第二五話:お着替えしました
……眩しい。もう日が出ているのだろう。
どうやら朝らしい……眠いです。
「……ん」
ゴシゴシと、つい眠くて、目をこすってしまう。その時、横から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おはよう、アデル。ずいぶんと眠そうね」
クリス様の声……クリス様の声? い、いけない! 今日は確か……
「く、クリス様! お、おはようございます……」
「まったく……今日は任命式があるから早く起きるように言ったじゃない」
「ご、ごめんなさい! つい、眠くて……」
今日は私の護衛任命式。その準備のために今日は早く起きるように言われてたんだけど……なんだか妙に眠くてつい寝坊してしまいました。
「言い訳を聞く気はないわ……さあ、準備するわよ」
ため息をついてそう言ったクリス様。プラチナブロンドの髪が、日差しに当たって光り輝いていて、とてもきれい。
「……こら、どこ見ているの? 本当に遅刻するわよ」
「はっ……す、すみません!」
呆れたように、でもどこか優しい目で見つめてくるクリス様を見て、私は勢いよく飛び起きる。
「さ、まずは顔を洗っていらっしゃい。その後、朝ご飯にしましょう」
「はい!」
◇
「おはようございます、アデル様」
「シルヴィアさん、おはようございます……わあ、今日のご飯も美味しそうです!」
湯気が立っていて温かそうなスープ、そしてふわふわなパン。
パンをスープにつけて、口に入れる。するとジュワッとパンに染み込んだスープが口いっぱいに広がって……とても美味しい。
スープに入っているお野菜も、色とりどりで、噛むと少し甘くて……幸せです。
「ふふ、本当に美味しそうに食べるわね」
「ええ、こうも美味しそうに食べてくれると作ったかいがあるものですね」
「はふ……っ、だって本当に美味しいんです!」
クリス様とシルヴィアさんが優しく私を見つめてくれる。胸の奥がすごくポカポカする。
その時、不意にクリス様がこう言い出した。
「シルヴィア、今のうちにアデルの服を用意しておいて」
「かしこまりました、お嬢様」
そう言って、シルヴィアさんは優雅に一礼して去って行く。私のお洋服……?
「今日はいつもとお洋服、違うんですか?」
「当たり前でしょう? 私の護衛になるんだもの、ちゃんとふさわしい服に着替えてもらうわよ」
「わ、分かりました……」
どんなお洋服なんだろう? 可愛いものなのか、かっこいいものなのか?
なんだかすごく楽しみです……
◇
しばらくの間、クリス様と二人でご飯を食べながら、シルヴィアさんがお洋服を持ってきてくれるのを待っていると……
「お待たせしました、お嬢様、アデル様」
ドアが開き、シルヴィアさんがお部屋に戻ってきた。そのシルヴィアさんを見てクリス様が一言。
「じゃあ、早速着替えさせちゃいましょうか」
そう言って私を見てきた。
「え……着替え……させちゃう、ですか?」
それって、つまり……
「もう時間がないから、あなたが悠長に着替えるのを待つ時間はないの……大人しくしていればすぐ終わるわ」
「で、でもぉ……」
クリス様に着替えさせられる……なんだか恥ずかしくて顔が熱い。なんとか抗議するようにクリス様の方を見るけど……そこには意地悪そうに微笑むクリス様がいた。
「ほら、早く着替えるわよ」
私の反応を見るように、こちらに目を合わせてくるクリス様。遊ばれてる……でも、恥ずかしいものは恥ずかしい……
一歩、クリス様がこちらに近づいてくる。私はそれから逃げるように、一歩後ろに下がる。
一歩、一歩下がっていく……
「あっ!」
そのまま逃げ続けようとしたが……後ろにはもう壁があった。これ以上後ろには逃げられない……
「ふふ、観念なさい、アデル」
「う、うぅ……」
ずいっと、こちらに顔を近づけるクリス様……か、顔が近いです!
「そんなに耳まで真っ赤にして……恥ずかしいの?」
「だ、だって……」
「別にいいじゃない。一緒にお風呂にも入ったでしょう?」
「そ、それはそう、ですけどぉ……っ!」
私の初めてのお風呂。クリス様にいろいろ教えてもらったけど……お、思い出さないでほしい……
「さ、シルヴィア、服をこっちに」
「まったく……お嬢様は………早くしないと遅れてしまいますよ」
シルヴィアさんがこちらをあきれたように見ながら近づいてくる。そして、クリス様にお洋服が渡されてしまった。
「分かっているわよ……ねえアデル?」
「ひゃうっ……!」
クリス様の白くてきれいな手が、私の襟に触れた。思わず目をつぶって、手をぎゅっと握る。ドクドクと、心臓がうるさいくらい鼓動している。
「良い子、そのまま、ね?」
耳元でそうささやかれる。クリス様の息づかいを感じ……頭が真っ白になってしまう。心臓の鼓動がさらに速くなってきて……爆発しちゃいそうです。
◇
「――デル! こら、アデル!」
「はっ! く、クリス様! ……あ、あれ? これは……」
クリス様に呼ばれて、目が覚めた。最初に気づいたのは、私のお洋服の変化。
私が着ていたはずの、可愛くてモコモコしているお洋服がなくなっていて、代わりに着ていたのはなんだかキッチリとしたお洋服。
真っ白な下地に、きれいな青色の刺繍が施されている。そして、すごく動きやすい。
「あなた、一瞬気を失っていたわよ」
「ご、ごめんなさい……でも、クリス様が……」
どうやら、あまりにも恥ずかしくて気を失ってしまっていたらしい……
でも、クリス様も少し悪いと思います……口には出せないけど。
「まあ、良いわ。それより、そろそろ時間だから行くわよ。シルヴィアが先に行ってくれているから、遅れたら怒られちゃうわよ」
そう言って、白くてきれいな手が差し出される。私は、それをぎゅっと握る。いつも通りの、心地よい温かさ。
先ほどの心臓のドクドクは収まって、今はじんわりと、落ち着いている。
護衛任命式……私はそこでついにクリス様の護衛になれる。
今まで守られてばっかりだったけど……この手を、この温もりを私は守りたい。クリス様に恩を返したい。
「はい! クリス様!」
元気よく返事をして、クリス様について行く。
護衛任命式……いったいどんなことをするんだろう? 何が待っているんだろう?
――すごく、楽しみです。




