↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
110/154

それは悪ですか?

「ねぇえッ、おにいちゃん早くいこっ!!」


 駄々をこねる子ども。子どもにとっては、こんな〈大人〉たちがする話なんて何一つ意味なんて感じられないだろう。


 ただハクの服を引っ張り、玄関の扉――つまりは外の方を指さしながら小刻みに足を鳴らしている。


「ごめんねぇ。詠美が迷惑かけて」


「……いえ、全然そんなことないです。この後予定もないですし」


 両手を横に振りながら否定するハク。その表情は、決して柔らかいとは言えない。


「ほんと大人になったよねぇ。前ウチに来たときとはまるで別人だもん」

「あのときはまだ中学だったので……」

「高校生になったくらいじゃそんなに人は変わらないって。私が高校生のときなんて、一ミリも人に気遣ってなかったから」

「…………」

「そういう意味じゃ、あんたも段々由依に似てきたのかもねー」

「いや、ぼくは――」

「ねえってばッ!!」



 ――ビリッ。



 語弊を解こうとしたその矢先だった。急に誰かの手によって服が持っていかれた――気がした。


 その予想はやはり当たっていて、服は詠美の方に向かって引っ張られていた。


 そこまではよかった。


(あー……)


 薄い布でできた上着は、彼女の手によって盛大に切り離されていた。


 直前に聞こえたあの音は、服が破けた際に鳴った音ということになる。


「――――」


 目を点にした詠美と目が合う。


 しかしすぐにそっぽを向けられ、破れたままの上着の端切れをポイと手放された。


 瞬間、破けたその布が太ももの方へと垂れ込んでいく。


「詠美」


囁くような声で母は呼びかけた。

当然母親も、娘が何をしでかしたのかを知っていて、


「………ないもん」詠美は言った。「えいみ悪くないもん……。お母さんたちがずっとしゃべってたから――」

「違うでしょ? 詠美。まず最初に言うべきことがあるんじゃないの?」

「…………」

「ほら、お兄ちゃんに謝りなさい。これ、あんたがやったんでしょ?」


 破れた服を指さす母。


「………………」


 詠美は母親の言うことを聞かないまま、ずっと黙ったままだった。


 その表情からは、彼女が今抱いているであろう感情が見て取れる。


――自分は悪くない。

 だから謝るなんて絶対したくない。

 だって自分は悪くないんだから。

 謝るべきなのは自分を無視して話し続けていた二人方だ。

 なんで自分が謝らないといけないようになっているんだ。

 おかしい………そんなのっておかしい…………。


まだ未熟だから抱ける感情。

彼女なりの理屈で、必死に自分を守ろうとしている。


「お母さんたちが悪いんじゃんっ!! えいみずっと呼んでたんだよ! なのにお母さんたちずっとしゃべってるから……………お母さんたちが悪いもんッ!」

「詠美っ」


 けれど、大人たち………いや、それが子どもであったとしても、彼女の主張は受け入れられることはないだろう。


「お兄ちゃんの服ダメにしたのは詠美でしょ! 悪いのはあんたなの。……ほら、今すぐ謝んなさい」

「……っ………っ」


 頑なに自身の正義を貫いた詠美だったが、とうとう限界がきた。


 小さな瞳から、これほどとまでに涙がこぼれ出る。


 しかし母は、娘が泣きじゃくる姿を見ても一向に見る目を変えなかった。


 ただただ、詠美の鳴き声がこの静かな家全体に鳴り響くだけで。


 ハクは詠美を少しかわいそうに思っていたが、母親の威圧さに怯え、口を挟むことさえ忘れている状態だった。


 そんな中、母は追い打ちをかけるように再び口を開く。


「なんで言うこと聞かないの……!? ただ一言謝ればいいだけじゃない!? ごめんなさいって」

「……っ………っ………やッ、だ――」


 それでも尚、態度を改めない詠美に母はいよいよ怒り心頭になった。


「だからなんでッ――」


 その瞬間、


「もうお母さんなんか大っ嫌いッ!!」


 バンッと、勢いのある音だけが響く。


 もうそこには詠美の姿はない。

 彼女は扉を開け、靴も履かずに外に向かって走っていった。


 ただただ感情だけに身を任せた行動だった。


「――ちょっと! 詠美っ!?」


 若干驚きの方が勝った母親の反応に、ハクは危機感を感じ取った。


「あの――」


 急に靴を履き始めるハク。


「詠美ちゃんの靴これで合ってますか?」


 そう言うとともに、ハクはピンク色の小さな靴を手に取る。


「……うん。そうだけど………」

「わかりました。詠美ちゃんはぼくに任せてください!」

「……………」


 ハクは返事を待たずして家から出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。