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102:名古屋訪問(2)

◇2041年6月@名古屋 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)達六人の一行は、名古屋の「ムシ」である志賀沙織、深津花音ふかつかのんの二人と一緒に、駅近くの地下街にあるきしめん屋に入った。時刻は、十二時少し前。『この時間なら大丈夫だろう』と思っていたのだが、既に満席で、入口付近に数人が待っている状態だった。

紗理奈は、白いシンプルなワンピースを着た志賀沙織に尋ねてみた。


「ここって、人気店なんですか?」

「さあ、そうじゃないと思うけど、花音ちゃん、知ってる?」

「たぶん、普通だと思います……。あ、普通っていうのは、普通に人気があるって意味なんですけど」

「大丈夫、分かるわよ」


千花ちはなが笑ってフォローすると、隣の琴音ことねが、「でも、やっぱり名古屋は活気があるわね」と続ける。


「私も高層ビルが多くてビックリしちゃった」

「あら、真花まはなちゃんは、しょっちゅう新宿に行ってるんじゃないの」

みおが住んでる辺りはもちろん凄いんだけど……あ、ごめんなさい。私、名古屋を見くびってました」

「大丈夫です。名古屋が今みたいになったのって、私が生まれてからのようだし……」

「あら、もう少し前からみたいよ。東京オリンピックの頃には、だいぶビルが建ってたらしいわ」


そうこうするうちに店員がやって来て、濃厚なカツオだしの匂いが漂う店内へと案内される。

紗理奈が注文したのは、エビフライが載った温かいきしめん。冷たいのもあるけど、冷房が強いせいで少し肌寒かったからだ。

周囲を見てみると、他のお客さん達も同じように温かい方を選んでいる人が多い。すると、琴音が口を開いた。


「うちの大学の学食にもきしめんはあるんだけど、冷たい方だけなのよね。だから、私、きしめんってそういう食べ物だと思ってたわ」

「ふふっ、いくらなんでも、それは極端じゃないの?」

「でも、東京じゃ滅多にみないでしょう?」

「あら、スーパーの乾麺コーナーにはあったわよ。茹でる時間が多少短くて済むからじゃないかしら」


大学生二人がそんなやり取りをしている横では、「ムシ」達六人が心話で会話していた。


〈やっぱり、うちらって見られてるわね〉

〈しょうがないと思いますよ。金髪かそれに近い髪色の女子が六人もいますから〉

〈私と沙織さんの二人だけだと、そういう趣味の子って事でスルーされてたんだけど、六人だと話題になっちゃいますね〉

〈花音ちゃん、うちらって、そんな風に見られてたの?〉

〈沙織さん、知らなかったんですか?〉


そんな会話を交わしているうちに、各自が注文したきしめんが運ばれて来る。それで大学生二人は黙ったけど、「ムシ」達六人のお喋りは、食べている間もかしましく続いていた。声を出さないでも喋れるってのは、こういう時にハッキリと違いが現れるのである。



★★★



昼食の後は、地下鉄に乗って志賀沙織の家の近くまで移動する事になった。沙織の家族は中川区の借家に住んでおり、今夜、そこに絢乃と天音の二人が泊まる事になっている。よって、「沙織の両親を入れて話をするなら、その近くに移動した方が良い」となったのだ。

ご両親との面会を紗理奈達が望んだのは、沙織が「ムシ」であるのが既に家族内で周知されているとの事だったからだ。

更に、もう一人の「ムシ」である深津花音に関しても、カミングアウトは済ませているらしい。ただし、彼女は父子家庭で一人っ子のようで、相手は父親一人だと言う。そして、志賀家の人達は、その父親、深津貴久(たかひさ)とも親交があるようだった。


〈花音ちゃんのお父さんは、お医者さんなんですよ〉

〈へえ、凄いじゃない。てことは、お金持ち?〉

〈違う違う。うちは勤務医だから、サラリーマンと変わらないレベルだよ〉

〈ふふっ、サラリーマンと言っても、一流会社の部長とかと同じレベルでしょう?〉

〈あ、見えてきた。あそこのファミレスが待ち合わせ場所なんです〉


あまり父親の話はしたくないのか、花音が前方のファミレスを指差した。それでも、まだまだ距離がありそうだ。


〈沙織さんは、妹さんがいるんですよね?〉

〈はい。と言っても、まだ小学校へ上がったばっかりなんですけど〉

〈へえ、だったら、可愛くてしょうがないんじゃないですか?〉

〈ええまあ〉

〈早苗ちゃんって言うんだけど、めっちゃ可愛いですよー〉


どうやら、その子には花音もメロメロのようだ。



★★★



沙織の両親、志賀章人(あきと)織絵おりえは、ごく普通の中年夫婦だった。二人とも工場勤務だが、全く別の業種らしい。


「ダンナの工場には女子向きの楽な職場もあるそうなんですけど、うちは食品工場で、正直、仕事はきついんです。まあ、その分、お給料は良いですし、休みもちゃんともらえますから不満はありませんけどね」

