第二〇話:武闘大会に出ました~本戦②~
「――勝負!」
瞬間、目の前のハヤテさんの姿が消える。
「っ! 【魔力障壁】!」
魔法陣を紡ぎ、魔法を顕現させた。魔力障壁、無属性の第三階位の魔法。目の前に魔力の盾を――
甲高い金属音が響く。
「ほう、まさか防がれるとは……しかも、詠唱を……!」
目の前に、銀色の刃が止まっている。あ、危なかった……!
って、まずい! 次が来る!
一振り、二振り……どんどん続くハヤテさんの攻撃。一振り一振りが、目で追えないくらい速い!
このまま受け続けるのは正直面倒くさい……ならばと、必死に頭を回す――これなら!
ハヤテさんの一振りを受ける――と同時、私は魔法を発動させる!
「【紅蓮の熱線】!」
火属性の第四階位の魔法。放たれるのは、一本の太くて赤い熱線。
「なっ! うそ!?」
しかしその熱線は、ハヤテさんの一振りに切られて二つに分かれてしまう。そして、舞台の壁に突き刺さった。
「ま、魔法が切られた……」
「すばらしい威力! しかし某には効かぬ!」
魔法が、剣に切られた……?
――違和感。ほんの少し、ハヤテさんの剣のリズムが変わった。
その時、かすかにハヤテさんの声が聞こえた。魔法の詠唱のような……
よく見ると、ハヤテさんの剣の持ち手に小さな円形の模様が――
――魔法だ。そうか、魔法を使われていたんだ! あの剣の速さも、魔法を切ったのも全部――
このままなにか魔法を撃っても、多分切られてしまう。現状、勝負は互角。なら、耐えて勝つ?
このまま耐えきることはできるだろう。体力も魔力もまだまだある。
でも、私は、耐えきって勝つんじゃなくて、格好良く勝って、クリス様に褒めてほしい。
それに、魔法をもっと使いたい――!
攻める覚悟を決め、使う魔法を考える。やっぱり、あの剣をどうにかしないと……
使う魔法の選別が終わる。よし、これでいこう!
「行きます! 【破邪の光剣】!」
クリス様の見せてくれた最初の魔法を解放する。剣には剣で、勝ってみたい。
そして同時にもう二つ。
(【極限強化】)
(【断魔の牢】)
無属性の第五階位の魔法。身体能力を上げる魔法と、もう一つ――
私を中心に、魔法を無効化する牢が広がる。
断魔の牢、同じく無属性の第五階位の魔法。第四階位以下の魔法を無効化する領域を広げる魔法だ。
「なっ! 某の魔法が……消えた!」
ハヤテさんの動きが格段に遅くなった。わずかに動揺するハヤテさん――隙だ!
「えいっ!」
その隙を見逃さず、私は魔法の剣を振るう。
それでも、ハヤテさんは剣を合わせてきた。でも、今の私は――
「終わり……ですっ!」
力いっぱい、剣を振り抜く!
今の私は魔法で身体能力を上げている。さすがに受けきれないだろう。
「なんとっ!」
その言葉とともに、ハヤテさんは壁まで吹き飛ぶ。
ドン! 壁にめり込み、崩れ落ちるハヤテさん。
シーンと静まり返る闘技場に、私は一人立っている。か、勝ったの……?
「――勝負あり! 勝者、アデル選手!」
◇
決着を告げる合図が聞こえてきた。その瞬間、闘技場が歓声に包まれた。
勝った、そう思うと飛び跳ねたくなってくる。クリス様……喜んでくれるかな?
客席にいるであろうクリス様を探そう――と、その前に。
「は、ハヤテさん! 大丈夫ですか?」
私は大急ぎで壁の方へと駆け寄った。
「うっ……ここは……アデル殿?」
ちょうどハヤテさんは目を覚ましたようだ。見た感じ怪我はなさそう……私の全力だったんだけど、やっぱり強い。
不意に、ハヤテさんが頷いた。
「……見事な、一撃でござった。完敗、でござるな」
戦っているときの雰囲気が嘘のように、笑ってハヤテさんがそう言った。
「あ、ありがとうございました! は、ハヤテさんもすごかったですっ! 魔法が切られちゃった時はびっくりしました!」
「そうでござるか! あれはヒノクニに伝わる魔法と剣術の合わせ技でござる。気になるのであれば、いつかヒノクニへ来てくだされ。某が案内するでござる」
ヒノクニ……ヤキトリに魔法を切る技。いつか行きたいな……
「はいっ、いつか絶対に行きます!」
元気よく答えると、ハヤテさんは満足そうに頷いて立ち上がる。
「では、また会おう」
そういって舞台から去っていった。私の全力で吹き飛ばしたのに、もう歩けるんだ……本当に、勝てて良かった。
ハヤテさんの後ろ姿を眺めながら、私も自分の控え室に戻っていく。
その間、闘技場はずっと歓声に包まれていた。
◇
「く、クリス様とシルヴィアさん!? なんでここにいるんですか!?」
控え室に戻ると、なぜかクリス様とシルヴィアさんがいた。
「あら、頑張ったアデルを褒めてあげようと思ったのだけれど?」
「ヤキトリもありますよ、アデル様」
「ヤ、ヤキトリ……!?」
シルヴィアさんの手に握られた紙袋から漂う、あの香ばしい匂い。お腹の音が部屋中に響いてしまった。
「……私が褒めるよりも、ヤキトリの方がいいのかしら? アデル」
クリス様の方から少し不満げな声。
「ち、違います! クリス様に褒めてもらうのが一番嬉しいです!」
慌てて横に首を振って、必死に否定する。
するとクリス様がにやりと笑う。
「ふふっ、冗談よ。ほら、こっちに来なさい」
「――っ! は、はい!」
クリス様が腕を大きく広げて私を呼ぶ。そこに、勢いよく近づいていく。
プラチナブロンドの長い髪の、とても良い匂いが鼻をくすぐる。
広げられた腕が私の背中に回され、ぎゅっと抱きしめられる。そして、私の大好きなクリス様のなでなで――ふふっ、頑張って良かった。
しばらく抱きしめられていると、体がポカポカしてくる。
「あら、眠いの?」
「ね、眠くなんて……ない、です」
まだこのご褒美を味わっていたいし、ヤキトリも食べたい。でも……眠い
「ほら、少し寝てなさい。ヤキトリも取っておいてあげるから」
その言葉と、クリス様の抱擁に甘えて、私は眠りに落ちていった。




