第十一話:皇帝陛下に会いに行きました
「私の、今後?」
バルタザールさんが言った“私の今後”。それがどうかしたんだろうか?
「そうじゃ。アデルよ、そなたの適性は歴史上類を見ないものじゃ」
「は、はい……」
「だからあなたを狙って貴族どもや教会、なんなら他国や他種族までもが動くでしょうね、と言う話よ」
なんだか、クリス様が恐ろしいことを言っている気が……
「だから、アデルの今後について方針を定めておこうというわけじゃ」
「この結果を隠蔽できれば一番なのだけれど……」
「まあ、不可能でしょうな。塔の最上階での爆破事故。どうあがいても気づかれましょう」
「そうね、爆破事故の原因が魔力検査であることなんてすぐ広まるわ」
暗い空気が部屋の中に充満する。バルタザールさんとクリス様、お二人とも黙って何かを考え込んでいるようだ。
「あ、あの、クリス様……」
きっと私がたくさんの人に狙われてしまう。そういう話なんだろう。狙われて、どうなっちゃうんだろう――
考えているのを邪魔しちゃうかもとも思ったが、怖くなってしまい、ついクリス様を呼んでしまう。
「……ふぅ」
一息ついたクリス様。私の頭にあの温かい手が触れる。
「決めたわ、バルタザール」
先ほどまでの重々しい声ではなく、凛とした美しい声でクリス様は告げる。
「アデルは、私の専属護衛として私のそばにいてもらうわ。さすがに皇女の護衛に手は出さないでしょう?」
「――そうでしょうな。殿下の護衛とあらば、教会や貴族からは手を出されないでしょう」
まっしろなひげを揺らし、うなずくバルタザールさん。
クリス様が言っていた“せんぞくごえい”。それはいったいなんなのだろうか。
疑問に思い、私は口を開く。
「クリス様…… “せんぞくごえい”ってなんですか?」
その問いに、クリス様は笑顔で答えてくれる。先ほどまでの重たい空気は、もうどこにもなかった。
「私を守るお仕事よ」
クリス様を、守る?
「で、でも……クリス様ってすごく強いですよね?」
あの森での魔法。私はまだ戦ったことがないから分からない。けど、あの魔法とあの動き、きっとすごく強いんだろうなって感じる。
「そうね、私は強いわ。でも皇女である以上、自分で戦うのってあんまり良くないのよ」
「そ、そうなんですか……」
そこでバルタザールさんが補足してくれた。
「殿下が戦って、万が一があったら大問題じゃしな。それにアデルよ、その力を有効に使ううえで、護衛という職業はなかなか良いと思うぞ。それに殿下のそばにいられるしの」
クリス様のそばに……
難しいことはよく分からないけど。クリス様のそばにいることができる、その言葉が胸の奥にあった不安を消し去ってくれる。
◇
そこからしばらくクリス様とバルタザールさんとお話ししていた。
ルセーロにまた行きますと、街のみんなと約束したこと。
幻灯と破邪の光剣がとてもきれいだったこと。
他にもいろいろお話ししていた。
「殿下よ、そろそろ陛下のもとへ向かった方がよろしいのでは?」
「……そうね、そろそろ向かおうかしら。行くわよアデル」
「も、もう行くんですか?」
バルタザールさんとのお話もこれで終わり。そう考えると少し寂しさがわいてくる。
「寂しい?」
クリス様の問いかけ。寂しいか? バルタザールさんとのお別れは――
「はい、寂しいです」
「そう、良かったわねバルタザール」
「ほほほ、そうですな……では、しばしお別れですな」
いよいよ、クリス様のお父さんに会いに行く。そして、バルタザールさんとお別れだ。
「なに、帝都におるならまたすぐ会える。いろいろ落ち着いたら、エーデルシュタイン家に遊びに来なさい。また、お話ししようではないか」
「そうね、アデルを専属護衛に就かせたら遊びに行くわ」
「は、はい! またお話ししてください! 今度は魔法のことも!」
「もちろんじゃ!」
白いひげとローブを揺らし、楽しそうに笑うバルタザールさん。また会いに行こう。
「では、せっかくじゃし帝城まで送ろうかの」
「あら、いいの?」
「もしかして、またあの魔法ですか!?」
ここに来るときに見た、景色が一瞬で変わった魔法。多分、あれは一瞬で移動する魔法なんだろう。
また見せてもらえるのかと思うと、思わず声が大きくなってしまう。
「そうじゃよ。……では、殿下よ。適性結果が広がるのは儂の方でも抑えてみるが、期待はせんといてくれ。そして、この娘、アデルを育ててやってください」
目元を緩め、微笑むバルタザールさん。
「アデルの持つ力は、有用であり同時に危険でもある。殿下が導いてやってください。……アデルよ」
呼びかけられる。
「その力を扱えるようになったとき、殿下を守ってやりなさい」
クリス様を……守る!
「では、また会うときまで元気に過ごすんじゃぞ!」
そう言ってバルタザールさんは魔法陣を出し、詠唱を紡ぐ――
「視界の果て、果てなき路の黎明。隔絶の虚空を刹那の彼方に霧散せん。遥かなる路を一歩に超越せよ、次元を跳ばせ――【空間跳躍】」
「バルタザールさん! ありがとうございました!」
景色が切り替わる直前、私は叫んだ。
――また、会いたいな。
◇
「やはり! 転移で跳んできたか!」
大きなお城の前に移動した私とクリス様。目の前に見覚えのある大男がいた。
赤いマントを羽織り、漆黒の鎧を着て、プラチナブロンドの髪色。
帝都に着いた時、空から降ってきた――
「わざわざ出迎えてくれるなんて、優しいのねお父様」
クリス様のお父さん。皇帝陛下さんだ。




