

〈あのー、そういう学校って、意外と偏差値が高いんじゃないですか?〉

〈そんでも、まだ半年以上あるから、何とかなるんじゃない? 「ムシ」になると、記憶力とか良くなったりするんだよ〉

〈えっ、そうなんですか?〉

〈そうそう。あのいちごでさえ、成績が急上昇したんだから〉

〈真花、何か言った?〉

〈あ、苺だ。あんた、今、何処どこ?〉

〈渋谷。林檎と一緒だよ。そろそろ、そっちに行こうかって話してた所だったんだ〉

〈分かった。待っててあげる〉

〈何その上から目線?〉

〈まあまあ。せっかくだから、夕食、みんなで食べようか?〉

〈やったーっ!〉


そんなこんなで、この日は七人の「ムシ」達が澪の所に集まり、京姫の妹の姫奈ひめなや、澪の家庭教師の坂下美倖(みゆき)も加わって、皆で賑やかに夕食を頂いた。



★★★



その後、京姫みやびの母親、小倉月穂おぐらつきほのケガは順調に回復し、水曜からは職場に復帰した。

問題の暴力夫の方は、取り敢えず一週間の拘留が決まり、釈放された後も家族との接触は禁止された。と言っても、万が一という事があるので、当面はサカキバラ商事の方で、ボディーガードを付けてもらえるとの事だ。

尚、現在、自宅にしているマンションは夫婦の名義なのだが、離婚後は月穂の物になる見込みだという。


「茶髪の子の保護者会」の話は、火曜日に紗理奈、みお真花まはなの三人でお見舞いに行った際に行い、その場で入会を了承してもらった。

合わせて「ムシ」についての概要を説明したのだが、問題はその後である。

月穂の病室が個室だった事もあり、その夜、京姫は「ムシ」の姿で母の下を訪れた。ところが、その様子を他の入院患者や看護師等、思いの外、多くの人達に目撃されてしまい、ちょっとした騒ぎになってしまったのだ。その結果、月穂はもちろん、後で知った紗理奈達からも叱責される事になったのは、言うまでもない。


一方、芹沢千里は、母方の伯母の所に引き取られる事になった。ただし、サカキバラ商事が特別奨学金の名目で学費を出す事で、静岡県内にある全寮制の中高一貫校に入学するのが前提である。つまり、伯母の家で過ごすのは、実質的に半年だけという事になる。

元々千里の成績はそこそこ良くて、入学当初の実力テストや前期の中間テストの結果からすれば、今でもギリギリ合格ラインに入っているらしい。これからの努力次第ではあるけど、「ムシ」の能力を加味すれば充分に合格が可能との事だった。


尚、この後、「ムシ」達全員で千里の元を訪れ、海水浴を楽しんだ後、家族も一緒に熱海の温泉に泊って大騒ぎ。またまた騒動を引き起こす事になるのだが、それはもう少し先のお話である。




END120


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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