16話
王都近くの街で一泊した私たちは、翌朝身なり整え、王都へ向けて出発した。いつもの動きやすい格好ではなく、ドレス姿に緊張する。
カエサル様もいつもの軽装を脱ぎ、髪を整え、黒のジュストコール身につけている。素敵な人はどんな服を着ても素敵なのだと、あらためて思う。
(普段の格好の方が好きだけど、この姿も素敵ね)
いつも以上に彼を見すぎていたのか、カエサル様の頬が少し赤い。そのカエサル様が「ハァー」と大きなため息をついた。
「嫌だ。僕の嫁を、誰にも見せたくない」
「カエサル?」
「今日のローリスも綺麗だ。僕の色に染まったローリス、まさに天使……この姿を、あのバカに見せるのかと思うと気が重い」
お互いの色を身につけた正装。ミサロ王太子殿下の婚約者のときには彼が嫌がり、叶わなかった。
「私、カエサルの色に染まって嬉しい」
少し驚いたように瞳を大きくしたカエサル様に手を取られ、私はそのままソファへと連れていかれる。彼は腰を下ろすと、私を膝の上に乗せて、ポフッと胸元に顔を埋めた。
はじめは驚いたけれど……どうやら、こうしていると落ち着くみたい。
「ローリスが可愛い。すごく可愛い……クソッ、見せたくない」
「私も同じ想いです。だから、今日の話し合いで終わりにしましょう」
「あぁ、終わりにしたいね」
馬車は王都の門をくぐり、街の中を進む。
古き良きを、大切にしていた王都の街に魔導具が溢れていた。
(あの街灯は魔石街灯? それに魔石横断歩道? ……銭湯? 公衆トイレ?)
いつのまにか、王都が魔導具で溢れていた。その魔導具に使われる、魔石は何処から手に入れたの?
国の魔物討伐の全てを管轄する辺境伯は、魔物から取れる魔石を魔法がかかる魔石箱に保管している。
討伐した魔物から採取できる魔石は、鉱山で採掘される魔石とは異なり、どの魔石にも少なからず魔素が含まれている。
私たちの国、ドルタラスには聖女がいない。そのため、魔石に含まれる魔素を浄化することができないのだ。だから、魔石の浄化はすべて隣国である魔法大国カーツオに委託している。
私も自分の鉱山で採れた魔石の数は把握しているし、世に出回っている魔石はない。
(それに、あの街頭のデザイン……私が子供の頃に描いたものに似ているわ)
自分が小説の世界に転生したのだと気づいたとき、私は悲しかった。
元の世界に帰りたくて、元の自分を忘れたくなくて……必死に描きなぐったノート。私はその存在をすっかり忘れていた。
確か、ノートは公爵家で使っていた鍵付きの机の引き出しにしまったはず。まさか、妹が私の部屋から見つけた?
けれど、ノートに描かれているのは子どもの拙い絵だ。それを、ここまで完璧に再現できるなんて……。
「ローリス、いつの間にか、僕たちが学園に通っていた頃より王都の雰囲気がかなり変わったね」
「ええ……」
カエサル様も同じことに気づいたようで、馬車の窓から王都の街並みを眺めている。
「もしかして、殿下が僕たちを城に呼んだ理由は、僕たちが考えていたものとは違うのかもしれないね。なんだか、気をつけないと厄介なことに巻き込まれそうだ」
これは、カエサル様の言う通りかもしれない。
私たちは、厄介なことに巻き込まれようとしているのかも。




