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117:七夕の時の出来事 (1)

◇2041年7月@千葉県浦安市 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)は藤代運輸の社長室を出た後、藤代亜美の「遊んでくれるよね!」という期待に満ちた瞳に抗い切れず、彼女の部屋で午後を過ごす事になった。どうやら亜美は、大半の「ムシ」達の例に漏れずにボッチだった様子。その為、紗理奈は、藤代家の家政婦からも期待に満ちた視線を向けられて、帰るに帰れなくなったって訳だ。

亜美は、ボッチの割には良く話す子だった。今まで話す相手が居なかった事で、話そうにも話せなかった鬱憤を晴らすとばかりに、どうでも良い事まで絶え間なく語り続けた。

とはいえ、亜美のような小学生には、そうそう話のネタなんて無い。そうなると、今度は紗理奈に話をねだる事になる。だけど、紗理奈の話は亜美にとって、思いの外に心に刺さる結果となったようだ。


「紗理奈さん、凄いです。拳銃を向けられても動じないなんて、ハードボイルド小説の中のヒーローみたいです」

「あの、私は女なんだけど」

「それでも、ヒーローはヒーローです……。で、そのピストルって、今は何処どこにあるんですか?」

「さあ、どうだったかなあ?」


まさか、未だに自分で持ってるだなんて言える訳がない。


「まだ持ってるんなら、一度、見せて下さいよー」

「嫌よ。二度と思い出したくもないんだから」

「そういうもんですか?」

「そういうもんだよ」


たぶん、アレが必要になる事なんてない筈……。


「紗理奈さん、そういうのフラグって言うんですよ」

「えっ?」


ひょっとして、思ってた事が口から出てたとか?


「出てませんけど、あたしには分かっちゃったんです。ふふっ、以心伝心って事ですよね……。あ、でも、そのピストル、ちゃんと仕舞っておいた方が良いかもしれませんよ。やっぱり、必要になる時があるって気がするんです。あたし、そういうカンは良く当たるんですよ」


そう言って亜美は、ニヤッと笑う。亜美も「ムシ」なだけに、一笑に付してしまえない不気味さがある。

それでも紗理奈はボソッと、〈そんな訳あるか……〉と呟いたのだが、それが心話だった事には気付かなかった。



★★★



その日の夜、榊原澪さかきばらみお以外の「ムシ」達五人は、東京ネズミーランドに集合した。お目当ては、七夕たなばたの夜のスペシャルパレード。直前まで近くのマウンテンアトラクションの上空で待機。パレード開始と共にパフォーマンスに参加した。

吉岡(いちご)と赤井林檎(りんご)の二人は、いち早く飛び出して行って、適当な台車の上に飛び乗ってはダンスを始めてしまった。

他の三人は、上空で巨大な翅をゆっくりと動かしていたけど、ちょっと目立ちすぎると思った紗理奈が翅を消して、笹を模した飾りの上にチョコんと腰を下ろす。もちろん、身体にしっかりと光を纏って、銀色に光らせている。すると宇宙人みたいに見えるようで、それなりにパレードに溶け込めるからだ。


〈うーん、七夕と宇宙人の組み合わせって、どうなんだろう?〉

〈どっちも星空に関係してるんだから、悪くないでしょう?〉

〈そうかしら?〉


真花まはなに首を傾げられてしまったけど、そんなの関係ない。

その真花は、中華風のお城の上で白い翅を休ませて、じっと辺りの様子を窺ってる感じ。亜美はというと……。


〈こら、亜美。あんた、何やってんのっ!〉


亜美は観客の前に舞い下りて、大学生風の男子達と睨み合っていたのだ。普通、巨大なアゲハの亜美の姿を見たら騒ぎ出す筈なのに、単なるアトラクションと思っている彼らは、全く動じない。それどころか、亜美に向かって掴み掛かろうとしている。

他のキャストは、銀色に光る見知らぬ少女が気になってはいても、どうにも出来ずに見守ってる様子。

ところが、男子達は亜美の身体からだに触れる事ができなかった。


「ちぇっ、これってどうなってんだ?」

「ホログラフとか?」

「それにしては、リアル過ぎねえか?」


随分と勝手な事を言われている。

ムカッときた紗理奈は、ポンと笹飾りから飛び降りて亜美のの前に立つと、彼らに向かい合った。男達は何を思ったのか、下卑た笑いを浮かべて掴み掛かって来る。咄嗟に紗理奈は髪の毛をシュルシュルと伸ばして、彼らの足に巻き付けてやる。男達が次々と転んだ所でハッとなった紗理奈は、素早く翅を出して舞い上がった。


〈もう、紗理奈こそ、何やってんのよっ!〉

〈ごめんごめん。ちょっとムキになっちゃった〉

〈ちょっとじゃないでしょうがっ! 天音あまねさんが知ったら、お説教だよ〉

〈あ、あの、天音さんって、そんなに怖い人なんですか?〉

〈うーん、私のお姉ちゃんの方が怖いかも〉

〈そういや、琴音ことねさんも怖いよね〉

〈関口さんも怒ると、結構、怖いよ。なんか嫌味とか言って、ネチネチ責めてくるって感じ〉

〈うわあ、それって確かに嫌かも……〉


そんな話をしながら、ひとまず紗理奈達は上空に退避。その間も苺と林檎の二人は、夢中になって踊ってる。

そんな風に七夕の前日の夜は、騒々しく過ぎて行ったのだった。



★★★



翌日の日曜の朝食の時、紗理奈は父の孝太郎から、早くも「藤代運輸の藤代真一社長に会った」という話を聞かされた。夕方の遅い時間に父の方から藤代運輸を訪れて、そのまま食事をしたと言う。

