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109:相馬ファミリー発足

◇2041年6月@福島県相馬地方 <門馬里香>


結局、昨夜は、偶然に出会った三浦藍海みうらあいみと会った時の感想を、宮城の「ムシ」第一号の氏家優奈うじいえゆなと長々と喋っているうちに、気が付くと深夜になっていた。ホテルの部屋に戻ってみると、門馬里香もんまりかのベッドの中央には、予備の布団を丸めて人の形を作ってある。

里香は、同室の二人に「ありがとう」を言って、急いで着替えてベッドに入ると、直ぐに深い眠りに落ちて行った。


そして翌朝、里香が同室の二人から「ねえ、誰と会ってたの?」としつこく尋ねられたのは言うまでもない。

それで里香は、「こっちにいる友達と久しぶりに会ってた」と素直に話したのだが、友人達は全く信じてくれない。


「里香ってさあ、全然、クラスの男子に靡かないじゃない」

「なんか、『男に興味なし』って感じなんだよねー。だから、てっきり別の所に男がいると思ってたんだけど……」

「ひょっとして、女の子が好きだったりしてー、キャー」


バスに乗ってからもキャッキャと騒ぐ友人達を横目に見ながら、『確かに私って、男子に興味ないのかも』と思う。

「ムシ」になるまでの男子は、自分を虐める敵でしかなかった。中学生になって「ムシ」になってからは、逃げる事も軽く報復する事も出来るようになったから、男子は無害な他人に変わってはいるけど、そんな彼らを好きになろうとは思えない。


「里香ってさあ、勉強が出来るし運動神経も良いじゃん。それに、髪の毛は変わった色だけど、どう見たって可愛いし……、まあ、チビではあるんだけどね」

「こら、チビ言うな」

「ごめんごめん。でもさあ、たいていの男子にとって、里香は間違いなく高値の花なんだよ」

「えっ、私が高値の花?」

「あんた、自覚なかったの?」

「だって、中学に入るまで虐められっ子だったし……」

「それは、里香が可愛かったからじゃないの? 男子は、好きな女子を虐めたくなるって言うよ」

「ううん。それ、絶対に違うと思う。私、小さい頃は今よりもっとチビで、気弱だったし……」

「それは、しょうがないんじゃない? 里香って早生まれじゃん。成長が遅いのは普通の事だよ。その上、人と違う髪色で黙ってても人が寄って来ちゃう訳だから、いつもビクビクした性格になって当然だと思う。たぶん、近所に気の合う子がいたら別なんだろうけど、そうじゃなかったんでしょう?」

「うち、母子家庭で、私はいつもマンションの部屋に閉じ籠ってたの」

「要するに、公園デビューとかも無かったって事だね。まあ、しょうがないんじゃない?」

「そうなると、高校デビューに賭けるしかないね」

「別に良いよ。私、男子に興味ないもん」


とうとう言ってしまった。


「あ、別に女の子が好きとかじゃないからね……あ、いや、少しは好きかも」

「はあ?」

「あ、ごめん。そういう意味じゃないんだ。私、昔はボッチだったから、割と友達に飢えてるっていうか、こうして女子の仲間に囲まれてると安心するっていうか……」

「ふーん。やっぱ、未だに男子には苦手意識があるって事かあ」

「それ、結構、重症かもしんないねえ」

「変な男に引っ掛からなきゃ良いけど」

「うーん、そういう意味だと、うちらが守ってあげなきゃ駄目かもー」


そんな風に言われてはいるけど、里香は決して守られる立場なんかじゃない。むしろ、女子の集団を束ねて行く立場なのだ。


里香は、改めて自分の野望へと思いを馳せた。それは、里香が主導するファミリーの発足である。

現在、里香の後輩の「ムシ」は、木幡陽菜こはたひな氏家優奈うじいえゆな。あと一人いれば、ファミリーが出来る。

そう思った矢先の週末の朝、里香は待望の新しい「ムシ」の子が生まれる予兆を感じたのだった。



★★★



この時、里香が感じた「ムシ」の子の予兆は、南の方からで、距離は数キロ程度。明らかに梅宮医院の長女、梅宮愛莉うめみやあいりのものだと思われた。即座に彼女と連絡を取ってみると、案の定、『なんか、そわそわする』との事。念の為、医師である父親に診てもらったそうだが、病気ではないらしい。

