表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/123

118:七夕の時の出来事 (2)

◇2041年7月@千葉県浦安市 <東山紗理奈>


藤代亜美ふじしろあみと一緒に東京ネズミーランドへ行った東山紗理奈(さりな)は、人気のアトラクションを中心に片っ端から楽しんだ。と言っても、そのやり方は千差万別。スタート直後に紛れ込んで、ちゃっかり空いている席に乗り込んだり、気付かれずに割り込んでみたり、上手く行かなかった時は「ムシ」の姿で付いて行って、乗っている気分を味わったりといった感じだ。

そのうち、それだけじゃ飽き足らなくなって、搭乗者を様々な手法で驚かせて楽しむといった悪戯を始めた。紗理奈の場合、矢吹天音(あまね)や手塚|真琴、石井めぐみといった「ムシ」達と、既に同様の悪戯をした経験がある。それらを思い出しながら亜美の前で披露するだけで、思いの外に尊敬されてしまい、紗理奈はとても鼻高々だ。

ところが、次第に慣れて来た亜美が、エグい発送の悪戯を連発。自分で始めた事だけに、無邪気な笑顔の亜美を叱る訳には行かず、あたふたし出した紗理奈に対し、遅れて駆け付けた小川真花(まはな)から心話での叱責が飛んだ。


〈こらーっ、亜美ちゃん、やり過ぎだよ! 紗理奈も何で止めないのよっ!〉


気が付くと、恐怖で失神したり、泣き出したりした女の子達が相次いでしまい、降車場は散々たる様子。そうした彼女達の対応で、アトラクションのスタッフ達は大忙しだった。

謝る訳にも手伝う訳にも行かない。どうしようかと悩んでいると、何処どこからともなく吉岡(いちご)と赤井林檎(りんご)がやって来て、コメディ-タッチのダンスを踊り出す。その上空では、真っ白な翅の真花が撒いた銀粉が辺り一面に広がって、夕陽を反射してキラキラと輝いた。

それらを見た女の子が、泣くのを忘れて「素敵!」と呟く。その子の後ろで失神から目覚めた女子高生が、二人の「シジミ」のダンスに笑顔で見惚れていた。


〈紗理奈さん、うちらの翅って、大きすぎて役立たずですね?〉

〈そんでも、シンデレラ城の上とかを舞ってる分には、絵になると思うんだけど……〉

〈それはそれで、怪奇現象とかで話題になっちゃったりするかもよ〉

〈うわあ、真花まはなの言う通りだとしたら、また天音あまねさんに怒られちゃう……。あれ?〉


その時、突然、紗理奈は胸騒ぎがした。


〈どうしたの、紗理奈?〉

〈ねえ、何か変な感じしない?〉

〈えっ、変な感じって……〉

〈紗理奈の言う通りかも。これって、亜美が「ムシ」になった時の「呼ばれてる」ってのに似てるよね?〉

〈違うよ、真花。もっと切羽詰まった感じだと思う〉


紗理奈は、高度を下げて地表の人達を見た。真花も同様に女の子を探す。探すのは、金髪かそれに近い髪の子だ。

二人の様子に疑問を持った亜美が訪ねた。


〈あ、あの、どうしたんです?〉

〈あ、亜美ちゃんは初めてだったね。新しく「ムシ」になる子が近くにいるみたいなんだけど、何か様子が変なの。その子にとって良くない事が怒ってるっていうか……〉

〈あ、紗理奈さん。ひょっとして、あの子ですか?〉

〈えっ?〉

〈ほら、あそこの売店の先です。明るい茶髪の女の子が、男の人達と一緒にいるの見えません?〉

〈うーん、男の人達と一緒っていうより、なんか引き摺られてるって感じだね〉


その子は、チャラそうな男子に手を引かれていて、別の男に背中を押されている。両側にも男達が張り付いており、まるで、警官に連行される事件の容疑者みたいだ。

明らかに異様な光景なのに、大きな騒ぎになっていないのが不思議。周囲の誰もが、見て見ぬフリってのが異様に思えた。


そうこうするうちに、とうとう彼女は繁みの中に連れ込まれてしまった。


〈亜美ちゃん、ありがとう。真花、行くよ〉

〈ラジャー〉

〈あ、あたしも行きます〉


三人の「ムシ」達は、急降下して茶髪の女子を囲む男達の前へと舞い下りて行った。



★★★



夕刻とはいえ、七月なので周囲は明るい。梅雨明けはまだだけど、今日は朝から雨は降っておらず、特に午後はずっと陽が差している。

たぶん、そのせいで本人も男達も気付いていないんだろうけど、その子の身体からだは既に薄っすらと光っていた。


紗理奈達が降り立ったのは、通路から十五メートルほど入った売店の裏の繁みだった。人気ひとけは皆無。割と背の高い木々に遮られているので、通路からも見えない。

男達は五人いて、淡い茶髪の子を取り囲んでいた。年齢は二十歳はたち前後。割と小綺麗な身なりからして、大学生だろうか?


