106:東都大学のサポーター達(1)
◇2041年6月@東京 <小川千花>
名古屋への小旅行を終えた小川千花は、妹の真花と一緒に夜遅く自宅のタワマンの部屋へ戻って来た。すると、案の定、末っ子の唯花が拗ねている。一人だけ置いて行かれたからだ。
こうなる事を予想していた千花は、色々とお土産を用意していたのだが……。
「もう、真花ちゃんだけズルい」
「しょうがないじゃない。今回は、名古屋の『ムシ』の子に会いに行ったんだから」
「あたしも、早く『ムシ』になりたいよー」
「はいはい。もう遅いから、唯花は早く寝なさい」
その後も唯花はしばらく駄々をこねていたけど、真花が眠らせて部屋へ運んで行った。
昔から真花は唯花を寝かすのが上手いと思っていたが、今にしてみると、それも「ムシ」の力だったのかもしれない。そして、「ムシ」になった今は、前よりもアッサリと唯花を眠らせてしまう。だけど真花に言わせると、その力は微弱なもので、今の唯花のように元々眠かったりしないと使えないそうだけど……。
その真花が、唯花の部屋から戻って来ると言った。
「お姉ちゃん、先にシャワー浴びて良いよ」
「そう? でも、真花だって疲れてるでしょう?」
「私は、大丈夫。『ムシ』の子は普通より疲れにくくなるみたい」
「そうなの?」
「うん。それに、睡眠時間も短くて済むの。それより、また新しい『ムシ』の子が生まれたそうだよ」
「えっ、何処で?」
「下北沢だって。これで東京と千葉で五人だよ」
「へえ。なんか、どんどん増えて行くね」
そんな会話を交わした後、千花はシャワー室に向かった。
★★★
シャワーを浴びた後、千花は自室で髪の毛を乾かしながら、「茶髪の子の保護者会」の掲示板を見ていた。
今度の子は、吉岡苺と同じ『シジミ』のようだ。しかも名前が、赤井林檎。まるで冗談のような名前だ。これも、キラキラネームって言うんだろうか?
そんな事を思った後で、千花は、昨日と今日の出来事を振り返ってみた。千花にとって、六人もの「ムシ」達と知り合って、色々と話が出来たのは貴重な体験だった。その印象としては、「『ムシ』の子だって、普通の女の子なんだ」!というもの。
でも、矢吹天音に関しては、強い責任感のようなものを感じた。彼女だけが高校生だからってのもあるとは思うけど、それでも、年齢以上に大人びた感じがする。
それと良く似た印象を受けたのは、志賀沙織だ。そして、その二人に共通して言えるのは、長い間、一人っ切りの「ムシ」だった事。たった一人で夜空を飛んでいる間に、何らかの悟りを開いちゃったのかもしれない。
同様に、良く似た雰囲気を醸し出していたのが、東山紗理奈と深津花音の二人だ。彼女達は、凄く大人びた所がある反面、妙に子供っぽくなったりする。
それに、時々、全くの無表情になる点でも似ている。いわば、「何かに怯えているようでいて、全てを諦めている」って感じだろうか?
今日の午前中、その花音の家を、名古屋へ行った六人全員で訪問した。目的は、彼女の保護者に「茶髪の子の保護者会」の説明を行い、できれば入会してもらう事。結果として、父親の深津貴久と祖母の和歌子の二人が温かく出迎えてくれて、二人とも保護者会の主旨に賛同し、快く入会してもらえた。
それから、一緒に外で昼食を取ったのだが、店を出ると志賀沙織がいて、「ムシ」達六人で何処かへ行ってしまった。それで仕方なく千花は、早坂琴音と二人で名駅(名古屋駅)へ行って、夕方まで買い物をして過ごした。
帰りの新幹線の中で真花に聞いた所、彼女達は名港(名古屋港)にあるテーマパークと水族館、それから東山の動物園と植物園に行ったらしい。当然、入場料なんて払わずに、「ムシ」の姿で空から舞い下りるか、壁抜けして入場したという。
千花が真花に、「そんな事して大丈夫なの?」と問い詰めたら、「いつもやってる事だから」と、そっけない返事。
「別に、お金がもったいないとかじゃないんだよ。もったいないのは、時間なの。それと、騒ぎを起こしたくないだけ」
「それ、どういう事よ。私が納得できるように説明しなさい!」
「うーん、難しいんだけど、『本当は大人なのに、子供のフリするのは疲れる』って感じかなあ?」
「何それ、ますます分かんないんだけど……」
その後、千花が色々と聞いて理解したのは、「普通の人にとっての壁が、「ムシ」にとっては存在しない」って事。それなのに、「わざわざ横道に逸れて、並んで切符を買うって行為は面倒だし、無駄としか思えない」のだとか……。
とはいえ、「ルールはルールじゃない」と咎めると、「絶対にバレない訳だし、短時間で観光スポットを効率よく回るには、そうするしかないんだもん」と言う。
