第一話:目が覚めると記憶がありませんでした
――ここはどこなんだろう?
目を覚まして最初に目に入ったのは、いろいろな種類の花だった。私は、その花たちに囲まれて眠っていたようだ。きれいな花畑。でも、私はこんなところで寝た記憶はない。
寝た記憶どころか、覚えていることが何もない。
私はだれ? ここはどこ? どうしてここにいるの?
思い出そうとしても頭が割れそうなほど痛み、痛いということしか考えられない。
――だれ? 私は誰なの!?
怖い。自分が誰なのか、どうしてここにいるのか分からなくて、怖い。
――なんで、誰もいないの?
「……ぅ、あ……」
声にならない、かすれた音しか出ない。目の前が滲んできて、目が熱くなってくる。ぽろぽろと、ボロボロのワンピースに涙が落ちてくる。怖くて、痛くて、どうしようもなくて。
――助けて
そう思ったとき、後ろの方からかすかに気配がした。
「だ、誰……ですか……」
広い花畑に、私の問いかけが小さく響く。返事はない。でも、間違いなく気配がした。
「……だ、誰か……い、いるんですか」
少しだけお腹に力を入れて、再び問いかける。返事は……ない。やっぱり、気のせい――――
その瞬間、私はとてつもない突風に襲われた! 目を開けていられず閉じてしまい、短い悲鳴を上げ、突風に吹き飛ばされてしまう。
「きゃっ!」
三回、いや四回は回っただろうか。ようやく止まった私は、恐る恐る目を開ける。そこには――――
「……き、きれいな人」
本音が漏れ出てしまう。目を開けると、そこには一人の少女が白銀の剣を私に突きつけ、立っていた。
美しく結い上げられたプラチナブロンドの長い髪。長いまつげに、少し冷たさを感じさせるサファイアブルーの瞳。そして、隙を感じさせない、きらきらした飾りのついた、キッチリとした白銀のお洋服。
その少女は私に剣を突きつけ、見下ろしていた。その立ち姿から感じるのは、圧倒的な強者の風格。そんな人に剣を突きつけられ、冷たい瞳で見られているのに、私はその人を“きれいだ”としか思えなくなっていた。
「あなた、何者?」
つい、見惚れてしまっていると、そんな問いかけがきた。感情を感じさせない冷たい声。何者か? そんなの分からない。
「わ、分から……ない、です」
正直に言った。
「分からない?……あなた、名前は?」
「……分からないです」
私は弱々しく首を振る。するとその人は眉をひそめて、剣を鞘に納める。カチャリと金属音が鳴った。
「記憶喪失、ということね。なにか覚えていることはあるかしら? 些細なことでいいから」
先ほどとは違い、少し柔らかい声色で尋ねられた。しかし、そう言われても何も覚えていない。
「……っ」
何かないかと必死に思い出そうとすると、頭に痛みがやってきた。思わず声を漏らしてしまった――と同時に、いきなり手を引かれ、立たされる。
「ひゃいっ!?……あ、あの……いきなり、な、何するんですか……」
その人の手はすごく温かかった。最初の印象とは全然違った。少し、心が落ち着いた。でも、急に触られたのは少しびっくりした。
少し抗議するように目を向けると、きれいなサファイアブルーの瞳と目が合う。その瞳がじっとこちらを見つめている。少し気恥ずかしい。頬が熱くなってきてしまう。
それから、三十秒ほどだろうか。手をつないだまま見つめ合っていると、急に話しかけられた。
「私に……私についてきなさい」
どういうこと? そう疑問に思っていると、その人は私の手を少し引き、顔をのぞき込む。そして少し声色を柔らかくして言葉を続ける。
「名前がないのは不便でしょう。そうね………………“アデル”、今日からあなたはアデルと名乗りなさい」
――“アデル”
それが、私の名前……。
「私の手を離さないようにしなさい、アデル。私の名前はクリスティアーネ・メモリア・フォン・アルシーヴ――アルシーヴ帝国の第一皇女よ」
その人――クリスティアーネ様は、凛とした声でそう名乗った




