表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
104/154

また、図書室で

「……体調、大丈夫?」すみれは至って自然にそう言った。

「……え」

「えっと……その、弥生ちゃんにたまたま会ってね。それで昨日ハクが早退したって聞いたの」

「……そう、だったんですね」

「ちょうどね」


すみれは席には着かずして、そのまま本棚の方へ移動した。

ここには誰も人がいないから、静粛なこの部屋での声はしっかり響く。


「暇だったから、静かな図書室にでも行こうかなって思って。

 そしたらハクがいた。

 ……だからその……これは偶然。別にハクに会いに来たわけじゃないよ」

「………そうですか」


 ハクはまたしても低調な声でそう返事をする。


「その」同じ声音のまま、ハクは続けた。「まだ、怒ってるんですよね? あの時のこと。今さらですけど、ぼく……自分がやったことすごく反省してるんです。あそこでやるべきことじゃなかったって――」

「違う」


 俯き気味に話していたハクが顔を上げるころには、すみれはもう目の前に立っていた。


「ハクが悪いわけじゃない。少なくとも自分のせいにする必要はまったくないよ。全部自分で抱えようとしてるんだよね、ハクはやさしいから」


 「昨日やっと気づいたの」続けてすみれは口を開いた。


「ハクがずっと我慢してたこと」


 それを聞いたハクは瞳を大きく開いた。

 けれど彼は、すぐにバツが悪そうに顔を背けだす。


「ぼくは全部壊しっちゃったんです。

 すみれさんの居場所、そして陸さんの夢を。

 だから別にぼくのこと庇おうだなんて思わなくていいですよ。

 ぼくはもう、部活も音楽もやる資格すらないですから。一生、このことを引きずっていくんです」

「違うよ」


 瞬間、すみれは口元を緩めた。


「決めるのは私だよ。

 ハクは自分で勝手に罪を償ってるけど、それはただ自分を納得させたいだけ。

 それは本当の意味での『償い』とは言えない」

「…………」


 呆然となるハク。やがて彼は納得したように、


「……そうですね、たしかに」ハクはすみれを見て言った。「ぼくは何をすればいいですか?」


 そしてまた一段、すみれは頬を緩める。


「音楽を続けて。私のために」

「え……」

「これが私がハクにしてほしい償い。もし『音楽辞める』だなんて言ったら、私ほんとにハクのこと今後一生恨むかもしれない」


 当然これはことを上手く運ばせるための嘘であった。

 

 こうでもしないとハクは行動に移すことはないと、すみれは今までの経験から知っている。


「わかりました………けどこの部活は――」

「そこでハクに報告したいことがあります」


 急に律儀な敬語で話しだしたすみれに、ハクは小首を傾げた。


「今の演奏部は私とハクの二人だけだから、このままじゃ廃部になっちゃう」

「そうですよ。だからもう無理ですよ? 陸さんを連れ戻すのは」

「うんん」すみれは首を振った。「新メンバーがいるの」

「――――」


 まるで言葉を失ったかのように唖然としているハクを前に、すみれはその言葉を告げる。


「白石弥生ちゃん。ハクと同じクラスの子が入ってくれることになった」

「………。えっ、白石さんっ!?」

「うん」

「いや、でも……」

「大丈夫。弥生ちゃん、吹部と兼部するって。だから実質、幽霊部員みたいな形になる」

「すみれさんが誘ったんですか?」


 そのハクの瞳には、まだ少なからずの疑念が残っていた。


「うんん。弥生ちゃんから」

「………」

「驚いたなぁ。まさかこんなに都合よく問題が解決するなんて」


 そう言いながら、すみれはハクの向かい側の席へと座った。


「………ほんとにそうですか? 嘘、じゃないですよね?」


 明らか疑い深いその瞳に、すみれは心底不思議に思った。


「……ハク。もしかして私のこと疑ってる? ほんとだよ。本当にあっちから誘ってきたの」


 ハクは一瞬だけ意外そうに目を見張ったが、やがて納得したように表情を元に戻した。


「………すみませんでした。何だか話が急過ぎて………信じていいのかなって」

「こっちこそ。私もっと信頼できるいい先輩……いや、いいパートナーになれるように頑張るから!」

「あぁ……はい。頑張ってください……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