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100:凜華と真凛の修学旅行

◇2041年6月@東京 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)を含む「ムシ」達が榊原陸翔さかきばらりくととの面談を終えた後、福島から相次いで「ムシ」のお姉さん達がやって来た。火曜日が玉根凜華たまねりんか、水曜日が安斎あんざい改め芳賀真凛はがまりんで、二人は共に中学の修学旅行。目的地は、紗理奈の家の近くにある東京ネズミーランドである。

そうなると、当然、東京ファミリーのメンバー勢揃いで会いに行く事になる。

まずは火曜日の夜、早めに夕食を終えた紗理奈は、予め凜華から聞かされていたホテルの屋上で待機。直ぐに榊原(みお)、小川真花(まはな)、吉岡(いちご)といった仲間達も集まって来る。

凜華とは心話で連絡を取っており、夕食後の自由時間になるや否や外へ出て来た彼女と合流。挨拶もそこそこに、ネズミーランドのシンデレラ城へ移動。塔の上で改めて挨拶を交わした。


〈あの、初対面なのに、なんか全然、そんな感じがしないですよね〉

〈当たり前じゃない。しょっちゅうスマホのアプリで話してるんだから〉

〈でも、こうして直に会えて嬉しいです〉

〈真花ちゃんだっけ? 随分と嬉しいこと言ってくれるじゃない〉

〈アタシも嬉しいです〉

〈こら、苺。そんな所で宙返りとかしないの〉

〈ふふっ、なんか珠姫たまきにそっくりだね〉

〈珠姫さんって、最初の「シジミ」の人ですよね?〉

〈そうだよ。珠姫も直ぐに宙返りをしたがるんだ。でも、美優みゆちゃんは、あんまりしないんだよねー。美優ちゃんの翅は、同じ「シジミ」でも、ちょっとだけ大きいからかな?〉

〈あのー、アタシの翅は?〉

〈苺ちゃんのは、珠姫と同じくらいかなあ〉

〈あ、パレード、始まったみたい〉


真花の言葉で、四人はパレードの中に乱入。苺を中心に、例によって一緒になって踊ってみたり、周囲を飛び回ってみたりし始めたのだった。



★★★



玉根凜華が修学旅行で東京ネズミーランドに来たという事は、紗理奈が「ムシ」になった日から一年が過ぎたという事だ。もっとも、性格には数日の違いがあるのだが、そんな事は些事だろう。


あの日、紗理奈は間違いなく死に掛けた。正直に言うと、不良男子四人組に呼び出されてノコノコと付いて行った事自体、紗理奈が自暴自棄になっていた証拠だ。どんなに馬鹿な女子だって、男子達から体育館裏なんかに呼び出されたら、それがどういう事か分かるに決まってる。

あの日は、今にも雨が降って来そうな天気で、朝から気分が最悪だった。それで、『いっそ死んじゃえ!』って思っていたんだ。さすがに自分が死んだら、あの憎い担任教師だって、少しは罪に問われるだろうといった打算もあった。

実際、紗理奈は重傷を負って、雨の中で呻きながら死ぬのを待っていた訳だ。そんな時、天音さんが颯爽と現れて、身体からだを癒してくれた事で、私は「ムシ」になる事が出来た。そして、この力を手に入れた今は、ほぼ不死身。更に大勢の仲間達を得る事が出来て、人生が急に上向き出したのは間違いない。


それが、ほんの一年前の出来事なのだ。


そんな話を紗理奈が凜華りんかにしたら、〈実は私も、小学生の卒業式の少し前、担任教師に殺されそうになった事があるの〉といった、信じ難い打ち明け話をされてしまった。


〈その時の担任教師、紗理奈ちゃんの時と同じように女の先生でね、何でか分からないけど、私の事、恨んでたみたい。でね、もうすぐ卒業だからって、急に「教室の大掃除をやりましょう」なんて言うのよ。「お世話になった教室へのささやかな恩返し」とか言うんだけど、どう見ても怪しいよね。で、案の定、私だけに「窓ガラスの掃除をしなさい」とか言うの。うちの教室は四階にあって、手すりなんて無いのにね〉

