22 墓参り
沈んで落ちた先は、どこか異様な空間だった。
たぶんどこかの地下で、陽光は一切差し込まない。ただ、蝋燭と松明の赤い炎がゆらゆらと白い岩肌と、黒い土で埋められた地面を照らしている。
これだけでも十分異様だが、なによりも不気味なのは明らかに人為的につくられた長方形の白い石が、一定間隔で並べられている光景だった。
その場所はあまりにも不気味で、思わず横にいる宙にくっついて腕を絡めてしまう。
だが、宙は非情にもそんな私をみてニッコリと笑って、指の先に青い炎をつけると、私を引きずり長方形の石のもとに歩みを進める。
そして、それになにか文字が彫られていると気付けるところまで近寄ると、ようやく足を止めた。
「か、と、う、ゆ、み、こ……加藤 由美子?」
脳みそがフリーズする。
隣の石を見る。
「オリバー・ウィリアムズ」
隣
「し、も…………ら??」
削り取られてて読めない。
隣
「シャルル=リュック・ゴダール」
「ワン・セイ」
「ソフィア・ラミレス・トーレス」
「キム・ソヨン」
「アストリッド・オルセン」
「佐々木 未来」
隣も、隣も隣も隣も、その隣も隣も隣も隣も隣も全部全部全部人の名前。
この地下には、人の名前が、こっちの世界に来てからは見かけることがないタイプの名前が彫られた石が並んでいる。
長方形の白い石。
刻まれた名前。
土。
等間隔。
悪趣味だ。とても、とても。
だってこれじゃあ___
「お墓……」
気が付いたら、口から言葉が出ていた。
こんな不吉なこと言いたくないのに、でも逆にその不吉を否定して欲しさもあって……その単語が出てきてしまった。
「これは、なんなの…?」
宙はなにも言わない。
瞳孔の金色をぎらぎらと輝かせて、こちらをただニヤニヤと見つめている。
否定して欲しいのに、否定さえしてくれない。
__腹の底がゾワゾワとする
だっておかしいだろう。
この世界に来てから、少なくとも加藤由美子だとか佐々木未来みたいな名前の人にあったことはない。でも、この世界の人々が言うには、「転移者はもとの世界に帰っている」はずなのだ。
でも、じゃあ、この墓のようなものはなんだ?帰ることを望まなかった転移者がこれだけいるとでも?あんな小屋に押し込められて、あそこにずっといたい人がここまで?不慮の事故か病気かなにかで死んでしまった人が加算されたとして……ここまでの人数になるものなのか?
「そういえば知ってる?」
今まで黙っていた宙が名前の削り取られた石の上に軽く腰かけながら、声をあげる。宙の座る石につけられた傷痕は、まるでつい昨日にでも削られたかのように白く、生々しい。
その石の付近の土は、周囲よりも柔らかくなっているらしく宙の足が土の中に緩く沈む。
「この国に落ちてきた転移者って、トキコで56人目なんだって」
「……なにが言いたいの?」
私がそう尋ねると、宙は私から目をそらして楽しそうに鼻歌を歌い出した。
……ここの石の数を数えてみろとでもいいたいのだろうか?
祈るような気持ちで、でも半ば確信を持ちながら私は端の方から墓の数を数え始める。
1、2、3、4……19………32、33、34…………45、46………53、54、55
…なんだ、足りないじゃん。
どこかほっとしたような、拍子抜けしたような気分になって宙を振り返る。
__宙は、私をじっと見つめていた。
「56……」
もはや半笑いで私は私を指さす。
__喜ぶべきなのだろうか。
少なくとも、私の名前はまだここにはなかった。




