第九話:適性検査を受けました②
一瞬の浮遊感とともに、さっきまでいた塔の入り口は跡形もなく消え去り、広く、異様な部屋に立っていた。
見渡すと一面の黒。唯一、天窓から差し込む光が目の前の大きい物体と、何も置かれていない机を照らしていた。
「…………」
先ほどまでいた外の景色からの変わりよう。思わずぽかんと口を開け、戸惑ってしまう。
「ほほほ、驚かせてしまったかの。ここは魔法塔の最上階、儂の研究室じゃな」
バルタザールさんがいたずらっぽく目を細めて笑い、こっちに近づいてくる。思わずクリス様の背中をつかむ。
「……あんまり人を驚かせないでくれるかしら、バルタザール。アデルが驚いてしまったじゃない」
「面白いかなと思ったのじゃが……」
「はあ、まあ良いわ。そんなことより、適性検査よ、準備できているんでしょうね?」
「もちろんですぞ」
そう言うとバルタザールさんは魔法陣を構築し出す。
「夜道を導く灯火となれ。灯れ【幻灯】」
窓からの光以外に、もう一つ灯りが現れる。
「そ、それって、幻灯ですよね!?」
見たことのある魔法が出てきて、思わず叫んでしまう。ルセーロで見た街灯。あのときの明るさを思い出す。何度見ても明るくて、温かい。
「おお、知っておったか。博識じゃのう。どうじゃ、もっといろんな魔法を――」
「ほら、良いからやるわよ」
すごい勢いのバルタザールさんを、クリス様が遮る。しぶしぶといった感じで、白い液体の入った透明な器を持ってきた。そして、それを机に置いた。
「さて、では始めようかのう。殿下よ、適性検査の説明は?」
「もう終わってるわ、あなたを待ってた間にね」
「おや、これは失礼いたしました……では、始めましょうか」
やり方は聞いた。聞いたけど……
「あ、あの!」
「どうかしたの? アデル」
「私、まりょく、知らないです……」
そう、検査のやり方は習っていても、肝心の魔力の扱い方が分からないのだ。
「あら、そういえば教えていなかったわね。アデル、目を閉じなさい」
「は、はい」
言われたとおりに目を閉じた。
「次に、お腹に力を込めてみなさい」
「は、はい!」
ぎゅっとお腹に力を込める。
「……少し、触れるわよ」
「は、はいっ!?」
言葉どおり、クリス様の指が私の背中、ちょうどお腹の裏側くらいのところに触れている。
「想像するの。あなたのお腹の奥に温かい、魔力の塊があるの」
まりょくの……かたまり……
クリス様の指が指し示すように私の背中を動く。
「ここにあるの。魔力が」
その言葉に言われるがまま、お腹の奥に意識を向ける。
ドクン! 何かが大きく脈打ち、体中を何か巡る。
「ク、クリス様! これが……」
「そう、それが魔力。ちなみにこの状態は魔力を解放しているっていうから。覚えておくように。それじゃあ今度はそれを右の手に集めてみて」
「はい!」
体中を巡る魔力。その魔力を手へと動かす。
「で、出来たと思います」
「はい、じゃあ目を開けて、あとはさっき教えたように魔法水に触れなさい」
「さて、まずは火属性からやってもらおうかのう」
バルタザールさんが一つ目の魔法水を手に取り、こちらに向ける。
「い、行きます!」
勢いよく魔法水に手を突っ込む!
「……え?」
それは突然起こった。
魔法水はきれいな深紅に染まった。きっと適性があるということなんだろう。
問題はその後だ。魔法水がぶくぶくと泡立ち始めた。
「い、いかん! アデル、手を引っ込めい!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
血相を変えたバルタザールさんの叫びに急いで手を引っ込める。それと同時に、クリス様に手を後ろに引かれる。
「アデル!」
ボン! 爆発音とともに深紅の液体がはじけた。
「アデル、大丈夫!? 怪我は……なさそうね」
「で、でも魔法水が、クリス様は……」
「私は大丈夫」
「わ、儂も、き、気にしなくてよいぞ。いくらでも作れるしのう。しかし、爆発する……とは……」
バルタザールさんの言葉が途中で途切れ、視線がそれる。
「……ねえ、バルタザール」
「……はい、殿下」
「机の上の魔法水、ちゃんと白の魔法水を持ってきたのよね」
「それはもちろん」
視線を向けると、机の上には青、紫、緑、黄、黒のそれぞれに染まった魔法水があった。
それらすべてがぶくぶくと泡立っている。また爆発――
「バルタザール! 防ぐわよ!」
「お任せを!」
魔法陣が現れ、すぐさま詠唱を紡ぐクリス様とバルタザールさん。
「集え! 遮りなさい!【光盾】」
「世界を隔絶せい【魔力障壁】」
ドゴォォォォン!!!!
詠唱が終わると同時に、部屋が爆音とともに白煙に包まれる。
「ひゃ、ひゃううぅぅっ……!」
しかし、壁が壊れたのか白煙はすぐ外へ出て行く。煙が晴れるとそこには色のついた魔法水で、自慢の白いひげを染めたバルタザールさんと、ほこり一つ付いていないクリス様がいた。
「く、くそう儂のひげが……殿下、こっそり盾にしましたね」
「さあ、気のせいじゃないかしら。それよりアデル、怪我は?」
「だ、大丈夫ですけど……あ、あの適性検査は……」
その言葉を聞くと二人は視線を交わした。ど、どうなんだろう? でも、全部染まってたし適性がないってことは無いはず!
「まあ、爆発するとは前代未聞じゃが」
「全属性、適性はあるわね。それも相当上位の」
「ほ、本当ですか!?」
だったら……
「だったら、私にも使えますか? クリス様が見せてくれた破邪の光剣!」
「もう、忘れたの? もう一個検査があるでしょう」
「そ、そうでしたね……」
「ふふ、大丈夫よアデル。だって魔法水を爆発させるなんて、聞いたことないわ。きっと大丈夫」
クリス様の温かい手に頭をなでなでされる。うん、安心できた。
「仲睦まじいのう」
「……からかわないの、バルタザール」
「からかってなど……おほん! さてアデルよ、次は階位適性、天上の試練鏡じゃ」
「はい!」




