5.執拗な問い
放課後、聖花は何とも言えないもやもやとした気持ちを抱えながらも、アーノルドに言われた通り屋上へと向かった。
それにしても昼間の彼は妙だった。普段なら周囲に自分たちの関係を悟られないよう気を配っているというのに、今日に限っては廊下で突然声を掛けてきた上、その場で話を進めようとしていたのだ。
そんなことを考えながら扉を開けると、アーノルドは既に待っていた。先ほどのことなど何もなかったかのように本人は普段と変わらない顔をしている。
「――それで、何の用ですか?」
「闇属性について確認するために呼んだ」
それなら以前と同じような話だろう。安心感を覚える場面ではないというのに、何処か安堵しながら聖花が傍まで近付くと、アーノルドは僅かに間を置いてから口を開いた。
「あいつとはどういう関係だ」
「あいつって……フェルナン先生のことですか?」
てっきり闇属性について聞かれると思っていただけに予想外の質問だった。念のため確認すると、アーノルドは不快そうに眉を顰める。
「そいつ以外に誰がいる」
どうやら間違ってはいなかったらしい。
まさかとは思ったが、それを聞くために呼んだのだろうか。そんな疑問を抱きながらも、聖花はここ数日何度も口にしてきたものと殆ど同じ答えを返した。
「噂になっているような関係ではありません」
「なら、何故あの教室に二人でいた」
「あれは……エルザ先生に呼ばれたからです」
それでも納得する様子のないアーノルドに、聖花は一先ず空き教室にいた理由だけを伝えた。
ただ、エルザに何を言われ、何をされそうになったのかまでは話さない。既に済んだ話であり、わざわざアーノルドにまで伝える必要はなかったからだ。
「当の本人は出てこなかったようだが?」
「先に出て行かれましたので」
「……その後、二人で何を話していた」
「エルザ先生が出て行かれた後のことでしょうか?」
「そうだ」
何故エルザに呼び出されたのかと聞かれることも覚悟したが、意外にもアーノルドはそこには触れなかった。
だというのにフェルナンと二人になってからのことは随分と気になるらしい。妙な引っ掛かりを覚えつつ、ここで黙り込む理由もなく、聖花は聞かれた通りに答えた。
「少し話をしただけです」
「何を話した」
そこまで答えたところで、聖花の中にあった違和感がいよいよ無視できないものになった。
普段から高圧的なのは今に始まったことではない。以前ルードルフとの関係を聞かれた時にも妙な反応をされたことはあったが、今日はそれ以上に質問が細かい上に、何より最初に告げられた闇属性の話から完全に逸れている。
「……それ、関係ありますか?」
「――何?」
アーノルドの眉間に僅かに皺が寄った。
「先ほどから先生とのことしか尋ねていませんが」
アーノルドは何も答えなかった。聖花もそのまま黙って返事を待っていると、暫くして彼は僅かに視線を逸らす。
「少し噂を聞いてな。気になっただけだ」
「そう、ですか」
それだけなら何故ここまで詳しく聞く必要があるのだろう。納得できないまま返事をすると、アーノルドは再び聖花へと視線を戻した。
「それで、実際はどうなんだ?」
「……教師と生徒です」
「それだけか?」
また同じ話に戻った。尋問をされている気分になり、流石に黙って返答し続ける気にはなれず聖花は僅かに眉を寄せた。
「……それを確認するために私を呼んだのですか?」
再びアーノルドが黙り込んだ。
一体何なのだろう。そう思いつつ、聖花が答えを待つように見つめていると、暫くしてアーノルドが口を開いた。
「……計画に支障が出る可能性があるからな」
「そうですか」
もっともらしい理由ではある。
しかし、それならフェルナンと何を話したのかまで詳しく聞く必要があるのだろうか。聖花が余計なことを口にしていないか確認したいのなら最初からそう尋ねれば済む話である。
何より、そう告げた本人が僅かにバツの悪そうな顔をしているものだから余計に説得力がないのだ。
聖花は暫くそんなアーノルドを見つめた後、思ったことをそのまま口にすることにした。
「今日、少し変ですよ」
「それは――」
何かを言い返そうとしたアーノルドだったが、途中で言葉を止めた。互いに何も話さぬまま僅かな沈黙が落ち、程なくして居心地が悪そうに彼が聖花から視線を外す。
「いや……何でもない」
「……そうですか」
結局、本人から答えを聞くことはできなかった。
その後になって、ようやく本来の用件だったらしい闇属性について二、三質問されたものの、そちらは拍子抜けするほどあっさりと終わった。
屋上を後にしてからも聖花の中には釈然としないものが残っていた。闇属性について確認するために呼んだと言っていた割に実際に聞かれたことの大半はフェルナンについてであり、あれほど聞いてきた理由は最後まで分からなかったのだ。
以前ルードルフのことを尋ねられた時にも似たような違和感は覚えた。だが、あの時はまだ誰と行動しているのかを確認されただけで今回のように二人きりで何を話したのか、その関係が本当に教師と生徒だけなのかと、ここまで執拗に問い詰められた覚えはない。
―――やはり、最近のアーノルドは何処かおかしい。
そう思いながら、聖花はアデルのもとへと向かったのだった。