〈それで、どうなったんですか?〉

〈窓の桟に上がってガラスを拭いている時、ドンと容赦なく外へ突き飛ばされたのよ。下はコンクリートだったし、「ムシ」になってなかったら、もし生きてたとしても重症だったでしょうね〉

〈酷い……〉

〈紗理奈ちゃん程じゃないと思うけど〉

〈先生って、どうして、そんな事が出来るんでしょうね?〉

〈でも、全部の先生がそうだって訳じゃないよ。そういう悪い人っていうのは、どんな所にだって一定数いるんだと思う〉

〈まあ、そうでしょうけど〉


そんな話をパレードの後にしてから、ひとまずホテルへ戻った凜華が入浴を済ませるのを待って、再び合流。その後は東京湾岸沿いの空中散歩をして、夜の十一時頃になって別れたのだった。



★★★



翌日の夜の相手は、芳賀真凛はがまりんである。彼女の場合も最初は、昨夜の玉根凜華たまねりんかの時と同じように合流して、同じように東京ネズミーランドへ行った。そして同じようにパレードで大騒ぎした。

昨夜と違ったのは、その後だ。

凜華は、お風呂に入る為にいったんホテルに戻ったのだが、真凛は〈そんなの、戻る訳ないじゃん〉と言う。


〈スーパー銭湯に潜り込んじゃえば、タダでお風呂に入れるんだよー〉


その真凛は腰にウエストポーチを付けていて、その中に下着を入れているらしい。


〈別に気持ち悪いなら、パンツなんて儚きゃ良いんだよー。脱いだのはポケットに入れときゃ良いしー……〉


彼女が随分と豪胆な性格なのは、本当の事のようだ。それに拒絶反応を示したのは、意外にもいちごだった。だけど、一人だけ行かないなんて許さない。

結局、みおがコンビニで四人分の下着を購入。江戸川区のスーパー銭湯へ飛び込んで、真凛のお風呂に付き合わされる事になった。


〈いやあ、やっぱ、女の子はハダカの付き合いだよねー。ああ、極楽、極楽……〉


心話だけど、真凛はひっきりなしに喋っている。どうやら彼女は、ご機嫌なようだ。だけど、なんか親父臭いって気が……。


〈こらー、紗理奈。あんた、アタシの事、親父臭いとか思ったでしょう?〉

〈あ、いや……〉

〈まあ、事実だから良いんだけどさあ……。アタシも前は色々とあったけど、今は仲間がいっぱいいるから、結構、幸せなんだよね-〉

〈……?〉

〈まあ、普通の女子中学生(JC)よりは、色んな経験してるんじゃないかな-……。あはは、紗理奈もなんだよねー?〉

〈あ、まあ……〉

〈アタシも小学校の頃から、先生とは色々とあってさあ。で、中学一年の時、男子八人に空き教室に連れ込まれて、乱暴されそうになったんだー。仕方ないから、身体を光らせて逃げたんだけど-、担任教師の女、逆にアタシが、「男子達を空き教室に連れ込んで、乱暴した」とか喚いちゃってさあ〉

〈ええーっ、女子が男子八人を乱暴ですか?〉

〈そうそう。有り得ないっしょ。そんでも、教頭も主任教師も「お前が何かしたんだろ!」ってアタシを罵倒し出して、「親がキャバ嬢だから、お前もクズだ」だの、「親が馬鹿だから、お前は勉強したってしょうがない」だの言われちゃって……。そいつらを逆に糾弾してくれたのが、菅野彩佳かんのあやかさんだったんだ-〉


