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彼女の思惑

 今年で五才になる詠美は四月生まれで、ちょうど数日前に誕生日を迎えたばかりだということは、今日彼女の母親から初めて聞かされた。


 電車に乗る際、電車は何歳から無料で乗れるか正確に把握していなかったハクは、駅長に直接そのことを尋ねた。


すぐに「五歳から」と答えられ、詠美は特に切符を買うこともなくそのまま電車に乗ることができたのだった。


 詠美に、電車は初めてかと聞くとそうじゃないと答えられ、少し意外に思った。


自分が初めて電車に乗ったのは、たしか小学校高学年になってからだったから彼女は随分と早い。


 詠美は車内から見える外の景色が好きなのか、それともただ純粋に興奮しているだけなのか――しばらくの間、まるで這いつくばるように窓ガラスの方に体を向けていた。


靴のまま座席に膝立ちしているのを見て靴を脱ぐよう何度も注意したが、詠美はまるで言うことを聞かなくて。


やはり、子どもの世話というのは難しい。詠美母も、さぞかし大変なんだろう。

結局、言うことを聞かせられないまま放置することになった。


その間、自分はスマホで目的地までのルートを確認していた。


お買い物――と言っても、特に何かを買うために行くわけではなく、その場で、一緒に見て回った後で買うものを選ぶタイプの『お買い物』だと想像している。


そんなものはショッピングモール以外ありえないだろう――そう思って自分は家を出る直前、スマホで最寄りのショッピングモールはどこかと検索をかけた。


いかんせん近くにはそういった施設はなくて、それが今こうしてわざわざ電車に乗って移動している理由だった。


全てアプリの案内に従えばいいものの、確認は怠らない。


怠ったら、自分はきっと何かしでかすと過去の経験が物語っている。


特に今回は、子どもを連れていくという重大な責任を背負っている。


決して『ドジだから』では済まされない。


迷子にならないように、ちゃんと手を繋いで移動することを心がけなければならない。


入念にアプリの案内を確認しながら移動を続けていると、ようやく目的のショッピングモールに到着。


自分としては、今まで何事も起らなかったことにさぞかし安堵しているところだった。


「詠美ちゃん、どこか行きたい場所ある?」


 ショッピングモールの入り口を過ぎると、そこにはたくさんの人で行き交う光景がぱっと目の前に広がってきた。


店の数も半端じゃないほどに多くて、一体どこから行けばいいのかと頭を悩ませそうだ。 


「…………!」


 詠美はこのモール内の光景に魅せられたのか、返事を返すことなく黙ったまま周りを見回していた。


「あっち行く!」


 と、興奮気味に指を前へと突きだす詠美。

 自分は詠美の思うまま、足を動かしたのだった。



 △△



 あれから四件ほど店を回った。


 てっきりおもちゃがあるお店にでも行くのかと思っていたが、意外や意外、彼女は雑貨屋や本屋のような場所に行きたがった。


 もちろん見るものは子どもが扱うような物。


 雑貨で言えばプラモデル(女の子がプラモデルを見るというのもさぞかし意外に思うが)やキラキラした飾りだったり。


 本屋で言えば絵本や子どもが見る雑誌や絵本だったり。


 しかし詠美は、ただ見ているだけで「買いたい」などと言って興奮することもなかった。


 始め、来たばかりのときとは大違いだ。


 あんなにはしゃいでいたのに、店を回っていくに連れて段々と感情の起伏がなくなってきているように感じる。


 子どもにとっては見るだけでも十分に楽しいのだろうか。


 到底理解できそうにもない。

 自分だったら、他人のお金で買うのをいいことにあれもこれもと欲しいものをせがんだだろうに。


「もうお昼か……」


 本屋を出て、次の店舗を探そうと通りを歩いていた途中、自分はふと携帯で時間を確認した。


「詠美ちゃん。そろそろご飯食べよっか」

「おにいちゃん」


 詠美は言った。


「あっち、行きたい……」

「ん? どこ……?」


 彼女の人差し指――その先にあったのは……。


「――え……服?」


 驚かないわけがない。彼女が服を見たいだなんて。……いや、これはきっと自分の勘違いで――


「うん」


 左手が勝手に動いていく。それに釣られて、自分の足も前へと進む。


「―――えっ、ちょっと待って……!」


 さすがに自分は足を止めた。


「詠美ちゃん………その、服に興味あるの?」


 そう言った途端、彼女は急に自分から目を背けた。まるで、何か後ろめたいものでも隠しているかのように。


「うん……」


 こくんと、頷かれる。


 そこに羞恥のようなものはなかった。でもなぜか気まずそうにしていて。


 再び質問を重ねようとしたその瞬間、詠美は再び足を動かしだした。


 繋がった左手が勢いよく引っ張られ、自分の足も勝手に動いていく。


「…………?」


 もう疑問符で頭がいっぱいだったが、彼女が足を向けた以上こちらは言うことを聞くしかない。


 昼食はその後に取ることにしよう。

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