その時点で藤代社長の方は、まだ実際の「ムシ」を見ていない。それでも、娘の為に「茶髪の子の保護者会」への入会を即座に了承してくれた辺りは、やはり相当な娘思いのようだ。


「で、昨夜、お前はどうしてたんだ?」

「どうって、ネズミーランドの七夕パレードを見に行ってましたけど」


本当はパレードに参加して、結構、滅茶苦茶にはっちゃけたりしてたのだが、余計な事は言わない。


「そうか。『ムシ』ってのは、気軽に飛んで行けるから便利だな」

「ええ、まあ……」

「それより、陸翔りくとさんから連絡が入ったんだが、静岡の沼図で新しい『ムシ』の子が見付かったそうだな」

「そうみたいですね。私も今朝、みおと少し話しました。その子を家に送って行った時、ちょっとした騒動に巻き込まれたとも聞いています」

「それは、先方のご両親の問題だって聞いたぞ。自分の娘が生まれ付き茶髪だってのに、他の子を髪色だけで不良だと思い込むとか、どう考えてもおかしいだろ」

「でも、それが今の社会では一般的なんですよ。だからこそ、『茶髪の子の保護者会』が必要なんです」

「そうだな。だが、その親達は、やっぱり問題があるようでな」

「あ、それも聞きました……」


まだ何も決まってはいないが、その子を東京の私立の中学へ通わせる案が、既に榊原(みお)の母親のあやと、福島の菅野彩佳(あやか)との間で検討されているそうだ。

要は、「問題ある両親から、その子を引き離したい!」という事らしい。


「問題は、その子の学力なんだが……」

「そっちは大丈夫だと思います。『ムシ』になると、みんな、記憶力が良くなるんです。まあ、心話でもってカンニングみたいな事ができなくもないんだけど、そっちは最終手段にしたいですね」


具体的には、試験会場の近くの喫茶店とかに別の「ムシ」の子を待機させて、分からない問題を心話で教えてあげるって方法だ。絶対にバレないだろうけど、カンニングには間違いないので、積極的にやりたくはない。


「やっぱり一番の問題は、『先方のご両親を、どう説得するか』だと思いますよ」

「そうだな」

「だけど、同様のケースは、これからも増えて行きそうですね。なんか、『ムシ』の子って、家庭に問題のある子が多いような気がします」

「それは、うちにも言える事なんだが……」

「あ、いや、そういうつもりじゃ……」

「お前がそう意味で言ったんじゃないのは、分かってるよ」


ともあれ、紗理奈をトップに置く東京ファミリーは、東京から百キロ離れた沼津市のメンバーを新たに加え、これで七名になった。

だけど、まだまだ増えて行きそうである。



★★★



昼間は真面目に勉強して、今日も紗理奈は、夕方の早い時間からネズミーランドへ行った。正直、そんなに行きたくなかったけど、亜美が迎えに来たからだ。

亜美が家に来るのは初めてなのだが、「ムシ」の能力で紗理奈の居場所を察知し、部屋に飛び込んで来たようだ。ちょうど家政婦の松川愛子がおやつに紅茶とシュークリームを運んで来た時で、一緒におやつを食べるハメになったのだった。

既に多くの「ムシ」達を迎えた事のある松川は、いきなりの光の塊にだって動じない。何度も経験して、すっかり慣れてしまっている。澄ました顔で「あらあら、新しいお友達なのね」と言ってのけた彼女には、むしろ亜美の方が慌てた様子で自己紹介した。


「家政婦の松川愛子です。私なんかに丁寧な挨拶は不要ですよ」

「えっ、家政婦の方なんですか?」

「ほら、お母様とは仲が良くないって、昨日、話したじゃない」

「あ、そうでしたね。でも、弟さんがいるんじゃ……」

「ほとんど倫太郎りんたろうとも会った事が無いの。だって、会った事がお母様に知られちゃうと、大変な事になっちゃう」

「倫太郎様は、お嬢様にお会いしたいようですけど」

「えっ、そうなの? 初耳なんだけど」

「岡田さんが言ってましたよ。奥様がいらっしゃらない時に、一度お話されては如何ですか?」

「うーん、考えとく」


紗理奈とて、歳の離れた弟はそれなりに可愛いのだが、滅多に顔さえ合わせない親戚の子くらいの感覚なのだ。最近は、佐伯さあえき家の姉妹の方が身近って感じ……。


姉弟きょうだいって、そんなもんなんですか?」

「余所は分かんないけど、少なくとも、うちはそんな感じだよ」

「うーん、あたしは兄とか弟とか憧れてましたけどね」

「夢と現実は違うって事なんじゃない?」


シュークリームを食べ終えた後、小川真花(まはな)に心話を送ると〈後で合流する〉って事だったので、紗理奈と亜美は直ぐに出掛ける事にした。

紗理奈は、家政婦の松川に「夕ご飯、外で食べるね」と言い残し、亜美を伴って天井から外へ出て、一気に大空へと上昇。一路、ネズミーランドへと言葉通りに飛んで行った。




END117


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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