24 悪霊
※若干のホラー描写注意です。
「おっとあぶない」
宙の声が聞こえるがはやいか、私の身体は宙に押され大きく後ろに下がる。
なんのつもりかと宙のほうをみれば、なんと私たちがいたあたりの地面には白い光でできた弓矢が何本も突き刺さっていた。
「あぶないじゃん、トラニ様?」
宙の、そして私の視線の先にはトラニ様がいた。
地下の白い壁に沿うようにつくられた階段から、いつもとなんら変わらない姿で私たちを見下ろしている。
その墨につけた白筆のような長い髪も、朱色の凪いだ瞳もいつもとなにも変わらない。違うのは、私の身長ほどもある大きな杖を掲げ、こちらに向けて弓をひくような動作をしていることだけ。
「トキコのことをこのままこの場で神の御許に直接配送しちゃおうってこと?」
「戯れるな、悪霊が」
先ほどと同じ光の弓矢が再びこの地下に降り注ぐ。
光のシャワーのように壮麗なそれは、間違いなく宙を狙っていた。
「や…やめてください、トラニ様!!!」
呆然とただ無駄にぽっかりと開こうとする口に喝をいれ、決して大きいとは言えない掠れた声で主張する。
でも漫画のヒロインみたいに宙にかけよったりなんかはできなくて、その場で腰をぬかしたまま情けなく声だけあげていた。
「だってよ、トラニ様?」
「……」
無数に注ぐ弓矢を、宙はまるでダンスでも踊るように避けていく。
「ははは、へたくそ。雑な魔術だなぁ。感情的になってるの?」
たまにくるっと一回転したり、おどけたようにステップをふんでみたり、バレリーナのようにつま先だちをして腕で円の形をつくってみたり。
何も知らなければきっと遊んでいるようにしか見えない。
「あっ、もしかして人間に弓矢を当てんの日和ってる?」
「…人間もどきが生意気なことを言う」
「へぇ?」
優雅に回転した宙が体をぴたりと止めて、顔をトラニ様に向けると犬歯をむき出しにして笑う。
対してトラニ様はぴくりと眉を動かすことすらない。
「生者のふりは楽しかったか?ニフリナ__いや、お前はニフリナですらないのだろう。お前は、何者だ?」
「……は?」
トラニ様は、なんといった?
宙が、ニフリナではない?
いや、その可能性はもう検討した。検討して、ニフリナの名前を確認して、間違いなくその姿もニフリナであることを確認した。それなのにトラニ様は…なにをいっているんだ?
「なにおかしなことをいってるの、ラウズトラニ。自分のやってることを誤魔化そうたって……あっ」
宙の身体がぐらりと傾く。
どうやら足元の墓石に躓いたらしい。
倒れた身体へ、一本の光の矢が真っ直ぐ走って___
「あー、危ない危ない」
宙は何事もなかったように立ち上がり、服についた土を軽く払う。
どうやらギリギリで回避したらしく、光の弓矢は宙のつま先の数ミリ先に刺さっていた。
「__ありゃ?」
しかし、その肩から上には、あるべきものがない。
そして、今度は墓石の向こうから「あーあ」と声が聞こえる。
そこには、墓石にもたれかかるように、宙の首だけがにやにやとこちらを見上げていた。