隣りにいた早坂琴音に、「どう思う?」って聞いたら、「別に、良いんじゃない」という言葉が返ってきて、少し拍子抜けした。
「社会の仕組みが、『ムシ』という存在に適用できてないんだと思う。誰かに迷惑が掛かったりするのは不味いけど、そうじゃないなら大目に見てあげたら?」
琴音が言うのも分からなくはないけど、姉の立場としては微妙だ。
「まあでも、『ムシ』の子の倫理観についての議論は大事だと思うわ。今の『ムシ』の子達は幼い分、楽な方へ流されかねないから、歯止めは必要よ。今の所、それが『他人に迷惑を掛けない』って事なんだけど、そんでも時々やらかす子がいて、天音ちゃんや凜華ちゃんに叱られてるって感じかしら。気になるんなら、天音ちゃんと話してみたら?」
一応、「ムシ」達には「ムシ」達のルールがあって、それに基づいて行動しているって事ではあるようだ。
★★★
という訳で、現在、千花は大学の学食にいて、二週間ぶりくらいに鵜飼優流、立花奏音と向かい合って座っていた。すると、そこへ、「ごめん、遅くなっちゃった」と言いながら、早坂琴音がやって来る。前の講義が長引いていたそうだ。
「大丈夫。私も今来たとこだから。まあ、そこの二人は、さっきの講義、自主休講だったみたいだけど」
「違う違う。それは優流だけで、僕は元から講義、入れてないんだ」
「そんでさ、名古屋はどうだったんだよ」
「もう、優流くんったら、講義サボったの誤魔化したいってのが、見え見えなんだけどー」
「別に良いだろ。一回ぐらいサボったって」
「まあ良いけど。後で困るのはアンタだからさ」
「ちぇっ」
千花の言葉で、優流は拗ねてしまったようだ。
「ふふっ、千花って、やっぱり生徒会長だよね」
「僕は、長女気質って奴だと思うけどね」
「しょうがないでしょう。三人姉妹の長女なんだから」
「はいはい。ちっとも話が進まないから、私から説明するわね」
そう言って琴音は、名古屋への小旅行の成果について、ざっと説明すた。
要約すると、名古屋には「ムシ」が二人いて、二人目は「タテハ」。しかもサイズは「ムラサキ」より少し大きい。
二人とも親へのカミングアウトを済ませていて、その親達は、「茶髪の子の保護者会」への入会もアッサリと受け入れてくれた。
二人の「ムシ」達が調べた結果、今の所、東海三県に他の「ムシ」の子はいないそうだ。
「ふーん。二人いたってのは、驚きだな」
「てことは、大阪とか静岡とかにも、マジでいそうだよね」
「その前に、新潟なんじゃない? 福島から近いし」
「震災の時、新潟に避難して、そのまま定着しちゃった家族がいるそうだしな」
「そうね。夏休みに行ってみる必要があるかもね」
「その前に、サカキバラ商事との提携なんじゃないの? サカキバラの支店網を使って調査してもらうべきよ」
「確かに、そうかもな」
そこで、立花奏音が声を上げた。
「そういや、名古屋の『タテハ』の子だけど、関口さんのサイトに載ってたぞ」
「関口さんのサイト」とは、「未確認飛行少女情報サイト」の事だ。
立花はタブレット端末を取り出して、早速、そのサイトを表示させる。
「てことは、ようやく名古屋にも閲覧者が出来たって事だな」
「そいつ、受験生みたいだぞ。ほら、これだ」
その閲覧者のハンドルネームが、「名古屋の受験生」というらしい。
「てことは、中三か高三って事かな?」
「浪人生って可能性もあるだろ」
「でもさ、『家の近くで目撃した』ってあるから、その、花音ちゃんだっけ? その子の近所に住んでるんじゃないか?」
「そうかもしんないけど、花音ちゃんのマンションの辺りって、割と街中だったわよ。周りには同じようなマンションが幾つもあって、とても対象の子が絞り込めるとは思えないわ」
「えっ、名古屋って、そんなに都会なのか?」
「何言ってんの? 今や名古屋は、日本の産業の中心と言っても良い街よ。日本全体の人口が減って行く中で、あの辺りだけが増えてるの。都会に決まってるでしょうが」
「あはは。僕も名古屋には行った事ないんだけど、千花が言ったのは正しいと思うよ」
「そうなのか?」
「常識でしょう? ほら、これ見てよ」
琴音が、自分のスマホの映像を鵜飼優流に見せた。名駅(名古屋駅)付近の高層ビル群を写したものだ。
千花にとって名古屋は何の愛着も無い街なのだが、奏音と琴音が名古屋の凄さをアピールしてくれた事で、何故か溜飲が下がる思いがしたのだった。
END106
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




