第十八話:武闘大会に出ました~予選編~
「武闘大会に出たい人はこちらで受け付けてまーす!」
闘技場前に響く大きな声。あそこで武闘大会の受付をしているらしい。
周囲を見渡すと、たくさんの人。
大きな剣を背負った、体の大きい人。ローブを羽織った怪しげな人。剣と盾を持った人。他にもいろいろな人がいる。
「ひっ! す、すごい人の数です……」
「ええ、帝国は人族最大の国、その国の最大のお祭りだもの。たくさん来るわよ」
「アデル様、そろそろ受付のほうへ向かったほうがよろしいかと」
シルヴィアさんが受付のほうを指さして教えてくれる。どうやら、そろそろ時間のようだ。
「そう、それじゃあ頑張りなさいね、アデル」
「応援しています、アデル様」
「が、頑張ります!」
お二人から応援してもらって、私は受付のほうへと進んでいく。
そして受付にたどり着くと――
「あら、お嬢ちゃん、迷子?」
「ま、迷子じゃありません! 私も、ぶ、武闘大会に出るんです!」
「そ、そうなの。ごめんなさいね。そしたら、この用紙に名前と出場部門を書いてね」
ま、迷子扱いされた……。私は、ただの子どもにしか見えないらしい。
悔しさをぶつけるように、紙に名前と出場部門を書いた。出場部門はクリス様から言われたように総合部門を選んだ。
『ク、クリス様、魔法部門じゃなくて良いんですか?』
魔法だけで戦う魔法部門、私はてっきりそっちなんだと思ったが、総合部門を選ぶように言われた。疑問に思い、クリス様に尋ねると――
“総合部門のほうが相手が強いから” との答えが返ってきた。なんで? 優勝……できるかな……?
「はい、アデルさん。出場部門は総合部門ですね。総合部門の予選は一番最後なので控え室にてお待ちください。それと、アデルさんは総合部門の第一六組となります。控え室はこちらをまっすぐ進んでいただいて、突き当たりを右奥です。もしなにかあればお近くのスタッフまでお声がけください」
第一六組。毎年、予選では何組かに分かれて戦うらしい。シルヴィアさんが教えてくれた。私は一六組ということだ。
受付の人が、一六と書かれた札を渡してくる。そして闘技場の入り口を指さして教えてくれた。まっすぐ……右奥、よし!
「あ、ありがとうございます」
お辞儀をして、私は言われたとおりの道を進んでいく。
入り口までまっすぐ進み、右へと曲がって進む。しばらく歩くと、石でできたドアにたどり着いた。一人、受付の人と同じような服を着ている人がいる。
「総合部門、第一六組の出場者の方でしょうか?」
「は、はい」
もらった札を見せる。
「それでは、こちらでお待ちください。時間になりましたらお声がけさせていただきます」
重そうなドアが開くと――中から無数の視線が飛んできた。じろじろと、見られている。
誰も話していない。外の雰囲気が嘘のようだ。奥を見ると、顔に傷のついた男の人。他の人も、どこかしらに傷がついている……みんな強そう。
武器を研ぐ人、目を瞑って集中している人、他の人をにらみつけている人、いろいろな人がたくさんいる。
誰も、何も発しない空間。そして、時折響く轟音と衝撃。多分、魔法部門と武術部門の試合だろう。きっと盛り上がっているんだろう。
しばらくすると、ドアが開く。先ほどまで誰も話さなかった空間が破られた。
「お待たせしました。まもなく総合部門の予選が始まります。会場に移動するので、私についてきてください」
その言葉に、周囲の空気が変わる。あの魔獣と同じような、殺気。
いよいよ、予選が始まる――クリス様との特訓を思い返しながら、ぎゅっと拳を握り、私は歩みを進めていった。
◇
「さあ、観客の皆様! 大変お待たせいたしました! いよいよ、総合部門の予選が始まります! ルールはシンプル! 参加者約千人を一六組に分け、舞台上で二人になるまで戦ってもらいます! 気絶か降参するまでですよ! そして、各組の残り二名が本戦へ出場となります!」
舞台の入り口に着くと、元気な声が聞こえてきた。クリス様が言っていた、実況の人だろう。
私は一番最後……緊張してきた。頭の中で、特訓の日々を思い出す。たくさん走って、ひたすら魔法を使って……本当にすごい日々だった――
「それでは、いよいよ予選最後の試合となります!」
その時、実況の声が聞こえてきた。いよいよ、私の試合だ!
「総合部門予選、最終第一六組の選手入場です!」
舞台は広かった。六十人が集まっても、戦えるように作られているようだ。ゆっくりと、周りの人たちが広がっていく。
そして、動きが止まった。シーンとして、張り詰めた空気が漂っている。
「――それでは、試合開始です!」
その合図とともに、試合が始まった。
◇
『予選は一瞬で決めなさい』
特訓の時、クリス様にそう言われた。だから、そのとおりにしていく。
――魔法陣と詠唱。それは、魔法を使うために必要なことだとクリス様に教わった。でも、私は詠唱することなく魔法を使えてしまう。
光の魔力で魔法陣を紡ぐ。そして、イメージする。空から降り注ぐ光の雨、クリス様から教わった第五階位の魔法。
(【審判の光雨】)
そう心の中で唱えた瞬間――舞台に光の雨が降り注いだ。
剣を振りかぶり、私に突っ込んでくる人、魔法を唱えている人、別方向で戦っている人たち。そのすべてを私の魔法が襲った。
「こ、これは……! な、なんということでしょう!? 一瞬! 一瞬で決着です! 凄まじい魔法が炸裂したー!」
ふと、客席のほうを見上げると、見慣れたプラチナブロンドの髪が目に映った。
――あっ! クリス様だ!
こちらを見て、わずかに微笑むクリス様。眼鏡をかけ、帽子をかぶって変装しているけどすぐ分かった。その姿を見ると、喜びが広がる。手をクリス様のほうに振る。
「第一六組、勝者はアデル選手とヴァ、ヴァーちゃん? 選手です!」
実況さんが、私の名前ともう一人の名前を呼んでいる。
えっ? ヴァーちゃん……? ちゃん、までが名前なのかな?
周りを見渡すと、土煙の中に一つの、平然と立っている影が見えた。煙でよく見えないけどあれが…
でも、あの魔法を凌いだ人だ。私は、心の中にその名前を刻んだ。もし本戦で当たったら……きっと強敵になるだろうと、そう思った。




