第六話:帝都に到着しました
「……んっ」
ふと、眩しさを感じた。
「あら、目が覚めたの?」
目を開けると、そこには朝日に照らされ、プラチナブロンドの髪を輝かせるクリス様がいた。
「――お、おはよう、ご、ございます!」
「ええ、おはよう」
眠かったはずなのに、クリス様を一目見ると目が覚めた。胸がドクドクと波打つ。クリス様は私を見つめると、ふっと微笑む。
「さ、準備をして発つわよ」
「は、はい!」
◇
「ク、クリス様……これ、すごくおいしいです!」
ちぎると良い匂いが広がる白いパン。たくさんのお肉と野菜が入っているスープ。どれもこれも初めて食べたけど、とてもおいしい。
「そう、良かったわ。 ほら、口を開けなさい」
「で、でも……私! 一人で、た、食べられます!」
さっきからクリス様は私に食べさせてばかりで、自分は全然食べられていない。
「――でもあなた。下手くそじゃない、食べるの」
「ううっ……」
た、確かにパンをぼろぼろこぼしちゃったし、口の周りがスープで汚れてはいるけど……
「ほら、分かったならさっさと口を開ける。早く出発しないと今日は野宿よ」
「……はい」
クリス様との食事は楽しかった……恥ずかしかったけど。
◇
「食料、買いに行くわよ」
「食料? ですか?」
「ええ、次の街まで確か距離があったはずだから。お腹すいちゃうわよ」
「そ、それは大変です!」
最後に、忘れ物がないか部屋を見渡す――よし、大丈夫。
そして部屋を出て、受付に向かう。そこには、昨日倒れてしまったお姉さんと、もう一人、おじさんがいた。どうやら、お姉さんのお父さんらしい。
「おや、もう出発ですか?」
「ええ、急に泊まりたいだなんて言って悪かったわ」
「いえいえ、お気になさらないでください。それより、当宿はどうでしたかな?」
「ええ、とても良かったわ。料理もおいしかったし」
「――はい! お料理、おいしかったです! ベッドもふかふかで……気持ちよくて……」
私が一生懸命伝えると、おじさんは元気よく笑った。
「ははは! それは良かった! 昨日はすみませんね、手が離せなくて娘に応対を任せたんですが、殿下の美しさにやられちまったみたいで。でも、お客様にそこまで喜んでいただけて本当に良かった!」
おじさんはハッとして、言葉を続ける。
「自己紹介がまだでしたな。私はハンス、娘はミーナと言います」
「み、ミーナです! 昨日はすみませんでした!」
ミーナさんはすごく緊張した様子で自己紹介をした。
クリス様はそれを見るとクスッと笑った。
「ええ、別に気にしていないわ。一応名乗っておくわ、アルシーヴ帝国の第一皇女、クリスティアーネ・メモリア・フォン・アルシーヴ。そして――」
それに続き私も名乗る。
「私の名前は、アデルって言います。よろしくお願いします!」
右手を胸に当て、お辞儀をした。
それを見てか、三人は微笑んだ。
◇
食料を買った私たちは、ルセーロを出発して再び帝都への道を進む。
市場でも楽しいことがたくさんあった。守備隊の人たちとも少し仲良くなれた気がする。もっとここにいたい、でも帝都に行かないと。
市場から、最初に入ってきた門とは逆側のほうの門へと行くと、お世話になったバルト隊長や守備隊の皆さんが待っていた。
「宿、紹介してくれてありがとうね、バルト隊長」
「あ、ありがとうございました……」
「――いえ! 滅相もございません!」
バルト隊長が宿を紹介してくれたから、私は昨日休むことができた。ありがとうございますって、ちゃんと言わないと!
「クリスティアーネ様とアデルさんは、帝都へ?」
「ええ。さすがに何日も抜け出していると皇帝陛下が怖いわ」
「ははっ! あの皇帝陛下を“怖い”で済ませられるのはあなた様くらいのものでしょうな」
バルト隊長は豪快に笑うと、胸に拳を当てる。それに続いて、守備隊の皆さんも同じ動きをした。
「それでは、道中お気をつけください! ルセーロ守備隊一同、お二人の旅路が順調にいくことを祈っております!」
「ええ、ありがとうね」
少しだけしか話さなかった。少しだけしかいなかった。でも、バルト隊長や守備隊の皆さん、ハンスさんたち。優しい人たちばっかりで、ここルセーロはすごく良い場所で、また来てみたい。そう思った。
「アデルさん、クリスティアーネ様とぜひ、また来てください。歓迎いたします」
素性の分からない私を、深く探ることなく丁寧に扱ってくれた。それはクリス様からの命令だから、というだけだったのかもしれない。でも、私はうれしかった。
「はい! 絶対! ぜ、絶対に来ます!」
そうして私とクリス様は歩き出した。
ふと、後ろを振り返ると守備隊の皆さんが手を大きく振っていた。
「――あ、ありがとーございましたー!」
私も、大きく手を振り返す。ありがとう、また来ます。そう思いを込めて。
「良い、ところだったわね」
「はい!」
◇
そうしてルセーロを出発した私たちはいくつかの街の宿で休みながら、帝都を目指した。
昼間はクリス様と頑張って歩いて、街に着いたらいろいろなお店を見て。
夜は大体怖くて眠れなかったので、クリス様が手を握っていてくれた。
一つだけ気になることがあった。クリス様はやることがあると言って、毎晩私を先に寝かせた。ちゃんと休めているんだろうか?
◇
そして七日目の昼。
「結局七日もかかってしまったわね」
「ご、ごめんなさい、クリス様……私が歩くの遅いせいで……」
「まあ、いいわ。それより……ほら、見えてきたわよ」
そこにはルセーロとは比べられないくらい大きな白い壁。分厚い、開かれた門。その門の前にはたくさんの馬車が止まっている。
その奥には壁を越える、時計のついた塔。
そして何よりも目立つ、白くてきれいな大きい建物。
思わず圧倒されてしまった。
「すごい――!」
「見える? あの一番目立ってる白いやつが帝城。私の家よ」
あれが……おうち?
「帝都アルシーヴへようこそ、アデル。歓迎するわ」
そうして私は帝都に到着した。




