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忘却少女と嘘つき世界~記憶喪失少女は激つよ皇女様の護衛になって記憶を取り戻します~  作者: ミンミン
アルシーヴ帝国編第二章:仮面と誓約の武闘大会

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第二一話:武闘大会に出ました~本戦③~

「――ル、アデル、起きなさい」


 んっ、く、クリス様の声……?


「はっ! お、おはようございます……ってここは、客席ですか?」


 前を見ると、私が戦っていた闘技場の舞台が見える。その時、ヤキトリの香ばしい匂いがした。


「や、ヤキトリの匂い……」

「どうぞ、アデル様」


 シルヴィアさんが一本渡してくれた。


「いただきます!」


 そう食べようとしたその時、闘技場に実況さんの声が響いた。驚いて、思わず手を止めてしまう。


「いよいよ本日最後の試合! 第十六試合が始まります!」

 

 第十六試合……ヴァーちゃんの試合だ!


「この試合は見ておいた方が良いと思ったのよ。ヴァーちゃんとかいう選手、順当にいけば決勝で当たるかもしれないから、ちゃんと見ておきなさい」

「は、はい」


 クリス様、真面目な表情も美しい。でも、それだけ警戒しているんだろう。


「お相手の方も、あのバルトライン辺境伯家の次期当主、ガルバ・バルトライン様らしいですよ。しかも、昨年の武闘大会では準優勝だったかと」


 準優勝……すごい。きっとすごく強いんだろう。ヴァーちゃんとガルバさん、どっちが勝つんだろうか。


 ちょうどその時、舞台に二人の選手が現れる。


「さあ、選手の紹介です! 前回大会準優勝者にしてバルトライン辺境伯家の次期当主! ガルバ・バルトライン選手だ!」


 一人は巨大な体の大男。その体を隠すほどの大きな白銀の盾を構えている。あれが、ガルバ・バルトラインさん……すごく大きい。


「対するのは、皆さんご存じアデル選手と同じ予選第十六組の生き残り! その姿は仮面とマントに包まれている! アデル選手と同じ謎の人物――ヴァーちゃん選手だ!」


 子ども……? 現れたのは私と同じくらいの身長の人物。顔には仮面をつけ、マントを羽織っており、怪しいというのが最初の印象だ。


 あれが、ヴァーちゃん……私の魔法をどうやったのか耐え抜いた人。


 一体、どんな戦いになるのだろうか?


「さあ、それでは――試合開始です!」


 その瞬間、ヴァーちゃんとガルバさんの姿が消えた。


    ◇


 一瞬……だった。


 試合開始直後、二人の姿が消えたかと思うと、闘技場に轟音が響き、土煙が舞台を覆い隠した。


 煙が晴れると、そこには……意識がなく、崩れ落ちたガルバさん。そして、その傍らでじっとガルバさんに顔を向けるヴァーちゃんがいた。


「……し、試合終了……し、勝者――ヴァーちゃん選手!」


 少し遅れて実況さんの声が鳴り響いた。


「強いわね、あのヴァーちゃんとかいうの」

「はい、まさか前回準優勝者が一瞬で負けるとは……なにより、見えませんでした」


 クリス様とシルヴィアさんがヴァーちゃんへの警戒を高めている。


 速かった……多分、ハヤテさんよりも格段に。


 当たるとしたら決勝…… 


 本戦第一日目、私は強敵への警戒を覚えて終わった。


    ◇


「さあ、今日は出店を楽しむわよ」


 朝、私がお部屋で目覚めると、クリス様はそう言って私を出店に連れ出してくれた。


 今日は魔法部門と武術部門の本戦が行われている。総合部門はお休みらしい。


『だから出店に連れて行ってあげるわ』とクリス様が言っていた。


 ヤキトリもあるのかな……?


「ほら、手、つないでなさい」

「は、はい……」


 変装したクリス様。迷子になるといけないから、そう言って手を差し出してくれた。ぎゅっとクリス様の手を握ってゆっくりと歩き始める。


 こうやって、クリス様はいつも手を握ってくれる。そばにクリス様を感じられる、それがとても嬉しい。


 クリス様に連れられて歩いていると、すぐにたくさんの声や匂いを感じるようになってきた。


「わあ! ク、クリス様! すごい人です!」

「ふふっ、そうね。アデル、どこか行きたい出店はあるかしら?」


 ふと、覚えのある匂いを感じた。香ばしい良い匂い……間違いない、これはヤキトリの匂いだ!


「ヤキトリ、食べたいです!」

「はいはい、そう言うと思ってたわ」


 呆れたように笑うクリス様に、さらに手を引かれる。


「場所はシルヴィアが調べてくれたから、行くわよ」

「はい!」


    ◇


「おや、アデル殿ではないか」

「は、ハヤテさん!? どうしてヤキトリ作ってるんですか!?」


 ヤキトリの出店にたどり着いた私とクリス様。長い長い行列に並んで、やっと順番が来たかと思ったら、そこにはヤキトリを作るハヤテさんがいた。


「某の本職は焼き鳥屋! 見るでござる! アデル殿。これぞ本場の火加減!」


 そう言ってハヤテさんがヤキトリを作っていく。すごい煙と良い匂い……思わずよだれが垂れてきてしまう。というか……


「は、ハヤテさんってヤキトリ屋さんだったんですか!?」

「いかにも、我が一族は代々焼き鳥屋を営んでいるのでござる」

「た、戦うのが仕事の人だと思っていました……」

「いやあ、焼き鳥はあくまで趣味でござるよ。某は武士でござるからな」


 武士――それはヒノクニを守る衛兵さんみたいなものだとハヤテさんが教えてくれた。


 ヤキトリ屋さんなのか武士なのか……不思議な人だな。


「それよりも、そちらの方は? なにやら見覚えがある気が……」


 ハヤテさんの目が変装したクリス様に向けられる。なんだかハヤテさんの目が少し鋭くなった気がする。まさか、怪しまれてる……?


「挨拶が遅れたわね。私は……そうね、シルヴィアよ、シルヴィア。よろしくね、ハヤテさん?」


 クリス様……平然と嘘をついている。


 その言葉を聞いて、納得したようにハヤテさんが頷いた。


「こちらこそでござる、シルヴィア殿? ……おっと、そろそろ完成でござるよ。さあ、ご賞味くだされ!」


 ハヤテさんができたてのヤキトリを袋に入れて渡してくれる。


 一段と香ばしい匂いが鼻をかすめる。やっと食べられる!  


「いただきます!」


 差し出されたヤキトリ。我慢できずに、クリス様の手を離して飛びついてしまった。そのせいでクリス様に注意されてしまったけど……ヤキトリは美味しかった。


 そこからしばらく、ハヤテさんとクリス様とヤキトリを楽しんだ。別れ際、ハヤテさんから改めて『是非ヒノクニへ』と誘われてしまった。


 クリス様に行きたい、そう伝えると……


「遠いから簡単にはいけないけど、いつか一緒に行きましょうね」

「はい! 一緒に行きたいです!」


 そう言って約束してくれた。ヒノクニ……いったいどんなところなんだろう? ハヤテさんみたいな人がたくさんいるのかも、と考えると少し楽しそうな国だなって思っちゃう。


   ◇


 自分の部屋の窓。外を見るときれいな星空が見える。


 まだ見ぬ国への期待と、次の試合への緊張を抱え、私は今日もベッドに潜り込んだ。


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