紗理奈と真花は、地上十メートルくらいの所で翅を消し、纏う光をミニマムにして、ゆっくりと地上に降り立った。最近になって覚えたやり方で、それだと目立たない分、騒ぎを最小限にできる。

先輩の二人を真似した亜美は、地上三メートルくらいの所で光を消してしまって落下。尻餅を付いて痛そうにしていた。


「うわあ、何だ何だ?」

「お前ら、いつの間に?」

「アキラさん、こいつら、空から落ちて来たんです」

「てことは、木の上にいたとか?」

「もう、そんな訳ないじゃない。おサルさんじゃないんだからねっ!」

「てか、あんたら、バカなんじゃないの?」

「な、何だとお?」


キレて殴り掛かって来た手前の男が、紗理奈の身体からだをすり抜けて前のめりに倒れ込んだ。その間に真花まはなが別の男達を挑発して、捕らえられた女の子から遠ざける。それを見た亜美が、笑顔て悪戯を始めた。

紗理奈は自分の髪の毛をシュルシュルと伸ばして、最後に残った男の首に巻き付けた。そいつは、紗理奈が近付いてニコッと笑い掛けただけで、失神してしまった。

ところが……。


〈こ、来ないで……〉


紗理奈が一歩近づくと、その女の子が一歩後ずさる。


〈ふふっ、紗理奈ったら、すっかり怖がられちゃったみたいね〉

〈あ、真花。さっきの男達は?〉

〈そこで「おねんね」してる奴以外は、逃げてったよ〉

〈えっ、どうやって?〉

〈ちょっとだけ光を纏って身体を一メートルくらい浮かしてみたら、『お化けだあ!』って騒ぎだしちゃって……、失礼しちゃうわ〉

〈それ、あたしも怖かったです。どうやるか、後で教えて下さい〉

〈あ、亜美ちゃん。お尻は大丈夫?〉

〈げっ、さっきの尻餅、見てたんですか?〉

〈もちろん〉

〈あ、始まったみたいだよ〉


真花に言われて視線を目の前の女の子に戻すと、彼女の身体は既に直視できない程に光っており、背中に翅が形作られつつあった。

やがて彼女は、ゆっくりと空へと上がって行く。

紗理奈達三人も、急いで彼女の後を追って行った。



★★★



その子の翅は大きめの「ミッド」で、小川真花(まはな)の翅とほぼ同じサイズ。色は、仄かなピンク。濃いピンクの翅脈が根本から放射状に走っている。

ピンクと言えば、確か日立の小室繭菜こむろまゆなと会津の吾妻美和あづまみわだが、画像で見た印象では、この子の方が薄い。今は季節じゃないけど、桜の花びらって感じの色だ。


〈ねえ、あなたって確か、小倉京姫おぐらみやびちゃんだよね?〉

〈えっ? 何で私の名前……〉

〈ふふっ、私、記憶力は良い方なんだ。私の事、覚えてないかなあ……って言っても、この姿じゃ分かんないよね。お正月の二日にネズミーランドで会ったんだけど……、妹さんの、えーと、姫奈ひめなちゃんだっけ? その子が迷子になってて……〉

〈あ、思い出しました。あの時の綺麗な金髪のお姉さんですよね?〉

〈ふふっ、ちゃんとまた会えたでしょう?〉

〈あ、はい〉

〈私は、紗理奈。東山紗理奈って言うの〉

〈それなら、お正月にも名乗って頂きましたよ〉

〈そうだったね。覚えていてくれてありがとう〉

〈それより、今の私って、どういう状態なんでしょうか?〉

〈当然、知りたいよね。でも、その前に姫奈ちゃんとか、ご両親とか大丈夫?〉

〈うーん、それが……〉


その京姫の説明に依ると、正月の時と同様に家族四人で来たのだが、あまりの暑さに父親がダウン。午後からは三人で回っていたらしい。

ところが、京姫がトイレに入って出て来た所で、大学生風のチャラい系男子に声を掛けられ、強引に連れ去られたのだと言う。


〈てことは、今は迷子状態って事?〉

〈ええまあ〉

〈だったら、まずは連絡しなきゃ……。スマホ持ってる?〉

〈あ、はい〉


『随分と呑気な子だなあ』と思ったけど、たぶん、彼女の性格なんだろう。


紗理奈は、ひとまず京姫を人気の無いエリアへ誘導して、そこに着地。変異を解いたら、〈うわあ、本当に私と似たような髪色なんですねえ!〉という感嘆の声が上がった。

紗理奈は少しイラっとしたけど、グッと堪えて直ぐに母親へ連絡を入れさせる。その際、ちゃんと心話でなく、声を出して話すように言うのを忘れない。

最初、京姫はキョトンとしていて、何を言われたか分からなかった様子。「だったら、声を出してみてよ」と言って、何度かやり取りした後、やっと自分が声を出していなかった事を自覚させた。

普通の子は一瞬で出来る事なんだけど、彼女の場合、随分と時間が掛かってしまう。


「で、お母さん、どうだった?」

「あ、はい。大丈夫だそうです」

「えっ? 何が、大丈夫なの?」

「あ、私、『お友達とバッタリ会っちゃったんで、少しの間、別行動しても良い?』って聞いたんです。そしたら、『入口の所で待ち合わせましょう』って事になりました」


結論はそうかもしれないけど、実際には相当に長く話していて、明らかに揉めているようだった。紗理奈は、きっと京姫のしつこさに、母親の方が根負けしたんだろうと思った。


「それじゃあ、まずは何か食べながら話そうか?」

「あ、でも、私、あんまり持ち合わせが無くて」

「大丈夫。私、これでも社長令嬢だから、奢ってあげるよ」

「えっ?」

「そうそう。先輩に任せておきなさい……あ、一応、あたしも社長令嬢だからね」

「あのさ、亜美。あんたの場合、先輩って言っても、たったの三日でしょうが」

「てへっ」


亜美が悪戯っぽく笑う。京姫もそうだけど、やっぱり小学生だ。


「それじゃあ、外のファミレスで良いかな?」

「えっ、外へ出ちゃうんですか?」

「その方が良いじゃない。ネズミーランドの場内のレストランは、どこも混んでるし高いでしょう? チョウの翅があれば、いつだって出入り自由なんだよ」

「あ、そういやそうですね」


今度は、直ぐに京姫も理解してくれたようだった。




END118


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