118:七夕の時の出来事 (2)
◇2041年7月@千葉県浦安市 <東山紗理奈>
藤代亜美と一緒に東京ネズミーランドへ行った東山紗理奈は、人気のアトラクションを中心に片っ端から楽しんだ。と言っても、そのやり方は千差万別。スタート直後に紛れ込んで、ちゃっかり空いている席に乗り込んだり、気付かれずに割り込んでみたり、上手く行かなかった時は「ムシ」の姿で付いて行って、乗っている気分を味わったりといった感じだ。
そのうち、それだけじゃ飽き足らなくなって、搭乗者を様々な手法で驚かせて楽しむといった悪戯を始めた。紗理奈の場合、矢吹天音や手塚|真琴、石井めぐみといった「ムシ」達と、既に同様の悪戯をした経験がある。それらを思い出しながら亜美の前で披露するだけで、思いの外に尊敬されてしまい、紗理奈はとても鼻高々だ。
ところが、次第に慣れて来た亜美が、エグい発送の悪戯を連発。自分で始めた事だけに、無邪気な笑顔の亜美を叱る訳には行かず、あたふたし出した紗理奈に対し、遅れて駆け付けた小川真花から心話での叱責が飛んだ。
〈こらーっ、亜美ちゃん、やり過ぎだよ! 紗理奈も何で止めないのよっ!〉
気が付くと、恐怖で失神したり、泣き出したりした女の子達が相次いでしまい、降車場は散々たる様子。そうした彼女達の対応で、アトラクションのスタッフ達は大忙しだった。
謝る訳にも手伝う訳にも行かない。どうしようかと悩んでいると、何処からともなく吉岡苺と赤井林檎がやって来て、コメディ-タッチのダンスを踊り出す。その上空では、真っ白な翅の真花が撒いた銀粉が辺り一面に広がって、夕陽を反射してキラキラと輝いた。
それらを見た女の子が、泣くのを忘れて「素敵!」と呟く。その子の後ろで失神から目覚めた女子高生が、二人の「シジミ」のダンスに笑顔で見惚れていた。
〈紗理奈さん、うちらの翅って、大きすぎて役立たずですね?〉
〈そんでも、シンデレラ城の上とかを舞ってる分には、絵になると思うんだけど……〉
〈それはそれで、怪奇現象とかで話題になっちゃったりするかもよ〉
〈うわあ、真花の言う通りだとしたら、また天音さんに怒られちゃう……。あれ?〉
その時、突然、紗理奈は胸騒ぎがした。
〈どうしたの、紗理奈?〉
〈ねえ、何か変な感じしない?〉
〈えっ、変な感じって……〉
〈紗理奈の言う通りかも。これって、亜美が「ムシ」になった時の「呼ばれてる」ってのに似てるよね?〉
〈違うよ、真花。もっと切羽詰まった感じだと思う〉
紗理奈は、高度を下げて地表の人達を見た。真花も同様に女の子を探す。探すのは、金髪かそれに近い髪の子だ。
二人の様子に疑問を持った亜美が訪ねた。
〈あ、あの、どうしたんです?〉
〈あ、亜美ちゃんは初めてだったね。新しく「ムシ」になる子が近くにいるみたいなんだけど、何か様子が変なの。その子にとって良くない事が怒ってるっていうか……〉
〈あ、紗理奈さん。ひょっとして、あの子ですか?〉
〈えっ?〉
〈ほら、あそこの売店の先です。明るい茶髪の女の子が、男の人達と一緒にいるの見えません?〉
〈うーん、男の人達と一緒っていうより、なんか引き摺られてるって感じだね〉
その子は、チャラそうな男子に手を引かれていて、別の男に背中を押されている。両側にも男達が張り付いており、まるで、警官に連行される事件の容疑者みたいだ。
明らかに異様な光景なのに、大きな騒ぎになっていないのが不思議。周囲の誰もが、見て見ぬフリってのが異様に思えた。
そうこうするうちに、とうとう彼女は繁みの中に連れ込まれてしまった。
〈亜美ちゃん、ありがとう。真花、行くよ〉
〈ラジャー〉
〈あ、あたしも行きます〉
三人の「ムシ」達は、急降下して茶髪の女子を囲む男達の前へと舞い下りて行った。
★★★
夕刻とはいえ、七月なので周囲は明るい。梅雨明けはまだだけど、今日は朝から雨は降っておらず、特に午後はずっと陽が差している。
たぶん、そのせいで本人も男達も気付いていないんだろうけど、その子の身体は既に薄っすらと光っていた。
紗理奈達が降り立ったのは、通路から十五メートルほど入った売店の裏の繁みだった。人気は皆無。割と背の高い木々に遮られているので、通路からも見えない。
男達は五人いて、淡い茶髪の子を取り囲んでいた。年齢は二十歳前後。割と小綺麗な身なりからして、大学生だろうか?
紗理奈と真花は、地上十メートルくらいの所で翅を消し、纏う光をミニマムにして、ゆっくりと地上に降り立った。最近になって覚えたやり方で、それだと目立たない分、騒ぎを最小限にできる。
先輩の二人を真似した亜美は、地上三メートルくらいの所で光を消してしまって落下。尻餅を付いて痛そうにしていた。
「うわあ、何だ何だ?」
「お前ら、いつの間に?」
「アキラさん、こいつら、空から落ちて来たんです」
「てことは、木の上にいたとか?」
「もう、そんな訳ないじゃない。おサルさんじゃないんだからねっ!」
「てか、あんたら、バカなんじゃないの?」
「な、何だとお?」
キレて殴り掛かって来た手前の男が、紗理奈の身体をすり抜けて前のめりに倒れ込んだ。その間に真花が別の男達を挑発して、捕らえられた女の子から遠ざける。それを見た亜美が、笑顔て悪戯を始めた。
紗理奈は自分の髪の毛をシュルシュルと伸ばして、最後に残った男の首に巻き付けた。そいつは、紗理奈が近付いてニコッと笑い掛けただけで、失神してしまった。
ところが……。
〈こ、来ないで……〉
紗理奈が一歩近づくと、その女の子が一歩後ずさる。
〈ふふっ、紗理奈ったら、すっかり怖がられちゃったみたいね〉
〈あ、真花。さっきの男達は?〉
〈そこで「おねんね」してる奴以外は、逃げてったよ〉
〈えっ、どうやって?〉
〈ちょっとだけ光を纏って身体を一メートルくらい浮かしてみたら、『お化けだあ!』って騒ぎだしちゃって……、失礼しちゃうわ〉
〈それ、あたしも怖かったです。どうやるか、後で教えて下さい〉
〈あ、亜美ちゃん。お尻は大丈夫?〉
〈げっ、さっきの尻餅、見てたんですか?〉
〈もちろん〉
〈あ、始まったみたいだよ〉
真花に言われて視線を目の前の女の子に戻すと、彼女の身体は既に直視できない程に光っており、背中に翅が形作られつつあった。
やがて彼女は、ゆっくりと空へと上がって行く。
紗理奈達三人も、急いで彼女の後を追って行った。
★★★
その子の翅は大きめの「ミッド」で、小川真花の翅とほぼ同じサイズ。色は、仄かなピンク。濃いピンクの翅脈が根本から放射状に走っている。
ピンクと言えば、確か日立の小室繭菜と会津の吾妻美和だが、画像で見た印象では、この子の方が薄い。今は季節じゃないけど、桜の花びらって感じの色だ。
〈ねえ、あなたって確か、小倉京姫ちゃんだよね?〉
〈えっ? 何で私の名前……〉
〈ふふっ、私、記憶力は良い方なんだ。私の事、覚えてないかなあ……って言っても、この姿じゃ分かんないよね。お正月の二日にネズミーランドで会ったんだけど……、妹さんの、えーと、姫奈ちゃんだっけ? その子が迷子になってて……〉
〈あ、思い出しました。あの時の綺麗な金髪のお姉さんですよね?〉
〈ふふっ、ちゃんとまた会えたでしょう?〉
〈あ、はい〉
〈私は、紗理奈。東山紗理奈って言うの〉
〈それなら、お正月にも名乗って頂きましたよ〉
〈そうだったね。覚えていてくれてありがとう〉
〈それより、今の私って、どういう状態なんでしょうか?〉
〈当然、知りたいよね。でも、その前に姫奈ちゃんとか、ご両親とか大丈夫?〉
〈うーん、それが……〉
その京姫の説明に依ると、正月の時と同様に家族四人で来たのだが、あまりの暑さに父親がダウン。午後からは三人で回っていたらしい。
ところが、京姫がトイレに入って出て来た所で、大学生風のチャラい系男子に声を掛けられ、強引に連れ去られたのだと言う。
〈てことは、今は迷子状態って事?〉
〈ええまあ〉
〈だったら、まずは連絡しなきゃ……。スマホ持ってる?〉
〈あ、はい〉
『随分と呑気な子だなあ』と思ったけど、たぶん、彼女の性格なんだろう。
紗理奈は、ひとまず京姫を人気の無いエリアへ誘導して、そこに着地。変異を解いたら、〈うわあ、本当に私と似たような髪色なんですねえ!〉という感嘆の声が上がった。
紗理奈は少しイラっとしたけど、グッと堪えて直ぐに母親へ連絡を入れさせる。その際、ちゃんと心話でなく、声を出して話すように言うのを忘れない。
最初、京姫はキョトンとしていて、何を言われたか分からなかった様子。「だったら、声を出してみてよ」と言って、何度かやり取りした後、やっと自分が声を出していなかった事を自覚させた。
普通の子は一瞬で出来る事なんだけど、彼女の場合、随分と時間が掛かってしまう。
「で、お母さん、どうだった?」
「あ、はい。大丈夫だそうです」
「えっ? 何が、大丈夫なの?」
「あ、私、『お友達とバッタリ会っちゃったんで、少しの間、別行動しても良い?』って聞いたんです。そしたら、『入口の所で待ち合わせましょう』って事になりました」
結論はそうかもしれないけど、実際には相当に長く話していて、明らかに揉めているようだった。紗理奈は、きっと京姫のしつこさに、母親の方が根負けしたんだろうと思った。
「それじゃあ、まずは何か食べながら話そうか?」
「あ、でも、私、あんまり持ち合わせが無くて」
「大丈夫。私、これでも社長令嬢だから、奢ってあげるよ」
「えっ?」
「そうそう。先輩に任せておきなさい……あ、一応、あたしも社長令嬢だからね」
「あのさ、亜美。あんたの場合、先輩って言っても、たったの三日でしょうが」
「てへっ」
亜美が悪戯っぽく笑う。京姫もそうだけど、やっぱり小学生だ。
「それじゃあ、外のファミレスで良いかな?」
「えっ、外へ出ちゃうんですか?」
「その方が良いじゃない。ネズミーランドの場内のレストランは、どこも混んでるし高いでしょう? チョウの翅があれば、いつだって出入り自由なんだよ」
「あ、そういやそうですね」
今度は、直ぐに京姫も理解してくれたようだった。
END118
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。
また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。
★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




