28.作戦会議
試験前でも変わらず委員会は続いたものの、流石に試験当日ともなると委員会の仕事はないらしい。試験中だけはアーノルドやカナデのことに意識を向け続けるわけにもいかず、意識を移して登校してきていた聖花は、やがて二日間の試験を終えると小さく息を吐いた。
(できれば一日で終わらせてくれないかな……)
わざわざ二日に分け、試験のために午前中だけ登校してくる意味が分からない。試験への意識を保ち続けなければならないこともそうなのだが、聖花としては少しでも早く他のことに意識を向けたかったのだ。
ふと気付いたのだが試験の終わりとともに休暇が近付いている。そもそもゴルダール家とアーノルド自体が協力関係であり、このまま休暇に入ると普通に尋ねてくる可能性があるのだ。
休暇が始まるのは、凡そ試験が終わってから一週間後。それまでに何とかしないといけない――そんな予感が胸を掠め、試験が終わるなり聖花は隣に座るルードルフへと小声で声を掛けた。
「……放課後、少し教室に残っていただけますか?」
そうして放課後になってから暫くしてクラスメイトの殆どが教室から退出したあと、何処に行っていたのか一時的に席を外していたルードルフが漸く戻ってきた。恐らく彼自身が教室に留まっていたら、令嬢達が一向に帰らないからだろう。
「お待たせしました。それで、何の用でしょうか」
「大方、予想通りの内容だと思います」
戻ってくるなり小声で尋ねてくるルードルフに内容をぼかして伝えると、何の話か理解したのかルードルフが一層声を潜める。
「……場所を移しましょうか」
「でしたら、良い場所がありますよ」
ふと思い当たった場所があった。思わぬ提案にルードルフは不思議そうにしつつも特に何も言わず、聖花の後ろに少しばかり離れたところからついてきた。
「……これは一体どういうことですか?」
暫くしてそこへと辿り着くなり、ルードルフが笑顔を聖花に向けていつものトーンで聞いてきた。
「……セイカ?」
その場所にいたフェルナンも聖花に顔を向ける。先日いつでも来ていいと言ったのは自分自身であるものの、ルードルフも来るとは聞いていないと言いたげな様子である。
二人が動揺するのも無理はない。ルードルフからすれば人気のないところに案内されると思っていたのによりによってフェルナンと居合わせていて、対するフェルナンからすれば聖花から相談でもあるのかと思いきやルードルフまでもが自身の部屋に入ってきたのだから。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください」
「私は落ち着いていますが」
「僕もだよ」
聖花が何気なく言った一言に、息を合わせたように二人が言い返してくる。実際、二人とも思ったより落ち着いているのだから苦し紛れなどではなく本当にそうなのだろう。
「私に案があります」
「……何の?」
何かを疑っているのか訝しげな視線を向けるフェルナンに、聖花は気にすることなく続ける。
「第二王子殿下をここに呼び出しましょう」
「今からですか?」
先日のこともあって絶句するフェルナンに対して、ルードルフはやけに落ち着いている。フェルナンに代わって飛んできた疑問に、聖花は僅かに首を横に振った。
「いいえ。今からだと寮に戻っていることでしょうから明日以降に」
「……どうやって呼び出すの?」
嫌な予感でもしたのか恐る恐るといった様子で問い返すフェルナンに、聖花は僅かに笑みを浮かべて続けた。その場に居合わせている時点で大方想像はつくだろうに。
「教師特権を使うのです」
予想通りの返答だったのかフェルナンが言葉を失う。
「……お願いできますよね?先生」
念を押すように見つめると、漸くフェルナンは小さく息を吐いた。
「……分かったよ。呼べばいいんでしょう?」
「ありがとうございます」
フェルナンに笑みを向けてから改めて二人に向き直ると、聖花が指揮を執るように続ける。
「作戦はこうです。朝礼の時、第二王子殿下の担任の方から放課後に先生の個室へと来るよう伝えてもらって、放課後になったら私がここで第二王子殿下を待ち、殿下は第二王子殿下が来るまでは個室の近くで姿を隠して待機しておいてください」
「……後から入室するということですか?」
要するにフェルナンがアーノルドを担任経由で呼び出して、放課後になってから聖花たちがそこで待つこということである。全てを聞き終えてから、ルードルフが確認するように聖花へと目を向けた。
「はい。第二王子殿下が入室する際、ほぼ同時に殿下も入室する形でお願いしたいです」
「僕はどうすればいいの?」
そこまで黙っていたフェルナンがパッと顔を上げると、聖花は淡々と続けた。
「あとはもう大丈夫なので教員室の方に行っていてください。後で呼びに向かいます」
またもや静かになったフェルナンと対照的に、ルードルフが僅かに口元を歪めた。
「……一体何をするおつもりですか?」
「それは来てからのお楽しみ、ということで」
どうせ自身が行かなくとも決行されるのだろう。そう思ったのかルードルフは暫く何かを言おうとしていたものの、やがてフェルナンの方を一瞥して諦めたかのように口を開いた。
「……分かりましたよ。貴方が彼女に協力する時点で、端から私には選択肢は残されていないでしょうから」
「僕はまだ何も言ってないんだけどね……」
フェルナンはそう呟きつつもそれ以上何かを言うことはなく、話が一区切りして静かになったところで周囲を見渡した聖花が漸く口を開いた。
「決まりですね」
「……それで、いつ呼べばいいの?」
直ぐに聞き返してきたフェルナンに、聖花は少しだけ考える素振りをしてから続けた。
「そうですね。折角ですし早い方がいいでしょう。明日、とか」
「明日ね……分かった」
「何も仰らないのですか?」
案外何も聞き返してこなかったフェルナンを不思議に思って問い返すと、何を今更、と言いたげな表情をフェルナンに向けられた。
「言ってどうするの?どうせ言ったところで無駄でしょ。ほんとならこんなこと止めて欲しいところだけど」
フェルナンがそこまで言い終えたところで、それまで静かに話を聞いていたルードルフがゆっくりと口を開いた。
「今更なのですが、貴方はセイカ嬢からどこまで話を聞いたのですか?」
「どこまで、って言われても。逆にセイカがそちらにどこまで話しているのか分からないので、何とも言えませんね」
「……この話は一旦置いておきましょう」
納得したかのようにルードルフは小さく頷くと改めてフェルナンへと目を向けて、笑みを浮かべたまま続けた。
「では明日、お願いしますね」
「……言われなくとも」
フェルナンが呟くように返したところで一旦お開きとなり、時間を空けて一同はその場を後にしたのだった。