「確かに俺の方は自動車部品工場と言っても、電装品だから楽な方ではあるわな」

「まあでも、うちら、身体からだだけは丈夫ですからね」

「二人とも漁師の家系だからな」


要するに、三十年前の震災の津波によって、消滅した街に住んでいたという訳だ。その後も日本のあちこちで大きな地震が起きてはいるのだが、やはり三十年前の地震の損害は桁外れだったようだ。


「震災の時、俺ら二人は小学生だったんだが、学校が少し高台にあったんで助かったんだ。そんでも、自分が生まれた街が全滅だったのは、凄いショックだったな」

「何ヶ月もの間、頻繁に揺れが続いてましたからねえ。そうかと思うと、原発が爆発しちゃうし……。あの時の事を思うと、うちら、ちょっとやそっとの事じゃ驚きませんって」


二人の話に、天音だけが頷いている。天音の場合、震災の時の話を両親から何度も聞かされているそうだが、絢乃の両親は話をしたがらないと言う。その辺は、きっと震災の際に両親が経験した事の違いなんだろう。

しばらくは、そんな雑談を交わした後で、「茶髪の子の保護者会」の話になった。沙織の両親に異論は無いようで、すんなりと入会してくれる。今の所、特に会費とかは無い為、デメリットは考え難いのだ。

花音の父親についても出きれば会っておきたいけど、ダメなら章人から話をしてもらう事にした。


「そう言えば、沙織さんには妹さんがいるというお話でしたけど……」

「ああ、早苗なら家にいますよ。呼びましょうか?」

「だったら、私が連れて来るよ」


そう言って店を出て行った沙織は、ほんの十五分程で金髪の女の子を連れて戻って来た。



★★★



改めて見た志賀沙織は、ひとことで言うと儚げな美少女だ。彼女は「ムシ」になる子にありがちな障碍こそ無かったものの、生まれ付き身体からだの弱い子だったという。その為、今でも小柄で、中学二年生になっても身長は百五十センチあるかどうかだ。

身長以上に気になるのは、華奢な体型。手足が細くて、直ぐに折れてしまいそう。その一方で顔は整っていて、小顔でありながら目は大きい。クッキリと二重ふたえの瞳は、薄茶色。背中まで伸びた長い髪の毛は淡い茶色だけど、光を浴びると銀色にだって見えなくもない。

つまり、良く見れば紛れもない美少女なのに、何となく存在感が希薄なのだ。ただし、同じく存在感が薄い穂積郁代ほづみいくよと比べると、どこか違う。郁代の場合、「影が薄い」という感じなのに対して、沙織の印象は、「透明な少女」とでも言うべきだろうか?


そんな沙織の七つ下の妹、志賀早苗はといいうと、姉とは対照的に目立つ少女だった。髪は金髪で、キラキラと輝いて見える。やはり小柄で体型も華奢だけど、むしろ健康的で天真爛漫なイメージの子だ。

そんな早苗だけど、実は左手に欠陥を抱えている。生まれ付き左手の指が動かない。ていうか、握ったままなのだ。


〈あのー、天音さんの話だと、たいていの障碍は「ムシ」になった時に治るって言いますけど、早苗の左手はどうなんでしょうか?〉

〈治るような気もするんだけど、ごめんなさい。実際に「ムシ」になってみないと分からないわ〉

〈そうですか……〉


天音の返事に沙織は、見るからに落胆して見えた。

だけど……。


〈まあでも、「ムシ」になれば世界が広がるっていうか、確実に出来る事が増えるのよ。それは、沙織ちゃんだって分かるでしょう?〉

〈はい。実は私、最初に『ムシ』になった時は、すっごく怖かったし不安だったんです。けど、今では逆に、すっごく良かったって思ってます〉

〈そうね。私の場合も十ヶ月くらいの間、一人ぼっちだったから、沙織ちゃんの言いたい事は何となく分かるわ。一人の時は割と孤独だったりしたけど、それでも、不思議と「『ムシ』になんて、ならなきゃ良かった」って思った事は無いわね〉

〈ふふっ、その時は、まだ「ムシ」なんて言葉は無かったんじゃないですか?〉

〈それはまあ、そうなんだけど、紗理奈ちゃんに言われると、なんか私が年寄りみたいじゃない」

〈いやいや、天音さんの事は敬愛してますから〉

〈そうかしら……。それより、紗理奈ちゃんが一人の時はどうだった?〉

〈私が東京で一人だったのは、ほんの四ヶ月くらいでしたから……。それに、天音さんを始めとした多くのお姉さん達と、頻繁にスマホで話せましたから、そんなに淋しくは無かったです〉


大学生の琴音と千花ちはなが、志賀沙織の両親に保護者会の詳細の説明をしている横で、花音かのん真花まはなが可愛い早苗ちゃんと戯れている。

その間、天音、紗理奈、沙織の三人は、各地区のトップの立場での会話を心話で交わしていたのだった。




END102


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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