21 啓蒙
「やっほ~~」
数日間姿を隠していたその人は、やっぱり妖精のような軽やかさで部屋に現れた。
こんなに日にちを空けることなんてこれまでなかったのに、それに対してなにか理由を述べるでもなく、ごくごく楽しそうに私のベッドの上でゴロゴロとしている。
トラニ様だってあの日の後は多少気まずそうな顔をして現れたのに、全てをかき回すこの人はなにも変わらない。これじゃあ、まるであの日から沈む私の方がおかしいみたいだ。
本当ならば布団に寝転がりたいのだが、早々に宙に占拠されたので、私は仕方なくベッドの端に腰かけてため息をつく。
色々聞きたいことも聞かなければならないこともあるはずだが、調子が狂う。
「どうしたの?ため息なんかついて」
耳元で突然囁かれて心臓が止まりかける。
先ほどまで寝転がってダラダラしていた宙が、いつの間にか私の背なかにピタリと張り付いていた。
首に、温度の低い真っ白な腕が回されてさらにドキリと心臓が鳴る。
「……わかってるくせに」
「ふふふ、もしかしてジブンが言ったことを気にしてるの?かわいいなぁ…」
気にしてないなんてことがあるのだろうか。あんなことを言われて気にしない奴がいるとしたら、むしろ教えてほしい。そして私とそいつの脳みそをぜひとも入れ替えて欲しい。
そうしたらもっと楽になるはずだから。
「そんなに気になるなら、もっと面白いもの見せてあげようか?」
冷たい息が、私の首元にかかりぞくりと肌が粟立つ。
息が冷たいなんておかしな話だとは思うが、これは私の精神的なものから来るのか、あるいは私の身体がよほど火照っているのだろうか。
「ああ、でもあんなの見せたらトキコ泣いちゃうかな。あんなもの見せたジブンを恨むかな?__ねぇ、どう?」
怯えて黙り込んだ私を見て何を思ったのか、宙はまたくつくつと笑いだす。
「このまま目を瞑り続けようか。ジブンはそれでも全くかまわないし協力するよ。目を開くことは怖いことだからね」
宙は、一体私になにを見せるつもりなのだろう。
たぶんだけどきっと碌なものじゃない。でもおそらく、私に関わっていることなんだろう。宙がそれを私に見せてどうしたいのかは知らないが…
でも、やっぱり、
「……見たい」
私は、もう目を閉じるのは限界だ。
目を開いた先に、絶望があったとしても……このままなにも知らないまま運命に身を完全に委ねる気にはなれない。
「無理しなくていいんだよ。かわいそうでかわいいトキコ。なにも知らないまま、幸せでいいたっていいんだよ」
「無理なんかしてない。…だから見せて、面白いもの」
私のその言葉を聞いて、宙はなにも返さず黙り込む。
…宙は今、どんな顔をしているのだろう。
振り向きたくとも、宙がのしかかってるから確認できない。
「トキコのそういうところ……だーいすき♡」
宙の上擦った声が聞こえて___
「じゃあ、お墓参りに行こうか」
首になにか柔らかく冷たいものが触れた瞬間、私たちの身体はベッドに現れた闇の中にずぶずぶと溺れて行った。




