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忘却少女と嘘つき世界~記憶喪失少女は激つよ皇女様の護衛になって記憶を取り戻します~  作者: ミンミン
アルシーヴ帝国編第一章:出会いと目覚めの花畑

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第二話:帰り道で出会ったのは魔獣でした

「さて、帝都に帰るわよ」

「ていと、ですか?」


 私が首をかしげて尋ねると、クリスティアーネ様は蒼い瞳をこちらへ向け「そうよ」と短くうなずいた。


「帝都はアルシーヴ帝国の中心で最大の都市。私の家もそこにあるわ。ほら、行くわよ」


 そう言ってクリスティアーネ様は私の手を引き、森の中へと足を進めていった。


 ◇


 森に足を踏み入れてから、どのくらい経ったのだろうか。クリスティアーネ様の半歩後ろを、手をつなぎながら歩き続けている。


 ……本当にきれいな人。背筋をピンと張っていて、歩くたびに結い上げられた髪の毛が左右へと揺れ動いている。確か“だいいちこうじょ”って言ってたっけ。たぶん偉い人、だよね。一人で出歩いて、大丈夫なのかな?


「そ、その、クリスティアーネ様は、えっと……ひ、一人なんですか?」


 心配に思って声をかけると、クリスティアーネ様は振り向かずに話し出した。


「ええ、今日は一人よ。皇女だし、本当なら護衛がついているんだけどね、撒いてきたの。……そんなに頼りなく見えるの?」

「ち、違います! だって、ク、クリスティアーネ様ってき、きれいだし、あ、危ないと思って……」


 慌てて手をぶんぶんと振って否定する。クリスティアーネ様はそんな私を見ると、少し楽しそうに鼻を鳴らして、言葉を続けました。


「クリス」

「……えっ、と?」

「だから、クリスと呼びなさい。長いのよ、クリスティアーネって」

「く、くりす、さま?」


 恐る恐る呼ぶと、クリスティアーネ様――いやクリス様はこちらを振り向き、サファイアブルーの瞳を和らげた。


「ええ、よくできたわ。良い子ね」

「……っ、はい、です。く、クリス様」


 恥ずかしさを隠すように私は何度もコクコクと頷く。クリス様の手が温かい。この手に触れていると心がぽかぽかする。


 ――その時だった


 ズゥゥゥゥンと、大きな音が響き渡る。


「ひっ! な、なんですかこれ……」


 空気が揺れているように感じる、とてつもなく大きな音。その直後、何かの足音と、木が倒れる音が聞こえてきた。


「く、クリス様! な、何か来てます!」

「ええ、魔獣でしょうね」


「魔獣って何ですか」と尋ねようとしたとき、耳が壊れそうなほどの鳴き声とともに一つの何かが現れた。


「ルゥゥゥガァァァァッ――!!」


 それは私の何倍も大きな生き物だった。四足歩行で赤い目。開かれた口の中には何本もの鋭い牙。そして、全身を覆う白い骨。


「あれが……ま、魔獣」

「ええ、そうよ」

「は、早く逃げましょう! クリス様!」


 怖い。魔獣というものは初めて見たが、私なんて一瞬で殺されてしまうだろう。あまりの恐怖に全身がガタガタと震えてしまう。でも、つながっているクリス様の手は震えていなかった。


「逃げる? 私が? 誰に向かって言っているのかしら、アデル。私はアルシーヴ帝国第一皇女よ。この程度の雑魚に後れを取るなんてありえないわ」


 何を言っているんだろう。あの魔獣が雑魚? そんなはずないのに。クリス様の方を見ると、当たり前のように剣を抜く。その姿には何の緊張も見られなかった。


「見てなさい、アデル。」


 白銀の刃が日光を反射して輝く。


「私がこの魔獣を倒すところを」


 切っ先が魔獣へと向けられる。


「我が名はクリスティアーネ・メモリア・フォン・アルシーヴ。――身の程を知りなさい、魔獣風情が」


 そう言ったクリス様の前に、光っている不思議な模様が現れた。それが何かは分からない。けれど、恐ろしく綺麗だった。

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