里香は、「もうすぐ、『ムシ』になるんだよ」と言って、愛莉を落ち着かせた。


「そんでも、実際に『ムシ』になるのは夕方だから、それまでは普通に過ごしてて良いよ。夕方には、陽菜ひなと一緒に、そっちに行くから」

『あれ? 陽菜さんからメールだあ』

「ふふっ、『ムシ』には新しく『ムシ』になる子が分かるの。どうせ、その事だよ」

『うん。そうだった』

「なんか、心配な事とかある?」

『ううん。それよりも、凄く楽しみかも』


それから、愛莉の母親の英美ひでみさんとも少し話して、通話を終えた。

その後、木幡陽菜こはたひなから着信を受けて愛莉の事での指示を伝え、更に「クイーン」の矢吹天音(あまね)にもメールを送っておく。

返事は直ぐに来た。


『里香ちゃん、いよいよ相馬そうまファミリー発足だね!』


それを見た里香は、思わず顔がニヤけてしまう。

そういや、仙台で出会った三浦藍海みうらあいみって子も、たぶん、もうすぐ『ムシ』になる筈。そうなれば、相馬ファミリーのメンバーは、自分を含めて五人だ。と言っても、二人は仙台周辺なんだけど……。

里香は、スマホで改めて都市間の直線距離を確認してみた。


南相馬から仙台は、七十キロだ。

ちなみに、岩木市までは六十キロ。仙台よりは近いけど、誤差の範囲内って気がする。どっちも、気軽に行ける距離じゃない。

やっぱり、将来は別々のファミリーにするしかなさそうだ。



★★★



夕方、外がまだ明るい時間に『ムシ』になった梅宮愛莉(あいり)は、まさかの「シジミ」だった。ちっちゃくて丸い翅は、ホワイト。だけど、根本の所は銀色で、身体からだの方も銀色だから、キラキラと眩しいって感じ。

それに、宙返りの都度、銀色の光の粒がバラ撒かれて、バニラアイスのような甘―い匂いが辺りに漂う。


そんな愛莉に母親の英美は少し渋い表情だったけど、妹の愛音あいねは、「お姉ちゃん、すっごーい!」と手を叩いて喜んでいた。

だけど、その愛音以上に喜んだのは木幡陽菜こはたひなの方で、ずっと何度も「可愛い」を連発していた。


その後、里香と陽菜は梅宮家で夕食を御馳走になり、暗くなってから夜の空中散歩。やっぱり愛莉はスピードを出せないらしく、ゆっくりだったけど、それなりに楽しんでくれたみたい。

それと、今まで気付かなかったけど、愛莉は弱視だった様子。それほど強くはなかったそうだけど、当然、それもスッカリ治ってしまい、逆に遠くまでクッキリ見えると両親共に大喜び。

実は、妹の愛音も弱視だそうで、彼女にとっても「そのうち治る」というのは吉報だったようだ。


そういや、修学旅行の時に仙台で出会った三浦藍海(あいみ)も銀縁眼鏡(めがね)を掛けていたから訊いてみたら、やっぱり弱視だった。

「ムシ」の子で弱視や難聴だった子って、本当に多いみたいだ。



★★★



翌日の日曜日、氏家優奈うじいえゆなと三浦藍海(あいみ)の家族が、それぞれに車で宮城から駆け付けてくれた。

里香が修学旅行で仙台に行った際に出会った藍海の両親とは、その後、優奈の両親がコンタクトし、平日にも関わらず会いに行って、その場で意気投合したという。お互いに特殊な髪色の娘を持つとあって、とても他人とは思えなかったとの事だ。

それから藍海の両親は優奈の両親から「茶髪の子の保護者会」の存在を知り、相馬地区の代表を務める里香の母親、門馬紀香もんまのりかの下へやって来たという訳だ。

とはいえ、里香のマンションは狭いので、実際に集まったのは木幡陽菜こはたひなの家。彼女の両親は地元で土木会社を経営しており、敷地内に事務所やら重機の倉庫やらがあって、敷地が広く家も大きいからだ。


集まったのは、門馬、木幡、氏家、梅宮、三浦の五つの家族。この日は梅雨の合い間の晴天だった事もあって、広いお庭でバーベキューをした。木幡家では、こうしたバーベキューを従業員の家族と一緒に良くやるそうで、ビールとかのアルコール類はもちろん、お肉とかの食材も業務用の冷蔵庫に常時保管されているらしい。

野菜とかの下ごしらえは、女性全員が協力して行い、火起こしは男性が担当。みんなで協力し合った事で、準備は直ぐに終わった。

陽菜の母親の木幡菜々は、高級なお肉を惜しみなく提供してくれて、誰もが美味しいお肉に大感激。親達もビール片手にご機嫌でお喋りを楽しみ、夕方まで大騒ぎが続いた。


その最中、四人の「ムシ」達は何度か変異して見せた。三浦家の面々も予め「ムシ」の事を聞いていたらしく、現実離れした事にも取り乱したりしない。子供の頃の大震災で巨大津波を経験しており、予想外の出来事には耐性があるからだとか……。

そんな中、一番はしゃいでいたのは、新しく「ムシ」になった梅宮愛莉。「シジミ」の彼女は何度も何度も宙返りを披露し、この場の主役として全員を魅了していた。


この梅雨の切れ目の日曜日は、里香や愛莉だけでなく、ここに集まった全ての人達にとって、とても思い出に残る記念すべき日となったのだった。




END109


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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