第十四話:魔力量を測りました
そこに現れたのは幻灯の灯り。
ルセーロの街灯とバルタザールさんが発動したものと同じ、きれいな幻灯。
「あ、あれ?」
まだ詠唱をしていないのにもかかわらず、私は幻灯を発動させていた。
その現象に戸惑っていると、クリス様が目を見開いて語りかけてくる。
「アデル……あなた詠唱は?」
「わ、わかんないです……詠唱しようとしたら勝手に……」
「そう……」
何かを考え込むようにクリス様は黙り、沈黙が場を支配する。
「とりあえず、魔力を測るわよ。詠唱なしでの発動については……私が調べてみるわ」
「は、はい」
詠唱なしでの魔法の発動。それは本来の魔法の理論からはあり得ない、そうクリス様は教えてくれた。過去に似た例がなかったか調べてみてくれるらしい。
「それじゃあ次は魔法を解除してみて。やり方は――」
クリス様の言葉を遮ってしまったが、私は魔法を解除した。体内からの魔力の供給を切って。
「あら? 魔法、解除できたの。よくやり方が分かったわね」
「な、なんとなくこうかなって」
「そう、さすがね。そしたらまた幻灯を発動するのだけれど……」
少し悩んだように見えるクリス様が、うなずいて言葉を続けた。
「せっかくだし、詠唱なしの魔法を調べてみましょうか。アデル、さっきと同じようにやってみて」
「が、頑張ります!」
さっきと同じように……まず魔法陣を生成する。
魔力を糸のように、模様を編む。
そして思い出すのは先ほどの、幻灯を発動させたときのこと。
あのときをなぞるように再演する。
幻灯のあの灯りを思い出した。
――その瞬間、魔法陣が消え、幻灯の灯りが現れた。
「で、出来ました!」
また魔法が使えた喜びが体を巡る。
「ふふ、再現性もあると……どうやってやったか説明できる?」
私は、先ほどやったことを説明した。幻灯を頭に描いたこと、それだけだったが。
「そう……」
「こ、これで何か分かりますか!?」
期待を込めた目でクリス様を見るが、返ってきた答えは期待していた通りではなかった。
「正直、分からないわね。魔法のイメージ、基本的にみんなやってるから」
「そうですか……」
「もう、そう落ち込まないの。詠唱なしで使える分にはいろいろ便利なんだから」
「そ、そうですね!」
正直、クリス様の詠唱する姿に憧れていたのでちょっと残念だが……
「さ、それよりもどんどん幻灯を使って。魔力量を測っちゃうわよ」
「はい! 頑張ります!」
残念だけど、今は魔力量を測るために頑張ろう! 詠唱についてはクリス様が調べてくれる、だからきっと大丈夫だから。
◇
そこから幻灯を発動し、解除する。これを続けた。片手に意識を割いて繰り返しつつ、クリス様といろいろお話しした。
例えばクリス様の適性について聞いてみると――
「私は光、火、水の三属性適性で、階位は第五段階までね」
と教えてくれたり、魔獣を倒したときに使っていたあの技について聞いてみると――
「あれは帝国剣術って言うのよ。ここアルシーヴ帝国で古くから使われてきた剣術。武闘大会までにアデルにも教え込むからね」
と脅され(?)たり……
他愛もない話をしていると、空が青から金色へと移り変わり、少し暗くなってきた。
「あら、もうこんな時間なのね。どう? まだできそう?」
驚いたように目を見開いてクリス様は尋ねてくる。
幻灯を使い始めてからずいぶんと時間が経った。最初の方はなんともなかったが、今は少し頭が痛い気がする。
「少し、頭が……」
「そう、それじゃあここまでで良いわ。それじゃあ――」
褒めるようにクリス様が頭を撫でてくれる。心が温かくなって、うれしいって気持ちがあふれてくる。
魔力を限界まで使うのはしんどいけど、もっと頑張って褒められたい、なんて思ったりもした。
◇
魔力を測り終わった後、クリス様に連れられてお城の中を歩いていた。見渡すとどこもキラキラしていて、何度も声が漏れ出てしまう。さっきまでの疲れが気にならないくらいワクワクだ。
そしてお城にいる人はみんな、すごい人ばかりだった。可愛いお洋服を着て、背筋をピンと張って、歩いているのに全然ぶれていない女の人たち。
「あれはメイドっていうのよ」
と、クリス様が教えてくれた。
そうして周囲に夢中になっていると……
「さ、到着ね」
そう言ってクリス様は一つのお部屋の前で足を止めた。他のところよりも、すごい装飾のドアだった。
「クリス様、ここは何のお部屋ですか?」
無言でクリス様がドアを開ける。
ドアが開くとそこには広いお部屋があった。青と白をメインとして、金色で装飾の施された壁や天井。夕日の差し込む大きな窓に、ルセーロや他の街で見たものとは比べものにならないくらい大きなベッド。
他にもきれいなテーブルや椅子などさまざまなものがあった。
「ふふ、ここはあなたの部屋よ」
「わ、私のお部屋ですか!?」
わ、私のお部屋……なんだかすごい! 特にあの大きなベッド……すごいふかふかそうで……飛び込みたい!
つい、ベッドの方へ一歩踏み出すと後ろからクリス様に手を握られてしまった。
ゆっくり後ろを振り返ると、にこやかに笑うクリス様。
「こら、飛び込もうとしないの」
「ご、ごめんなさい……」
ちょっと怒られてしまった。
おとなしくその場で部屋を見渡していると、クリス様が手をつないでくる。
「どうかしたんですか?」
「あなたのお部屋紹介はいったん終わり。次は……」
「次は……?」
もったいぶるクリス様。次は何だろう?
「次はお風呂に行くわよ」
おふろ……帝都までの道でクリス様に教えてもらった。
『今はタオルで拭くしかできないけど、帝都に着いたらお風呂に入れてあげるわ』
『おふろですか?』
『ええ、たくさんの温かいお湯に入るの。とても気持ちいいわよ』
帝都までは、クリス様にタオルで体を拭いてもらっていた。
とても気持ちよかったけど、服を脱ぐように言われて恥ずかしかった……
あれよりもすごいなんて、なんだか楽しみ!
「さ、行きましょうか。アデル」
「はい! クリス様!」
私はクリス様に連れられ、お城のお風呂に向かっていった。




