23 かえる場所
「…おかしいじゃん」
こんなこと、あっていいわけないのだ。
だって転移者は来た数年後には帰ってるって……
「__どこに?」
そういえば。
そういえばだが、誰も「転移者が元いた世界に帰った」とは言っていない。ただ、「数年後にかえった」とだけ。
私は都合よく「元の世界に帰った」のだと解釈していたが……
__もしかして「土に還った」とでも?
そんなふざけた話が許されるのか?私は言葉遊びに騙されていたのか?
でもたしかに、そうすれば全部辻褄が合う。
「神に会う」ってのはそういうことで。
トラニ様がガラスの山で私を無理にでも逃がそうとしたのはそういうことで。
墓らしきものがあるのもそういうことなのだ。
「…はぁ…はぁ……はぁ……はぁ……」
目の前がぐるぐるする。
さきほどまでは普通に息が吸えていたはずなのに、今は溺れてるみたいに苦しい。息を吸おうとしてもなにかが邪魔をしてる。私を監視しているらしい首輪を思わず触るけどとれるはずもなく、ただ息苦しさだけが増す。
こわいよ。
こんなの聞いてないよ。死にたくなんかない。私なんでこんな世界に来ちゃったんだろう?
推し活みたいな馬鹿な現実逃避なんかしてる場合じゃなかった。でも、だって、でも知らないかったんだから仕方ないじゃないか。私は孤独で、一人ぼっちで、無知だった。
元の世界でまともに働ける気がしなくて、この世界に来てちょっとホッとしてたよね?本当に馬鹿なんじゃないの。
いくら雑に扱われるとはいえ、まともに働きもせずにずっと衣食住が保障されると思ってた?そんなわけないじゃん。
存在しているだけで価値があると思ってた?生存権が異世界にあるわけないじゃん。特に異世界人になんて。
馬鹿なやつ。馬鹿で、ゴミみたいで、本当に最悪。
「かわいそうなトキコ」
柔らかな手が私の背にふれ、いつもより暗い水色と金の瞳が崩れ落ちた私を覗き込む。
眉は下がり瞳も哀し気に細められているが、唇の端はいつも通りゆるく持ちあがっていて……その感情はいつも以上に読めない。
「ヒドイよね。いついなくなっても構わない人間をこうやって利用するなんて」
__そうだ。私は、透明人間なのだ。
異世界人相手の犯罪は、いつだって完全犯罪だ。
だってここにいるはずがないから。いる方がおかしいから。
「ラウズトラニも残酷だよね。なにも教えず飼い殺しにして」
飼い殺しとはうまいことを言う。
飼ってそのまま殺すんだから、まさしくこれは「飼い殺し」だ。
家畜は生かして活かさないのが飼い殺し。私の場合は活かして生かさない。
命を活かしてくれてありがとう?そんなわけない。私は家畜じゃない。私は生きたい。
死にたくなんか、ない。
「___ねぇ、まだ間に合うよ?」
宙が私の頬を両手で包んで、顔を寄せる。
まるで口づけでもするみたいだ。
「ジブンのこと、選びたくなった?」
もはや近すぎて宙の表情なんかなに一つ見えない。
でも、澄んだ空のような水色と、月のように金のきらめきを放つ瞳だけはよく見える。
薄暗い場所でもなおきらきらとしているその瞳が不思議で、私は空を仰ぎ見る人のようにただただそれを呆然と見つめていた。




