第一九話:武闘大会に出ました~本戦①~
遅れました すみません
「あっ! クリス様!」
予選も無事に終わり、会場の外に出るとクリス様が待っていた。
眼鏡をかけ、帽子をかぶって変装している。でも、周りの人たちもチラチラ見ているので、たぶんばれているんだろう。
「お疲れ様、アデル。よくやったわ」
クリス様の手が、私の頭に乗る。私の好きな、クリス様のなでなで……ご褒美だ。
「クリス様……ありがとうございます」
「ちゃんと一瞬で終わらせられたわね」
クリス様からの言いつけ。ちゃんとできたけど……
「で、でも一人残っちゃいました……」
謎の人物、ヴァーちゃん。私の魔法を、どうやってか生き残った人。
なんとなく申し訳なくなって、顔をうつむかせてしまう。本当は、誰も残しちゃだめだったのに……
「あの規模の魔法を食らって残っている方がおかしいのだから、気にしなくていいわよ。まずは、本戦出場を喜びましょう?」
クリス様が何度もなでて、私を安心させてくれる。そう、だよね。これで……本戦に――
「しかし、そのヴァーちゃんなる人物は気になりますね」
「ひゃっ! お、脅かさないでくださいよ、シルヴィアさん……」
突然、後ろからシルヴィアさんの声がした。びっくりして変な声が出てしまった……
「アデル様の魔法を……一体どうやって」
「わあ……! し、シルヴィアさん! それ何ですか!?」
後ろを向いて、シルヴィアさんの方を見ると、小さな紙袋を持って、何か考え込んでいた。香ばしい、いい匂いがする……
「ああ、これはヒノクニのヤキトリという食べ物だそうです」
シルヴィアさんが袋の中から、一本の串を取り出す。ふわりと、香ばしくて甘いにおいが増す。
どうやらヒノクニというのは海の向こうにある国らしい。ヤキトリとはそのヒノクニで人気の料理で、串に刺したお肉を味付けして焼いたものだと、シルヴィアさんが教えてくれた。
「アデル様が予選でお腹をすかせているかもと、お嬢様に買いに行くように言われていたんですよ」
「く、クリス様が!?」
バッと、クリス様の方を見ると、クリス様は微笑んでいた。
「本戦出場のご褒美よ。たくさん食べなさい」
やっぱり、クリス様はやさしい……私が勝てるって信じてくれてたんだ
本戦も頑張って勝とう――この人の期待に応えて、護衛になるために
◇
「さあさあ、皆さん! いよいよ! 総合部門の本戦が始まります!」
予選を終えた翌日、いよいよ本戦が始まる。
私は昨日と同じように闘技場にやってきていた。昨日とは違い、今日は一人一人お部屋が用意されている。私は、お部屋の中で実況さんの声を聞いていた。
ここに来るとき、受付の人から本戦の詳しいルールを説明してもらい、トーナメント表というものをもらった。
本戦も基本は予選と同じ、気絶か降参をした方が負けらしい。それとクリス様から聞いた話では、万が一死んじゃうことになってもすぐに治してくれる魔法具が舞台にはあるらしい。正直、お世話になりたくはないが……
トーナメント表に視線を向ける。私は二試合目、相手は………ハヤテさんというらしい。
「ハヤテさん……」
もう一度、トーナメント表に視線を落とす。そこに、探している名前があった。
「いた、ヴァーちゃん」
試合は一番最後、十六試合目らしい。相手は……ガルバ・バルトラインさん。どんな試合になるんだろう?
「アデル様、まもなく試合が始まります。移動をお願いします」
「は、はいっ! 今行きます!」
いつのまにかそんな時間になっていたようだ。うぅ、少し緊張してきた……
なんとか緊張を解こうと、心の中で昨日のヤキトリを思い出した。食べると肉汁が口の中に広がり、しょっぱい中に、少し甘さがあってとても美味しかった。
思い出すだけで口の中によだれがじわりと広がって、お腹が小さく鳴りそうになる。
でも、その香ばしい匂いとクリス様の優しい微笑みを頭に浮かべた瞬間、緊張がなくなった。
「よし……!」
ほっぺを両手でたたいて気合いを入れる。よし、頑張るぞ!
◇
舞台に着くと、目の前に人がいた。
長くてひらひらとした、不思議な形の深い緑色のお洋服。黒い髪を後ろで無造作に一つに結い上げていて、剣のように鋭い雰囲気をまとっている。
そして、腰には一本の剣……でも私の知っている剣とは違い、反り返っている。
「さあ、続く第二回戦! 向かって左側、海の向こう、ヒノクニからやってきた武士――ハヤテ選手だー!」
まじまじと見ていると、実況さんが選手の紹介をし始めた。ハヤテさん……ヒノクニの人なんだ。昨日のヤキトリといい、最近よく耳にする。いつか行ってみたいな。
「対するは、予選でとてつもない魔法を見せた、経歴不明の謎の少女――アデル選手だー!」
その時、客席からたくさんの声が響いてきた。
「アデルちゃ~ん! 頑張れ~!」
勢いよく客席の方を見ると、そんな言葉とともに手を振る人がたくさんいた。
「な、なんですかこれ……?」
大歓声にちょっとだけ恥ずかしくなってしまうが、ぺこぺこと、なんとかお辞儀を返す。
お辞儀を何度も返していると、ふとハヤテさんから声がかかった。
「そう、恥ずかしがらなくてもよろしい」
「えっ?」
まさか話しかけられるとは思わなくて、気の抜けた返事をしてしまった……
「アデル殿の予選、某も見させてもらった。すさまじい魔法でござった」
「あ、ありがとうございます」
ま、まさか褒められるとは。
見た目よりも、柔らかい雰囲気。しかしその直後、ハヤテさんの雰囲気が変わった。抜き身の刃のような、触れたら切れそうな雰囲気。
「アデル殿の魔法に応えて、某も全力を出させてもらおう。いざ尋常に――」
ハヤテさんが腰の剣に手をかける。直感――来る!
「ではでは~第二試合、開始です!」
「――勝負!」




