違う世界
――カチカチカチカチッ………
(まったく、うるさいな今日も………)
哀川ユウは、この瞬間もそんな感想を抱いていた。
「聞いてますかッ!? ユウさん!」
「あ………」
目の前にいる月沢のことなどガン無視もいいところ。
月沢は大きく「はぁぁぁ」とため息をつく。
「あのー、わかってますか?
例のアルバム制作、ちょうど明日から始まるんですよ!?
なのにこう………なんでそんなにぼおっとしてられるんですか!!
ユウさん全然準備してないじゃないですか!?」
「いや――」
「いや、じゃないですよ!
何今さら言い訳しようとしてるんですか!?
依頼されてた曲まだ一ミリも手つけてないってマジで言ってますか!?」
「だから!」
ユウは月沢に向けて少し怒鳴るような声音でそう言った。
月沢ときたら、今度はユウの急な言動に少し肩を震わせている。
「……なんですか?」月沢は言った。
「ん」
ユウは指をさす代わりに、頭だけを月沢の奥の方へとやる。
月沢はいまだおぼつかない様子のまま、ユウの顔を見ていた。
「ほら。みんな見てっぞ? おまえがめちゃくちゃデカい声出すから」
「え………」
ユウにそう言われ、月沢は慌てて後ろを振り返る。
たしかに彼の言った通り、オフィスにいる大半の人たちが自分の方を見ていた。
「すいませんすいません――」
月沢は申し訳なさそうに、そしてとてつもなく恥ずかしそうに、皆に向かって何度も頭を下げた。
「その、すいませんでした……」
今度は少し小声で、月沢はユウに謝る。
彼の出した声は何だかしょぼくれていた。
「まぁ大丈夫だ、こっちの方は」
そんな月沢を置いて、ユウは一人突っ走るように言った。
「は? その、大丈夫って………」
「曲だよ。明日までに完成させときゃいいんだろ?」
それを聞いた月沢はぼおっと口を開けて、
「……いえ、今日までです」
「は? そりゃいくら何でも無理があるだろ?」
「それは今まで何もしなかったユウさんが悪いです。
それにこっちの都合だってあるんです。
ちゃんと考えて言ってくださいよ。
いいですか? どんなにおそくても今日の九時までです。
それまでにぼくのメールに曲のデータ送ってきてください。もちろん歌詞も」
「………」
ユウは思わず額に汗を流し始める。
「………あぁ、わかったよ。わかった。……今からやる。その空いてる部屋あるか。レコーディング室とか」
「はい、ありますよ」
そうして月沢に空いている部屋を教えてもらったところで、ユウは一人でその部屋へと向かうことにした。




