第十七話:ご飯を食べて特訓しました
「すごくおいしそうです!」
シルヴィアさんが机に置いた朝ご飯。焼きたてなのか温かい、ふっくらとしたパン、色とりどりの野菜、香ばしい匂いの分厚いお肉。
「お気に召されたようで何よりです。どうぞ、お召し上がりください」
「は、はい、いただきます!」
最初はクリス様に食べさせてもらっていた食事も、今では自分で食べられるようになっていた。
パンを一口かじる。外はサクサク、中はもちもちしていて、噛むたびに口の中いっぱいに甘さが広がる。お肉も、肉汁があふれてとてもおいしい。……野菜は少し苦手だけど、頑張って食べた。
「今日の食事もおいしかったわ。アデルも、きれいに食べられるようになったわね」
「は、はい……」
ルセーロの時は、パンもぼろぼろこぼしていたし、口の周りも汚していたけど……いまだに覚えられていると思うと顔が熱い。
「それは良かったです。料理長にもお伝えしておきますね。お嬢様、本日のご予定は?」
「そうね……何か重要な用事は?」
「特段ございませんね」
「じゃあ、アデルを鍛えるわ」
……どうやら今日も特訓らしい。これも、クリス様を守れるようになるため! それに、魔法を使えるのも少し楽しみ!
◇
そういうわけで、昨日と同じ大きなお庭に来た。
「まず、武闘大会での目標を発表するわ」
「は、はい」
「武闘大会まで残り一月。正直、かなり少ないわ」
「そ、そうなんですか……」
「というわけでアデルが目指すのは、優勝ね」
私が目指すのは優勝……優勝?
「ゆ、優勝って! 一番になることですよね!?」
「そうよ。あなたには武闘大会で一番を目指してもらうわ。私の護衛になるんだもの、そのくらいできてもらわないと」
「で、でも! 私、全然強くないですし」
記憶喪失。魔法のことも何も覚えていないのに、優勝なんて……
「だからあなたを鍛えるんでしょう? これから1か月の間は厳しくいくわよ」
「え、えっと……具体的には何を?」
なんだかクリス様が怖い。心なしか意地悪な笑みを浮かべている気がする。
「まず、大前提。今のあなたは魔法の才はある子ども、武闘大会に出ても一瞬で負けるわ」
「い、一瞬ですか?」
「ええ。というわけでこの1か月、ひたすら魔法を教え込むわ。後は走り込みね」
魔法は分かるけど……
「走り込みですか?」
「本当は武術も一通り仕込みたいんだけれど、時間がないの。試合に耐えきれる体力だけはつけておかないと」
「な、なるほどです」
走り込み、どれほど大変なんだろうか。それと魔法。どんな魔法を教えてもらえるのか今から楽しみだ。
◇
「――はい! そこまでで良いわよ」
その声を合図に、私は背中から倒れ込んだ。苦しくて、ひたすら呼吸を続ける。
「あら、お疲れね」
「……つ、つかれ……ました……」
お庭の中を何周も。最初は楽しかった。風を切って進む心地よさ、色々な種類の植物。それらすべてが新鮮だった。
でも、何周か走ると、お腹の横あたりが痛くなってきた。それでも、クリス様の合図があるまでは止まるなと言われていたので、なんとか走り続けた。
その結果が、今だ。
「お疲れ様です、アデル様。お嬢様の命で、こちらをお持ちしました。どうぞお飲みください」
その時、お庭にシルヴィアさんが、お水を持って現れた。
「あ、ありがとうございます……」
ごくごく、喉を鳴らして一気に飲む。冷たくて、おいしい。
「アデル、しばらく休んでいなさい。私は図書館の方に行ってくるわ。シルヴィア、アデルを守りなさい」
クリス様にしばらく休んでいいと言われた。正直、かなり助かる。そしてクリス様は、図書館に行くらしい。聞くと、魔法の本を取ってくるらしい。
「かしこまりました。必ずや、守り通してみせます」
「い、いってらっしゃいです……クリス様」
◇
そこからしばらく、シルヴィアさんとお話しして過ごした。クリス様のことや、魔法のことを話してもらって、すごく楽しい時間だった。
そして話が終わると――
「もう十分休んだかしら? 次は魔法の特訓に入るわよ」
クリス様が七冊の本を持って帰ってきた。
「魔法! は、早くやりたいです!」
魔法と聞いて、思わず飛び出しそうになってしまう。
「ふふ、落ち着きなさい。アデルにはまず、武闘大会で使う属性を三つ決めてもらうわ」
「み、三つだけですか?」
「全部使いたい気持ちは分かるけど、三つね。さっきも言ったけど時間がないからね。三つに絞って、それぞれ第五階位まで使えるようにするわ」
本当は色々使ってみたかったけど……優勝のためだ、我慢しよう! ただ、一つ気になることが――
「その、それができるようになれば、優勝できますか?」
「正直言って、半々ね」
「半々?」
「第五階位まで使えれば、準決勝まではいけると思うわ。相当相手が悪くない限りね。ただそこからは……相手によるとしか言えないわね」
「な、なら! どうすれば優勝できますか!?」
優勝できなかったら……クリス様の護衛になれない! それは嫌だ。
「落ち着きなさい。特訓にはまだ続きがあるの」
「続き……ですか?」
「三つの属性を第五階位まで使えるようにする。そして、一つの属性だけ、第六階位の魔法を身につけてもらうわ。必殺技ね」
「ひ、ひっさつわざ……!」
な、なんだかすごくかっこいい! 必殺技という言葉の響きに感動していると、クリス様から声がかかる。は、恥ずかしい――
「さ、それじゃあ属性を選んで。ちなみにおすすめは無属性ね」
「……な、なんでですか?」
無属性、正直地味だって思った。だから選ぶつもりもなかったけど……
「単純に便利だからよ。属性変化の手間もいらないし、何より身体強化が使える。距離を詰めたり、相手に近づいたりする時にも、身体強化が使えればそれだけで大きなアドバンテージになるわ」
「む、無属性……すごいです!」
◇
そこから、頭を悩ませて属性を決めた。
一つ目は無属性、クリス様のおすすめだ。
二つ目は火属性、これはシルヴィアさんからのおすすめだ。火力は正義、らしい。
そして三つ目は――光属性。これは最初に決めていた。クリス様が最初に見せてくれた魔法【破邪の光剣】、これを使いたいと、そう思ったから。
「それじゃあ、早速特訓を始めるわよ、アデル」
「はい! クリス様!」
そうして、私の特訓が始まった。
◇
一月はあっという間だった。走り込み、魔法の勉強、一日一日がすぐに過ぎ去っていった。たまにご褒美もあったけど……思い出すと色々あった……
そして今日、武闘大会が始まる。
クリス様の護衛になるために、私は優勝する――そう誓った。




