表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/123

101:名古屋訪問(1)

◇2041年6月@東京~名古屋 <東山紗理奈>


六月に入って三度目の土曜日、東山紗理奈(さりな)は、予定通り名古屋へ行く事になった。とはいえ、福島から来るメンバー、矢吹天音(あまね)鯨岡絢乃くじらおかあやのの二人を待っての出発となる為、朝は少し余裕がある。それで現在、紗理奈は、父の孝太郎と向かい合ってダイニングテーブルに着いていた。


「珍しいですね。お父さんが土曜日に家で朝食を取るなんて」

「お前が名古屋に行くって聞いたからな」

「名古屋なんて、新幹線でも一時間半じゃないですか。リニアだと、もっと早いですよね?」

「そうなんだが、最近はどこも物騒だからな」

「ふふっ、それでも『ムシ』の私は大丈夫ですよ。不意打ちでもされない限りは不死身です。それに、元から荒事には慣れてますし……」


最近、こうして父の孝太郎と何度も顔を合わせているうちに、「紗理奈が公立の小学校で、どういう毎日を送っていたか?」を始め、「担任の女性教師、坂本佳花(よしか)とのイザコザ」、「不良男子四人組によるリンチ事件」、「『ムシ』になった経緯いきさつ」といった事柄についても、ざっくばらんに話してしまっていた。

当然、父はドン引きだったし、罪悪感に苛まれてもいたようだけど、紗理奈にとってみれば、全ては既に終わった事。その為、大した感慨も無く、あたかも他人事のように淡々と語って行った。

だいたい、今の紗理奈は十三歳。過去の思い出に浸るような歳じゃない。


「それでも、今日のメンバーは女性だけなんだろう?」

「はい。大学生二人と高校生一人、私と同じ中学一年生が三人です。大学生以外の四人が『ムシ』になれます」

「てことは、相当に目立つ集団なんじゃないのか?」

「そうかもしれません。できるだけ、騒ぎを起こさないようにしたいと思います」


そんなやり取りをしながらも、いつもより早いペースで紗理奈は朝食を平らげて行く。そして最後に、マグカップに半分ほど残っていたカフェオレを一気に飲み干して、席を立った。


「では、行って来ます。明日は少し遅くなるかもしれませんが、心配しないで下さい。ちゃんと帰って来ますので」



★★★



待ち合わせは、東京駅。福島の天音と絢乃は「ムシ」になって飛んで来るそうだが、近郊の何処かでJRを使うとの事。少しでも目立つのを避ける為らしい。

東京からのメンバーは、早坂琴音(ことね)、小川千花(ちはな)真花まはなの姉妹、そして紗理奈の四人。「ムシ」同士なら細かい待ち合わせ場所を決めなくても、お互いの気配で分かるし心話も使えるから、自然に集まれる。千花は真花と一緒の行動なので、琴音だけが千花とスマホでやり取りしながらの合流である。


「なんか、『ムシ』の子って、いつの間にか一緒にいるって感じなのね」

「ふふっ、これでも、ちゃんと挨拶はしてるんですよ」

「心話って奴でしょう?」

「良いわね。いつでも話ができて」

「四六時中、喋りっ放しって訳じゃないですよ」

「あ、でも、真凛まりんちゃんと鈴音すずねちゃんの場合、しょっちゅう喋ってるって感じみたいです」

「ふふっ、そのほとんどが口喧嘩だって、凜華りんかちゃんが言ってたわよ」

「そういや、凜華ちゃんと真凛ちゃん、修学旅行で東京に来たんでしょう? 大丈夫だった?」

「うーん、真凛さんは、ちょっと……」

「正直、びっくりしました」

「ふふっ、あの子、こっちで相当にやらかしたみたいね」

「でも、人助けとかもしてましたよ」

「暴力団の事務所に、意味も無く突入したって聞いたわよ」

「何それ、怖い。真花も付いてったの?」

「あのね、この世には、お姉ちゃんの知らない世界ってのがあるの」

「もう、最近の真花ったら、時々生意気になるんだから」


そんな会話を交わしているうちに、目的のプラットフォームに到着。事前に予約してあった「のぞみ」号は、既にドアが開いていて、そのまま乗り込む事が出来た。



★★★



車中で紗理奈は、矢吹天音、鯨岡絢乃の二人と同じシートに座って、これから会いに行く「ムシ」候補の子、志賀沙織の話を聞いた。

現在、沙織は中学二年生。学年はひとつ上だけど、彼女は二月生まれなので、四月生まれの紗理奈とは二ヶ月しか違わない。てことは、紗理奈より少し前に「ムシ」になったって事になる。今から一年とちょっと前だ。


〈つまり、一年ちょっとの間、彼女はひとりぼっちだったって事なの。本当に、もっと早く気付くべきだったわ〉

〈今更ですよ、天音さん。それより、絢乃ちゃん。「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」のリンクとかは、送ってあるんだよね?〉

〈あ、はい〉

〈てことは、私達が会いに行く本当の目的は伝えてあるの?〉

〈いや、伝えてないです。やっぱ、会ってからの方が良いかなって思ってまして……〉

〈ふーん。絢乃ちゃんって、めぐみと同じで「やんちゃな子」って聞いてたけど、割と慎重なんだね〉

〈意気地なしなだけです〉


そうは言っても、絢乃って子は割と賢そうだ。


〈あの、話は変わりますけど、紗理奈さんは名古屋に行くの初めてですか?〉

〈うん。初めてだよ。私、ほとんど遠くに行った事が無いんだ。絢乃ちゃんは?〉

〈私もです。てか、私、ほとんど福島から出てないかも〉

〈そうなんだ……。私も似たようなもんだよ。「ムシ」になって自分で飛んで行った所が、一番遠くって感じだからさ〉

〈そうなんですね。私、まだ「ムシ」になったばっかりなんだけど、これから色んな所へ行きたいです〉

〈ふふっ、絢乃ちゃんの翅だったら、きっと、何処どこまででも飛んで行けそうだね〉

〈こら、紗理奈ちゃん。絢乃に余計なこと言っちゃ駄目だからね〉


突然、天音から叱責が飛んできた。


〈この子、放っておくと、北海道でも九州でも行っちゃいそうなのよ。つまり、そんだけ大きくて高性能な翅なの〉

〈ふふっ、お化けアゲハでしたっけ? 私も、早く実物を見てみたいです……。てことは、ひょっとして、海外へだって行っちゃっうんでしょうか? ハワイとか……〉

〈だ、か、ら、怖いこと言わないで頂戴。CIAとかに捕まったりしたら、どうすんのっ!〉


紗理奈は冗談だと思ったけど、天音は真面目だった。


〈とにかく、絢乃は、勝手に遠くへ行っちゃ駄目。それに、どっかへ行く時は、必ず事前に私か杏樹あんじゅに言う事〉

〈ええーっ、それだと、コンビニへも行けなくなっちゃう〉

〈もう、そういうのじゃなくて……。だったら、岩木市内なら良い事にしておくわ〉

〈そんでも、高萩の沙良さんの所へ行けないんですけどー〉

〈じゃあ、日立の繭菜まゆなの所までなら良い事にします。でも、水戸とか郡山とかは、私に言わないと駄目だからね〉

〈ふふっ、水戸には、めぐみがいるからですね?〉

〈そうよ。めぐみちゃんと絢乃がつるんだりしたら、もう私じゃ手に負えなくなっちゃうもの〉


そんな取り留めのない話をしていたら、気が付くと名古屋駅に近付いていた。

すると、突然、知らない「ムシ」の子からの「声」が飛んで来たのだ。


〈ようこそ、名古屋へ。私、深津花音ふかつかのんって言います〉


まさかの、新しい「ムシ」からの心話だった。



★★★



〈えっ、新しい「ムシ」の子?〉


思わず紗理奈が呟いた言葉に、その子から返答があった。


〈はい。先月、「ムシ」になったばかりなんです〉


今度は、天音が応じた。


〈そうだったのね。おめでとう。私は、「クイーン」の矢吹天音よ〉

〈あ、私は、東山紗理奈。東京の「ムシ」です〉

〈ふふっ、東京って言っても、浦安だけどね〉

〈こら、真花まはな!〉

〈もう、内輪の喧嘩は止めなさい〉

〈あの、アタシは、鯨岡絢乃。沙織お姉ちゃんの幼馴染です〉

〈あなたが、絢乃ちゃんなのね。沙織さんから話は聞いてるわ〉

〈そっか。宜しくね〉

〈こちらこそ。あの、私と沙織さんは、改札を出た所で待っていますので、宜しくお願いします〉

〈志賀沙織です。私の事も宜しくお願いします〉


その直後、志賀沙織からも心話が飛んで来た。これで沙織も「ムシ」になっていた事が確定した。つまり、名古屋の「ムシ」は、二人いるって訳だ。


そうして、再び今度は沙織と四人の「ムシ」達との間の挨拶が始まり、それが終わった頃、琴音と千花を加えた六人を乗せた新幹線「のぞみ」号は、ゆっくりと名古屋駅のホームに入って行く。


やがて、プラットフォームに降り立つと、途端に粘っこい湿気と熱気に包まれた。まだ六月だというのに、この暑さは想像以上だ。

プラットフォームからは、間近に林立した高層ビル群が見える。渋谷や新宿に負けず劣らずの都会の風景だ。

紗理奈達六人は、人の流れのままに下りのエスカレータへ吸い込まれて行く。その間、絢乃は沙織との間で心話のやり取りを継続中。花音かのんとは主に天音が、この後の昼食についての相談をしていた。


間もなくして改札が見えると、その向こうに、大きく手を振る二人の淡い茶髪の女子が目に飛び込んで来た。その途端、絢乃が駆け出した。そして、いち早く改札を抜けると、その内の一人に抱き着いた。


〈沙織お姉ちゃん、会いたかったよう!〉

〈はいはい。絢乃ちゃん、私もよ〉


紗理奈達五人は、ゆっくりと絢乃の後を追って改札を通る。そこへ、もう一人の女子が声を掛けてきた。


「ようこそ、名古屋へ。私が深津花音です」


これが、東山紗理奈と、のちに東海三県の「ムシ」達を束ねる「クイーン」となる深津花音との、最初の出会いだった。




END101


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