長々とした告白話だったけど、紗理奈は『何で真凛が成績に拘るのか?』が分かった気がした。

そんな真凛でも、自分の身の上話をしたのは照れ臭かったのか、〈アタシ、先に上がるねー〉と言い残して、さっさと湯から上がって脱衣所の方へ行ってしまった。

するとみおから、〈今の話、きっと紗理奈の為に話したんだと思う〉という心話が飛んで来た。


〈紗理奈っていうと、「八巻朔美やまきさくみちゃんと同じくらい、悲惨な家庭の子」って思われてるみたい。ふふっ、今は違うのにね〉


紗理奈は、『それも澪とかのお陰なんだけどね』と思ったけど、その思いはグッと胸の奥に仕舞って、脱衣所へと向かった。



★★★



それから紗理奈は湾岸へ真凛を誘うつもりだったのだが、彼女が向かったのは違っていた。ギラギラとネオンサインが輝く繁華街である。


〈あのー、先生の見回りとか大丈夫なんですか?〉

〈大丈夫大丈夫……と言いたい所なんだけどー、一度っきりの修学旅行だからさあ。少しぐらい叱られたって、別に良いじゃん。さあ、行くよー。真凛航空小隊、突撃―っ!〉


そう言って真凛は、ケバケバしい装いのビルばかり狙って突っ込んで行く。すると、当然のようにエッチな光景に出くわしてしまう訳で……。


〈もう、ハダカのお姉さんなんか、さっきのスーパー銭湯でいっぱい見たっちゅーのー!〉

〈あ、あの、真凛さん……〉

〈あ、あれってホストクラブだよねー? カッコ良いお兄さんとかいるかもー〉

〈うわっ、真凛さん、待って下さいよー〉


という訳で、潜入したホストクラブの天井から顔だけ出して、社会見学。だけど、現実にはカッコ良いお兄さんなんて全然いなくて、バカでチャラそうなのばかり。ワザと髪の毛を染めたりしてるのもムカついたので、直ぐに外へ出た。

そしたら、黒服のお兄さん二人が若いOL風のお姉さんを、無理やり店内へ引き摺り込もうとしている所に遭遇。真凛は一目散に舞い下りて、男達を威嚇すると、お姉さんが逃げたのを確認してから再び舞い上がる。

別の裏通りでは、一人のオジサンが厳つい親父三人に拳銃を向けている場面に出くわした。拳銃を持ったオジサンの手が震えているから、悪いのは親父達の方かも。そう思った瞬間、またもや真凛が双方の間に降り立って、敵味方関係なしに男達を蹴散らして行く。と言っても「ムシ」には実体が無いので、翼を広げた状態で男達の間を行き来しただけだけど……。


〈あ、あの、真凛さん、そんな事したら……〉

〈「騒ぎになっちゃうっ」て言うんでしょう? まあ、「旅の恥は掻き捨て」って事で、許してやってよー〉


その時、ようやく追い付いた吉岡(いちご)が、〈もう、待っててくれても良いじゃん〉と喚きながら、男達がいなくなった通りに舞い下りた。疲れたのか変異を解いて、アスファルトにしゃがみ込みそうになった所へ、ちょうど警官二人が駆け付けて、いきなり補導されそうになってしまう。すると、舞い戻った真凛が警官までも蹴散らしてしまい、その間に苺は再び舞い上がった。


〈なんか、アタシが一番の被害者なんですけどー〉

〈もう、みみっちいことは言わないのー。ふふっ、イライラしてばっかだと、ハゲちゃうかもよー〉


プンスカ怒っている苺にも、全く容赦がない。そうかと思うと真凛は、〈うーん、あそこのビルが怪しいんだよねー〉と言い出した。

その直後、例によって飛び込んで行った真凛を紗理奈が追い掛けて行くと、彼女は最上階のエレベーターホールに降り立って、ドアの横の小さな看板を見ている。そこには、〇〇組とあった。

すりガラスの向こうは灯りが点いていて、男達の野太い怒声が飛び交っている様子……。


〈あの、真凛さん。ここって……〉

〈うん。面白そうだから、入ってみよっかなー〉

〈ちょっ、ちょっと……〉


紗理奈達四人が見守る中、薄っすらと光を纏った真凛の身体は、スーッとドアの向こうへ消えて行ってしまう。

そうこうする内に、バーンとドアが開いたかと思うと、「化け物だあ!」の叫び声と共に、わらわらと男達が飛び出して来た。当然、その向こうには「ミズイロ」の翅を出現させた真凛の姿……。


そんなこんなで紗理奈、澪、真花、苺の四人は、芳賀真凛の暴挙に日付が変わる頃まで付き合わされて、心身ともに疲れ果てたのだった。




END100


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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