母親は務めるもの
――あんた一人も友達いないでしょ? 学校に。
「―――あっ……」
ふと、頭の中にすみれの顔が思い浮んだ。
「………?」
「いますっ。一人だけ」
そうだ。何を考えていたんだ自分は。
たった一人の………唯一友達と呼べるような関係の人。
「いるって……」
「友達です」
「………。その『友達』って、同じ部活の人?」
「そうです」
得意げにそう答えると、
「なんでその人とは友達って思ったの?」
(なんでって………)
変な質問。友達である理由を聞いてくるなんて。
言葉にしろと言われると答えにくい。だってそれはとても曖昧なものだから。
言ってみれば、自分がこころを許せていればそれはもう『友達』と呼べるのではないか。
「ぼくが友達だと思ってるからです」
「相手がそう口にしてたの?」
「………してないです。でもいちいち口にしたりしないじゃないですか? 普通……」
さっきからこの人は何を言っているのだろう。
やたらと執拗に自分のことを聞いている気がする。
「それもそっか」と、詠美母。
「………?」
「いや、ね? ちょっと疑問に思っただけ。それ自分が友達って思ってるだけで、向こうは別にそんなこと思ってなかったー、みたいな」
「はあ………」
「一緒の部活って言ったでしょ? あんた。
だからそう思ったの。
友達って思ってるそれは、実は同じ目的を共にしてるからであって、目的が違えば互いに関わり合うことなんてないんじゃないかって。
だって本当に友達だったら何の理由もなしにお互い遊んだりするでしょ?」
「たしかに……」
「でもごめんね。なんか私の方が変にあんたのこと疑ってたみたい。別に責めるつもりはなかったんだけど」
「いえ……」
自分の方こそ、この人のことを勝手に『悪』だと信じ込んでいた。
「あーいけない……詠美のことすっかり忘れちゃってた」
「あ………」
ここで話をし始めて、もう五分くらい経った気がするが……。
話に夢中になり過ぎたあまり、こっちもすっかり詠美を待たせていたことをド忘れしていた。
「いない……」
扉を開けて廊下へと出た詠美母に続いて、自分も廊下に出る。
しかし詠美の姿は見当たらなかった。いるはずの玄関には誰も人がいない。
一体詠美はどこにいるのだろうか。
そう考えているころにはもう、詠美母は廊下を進み始めた。自分もその後に続く形で足を動かす。
詠美母が向かったのはリビング。彼女が引き戸を開ける前には、扉越しから聞こえる音で大体察しがついた。
「あの子また……」
呆れた声でそう呟く母親。それとほぼ同時に引き戸が開かれる。
映ってきたのは床に腰を下ろした詠美、そしてショッピングモールで買った例のラジコン。
「ママー。このクルマこわれてる~ッ!」
地べたに見事に散らかった商品のあれこれ。
細かな部品はもちろん、説明書やプラスチック製の小さな袋まで、彼女の思うままにリビングが汚染されていた。
それを見た詠美母は「はぁぁあ」と、これ以上ないため息を吐いたのである。
「ほら詠美っ。どうせ説明所読んでないんでしょ! それ電池が入れないと動かないのよ!」
「せつめいしょ……?」
「後でしてあげるから。その前に散らかしたやつちゃんと片づけなさい」
「はーい」




