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2.満室という現実


「でも、ご両親のためにそんな素敵なプレゼントを考えるなんて、本当に立派ですね」


私がそう声をかけると、彼女は照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


そう言って一度言葉を切ると、少し遠くを見るような表情になった。


「実は数か月前、家族でテレビを見ていたんです。関西のホテルを紹介する番組だったんですが、その中で、この京都クイーンズホテルが映ったんです」


彼女は当時のことを思い出すように続けた。


「その時、父が母に『一度でいいから、こんなホテルに泊まってみたいな』って話していたんです。その言葉が、ずっと忘れられなくて…」


その一言が、少女の胸に残り続けていたのだ。


「でも……」


彼女はテーブルの上に置かれたホテルのパンフレットへ目を落とした。


「恥ずかしい話なんですが、料金も調べずに来てしまいました。さっきパンフレットを見たら、宿泊料金が三万円からって書いてあって……。やっぱり私には無理かなって、少し諦めかけています」


その声は、先ほどまでの明るさとは違い、どこか寂しげだった。


私は静かに尋ねた。


「ご宿泊のご希望日は、いつですか?」


彼女の表情が少しだけ明るくなる。


「来月の十六日です。その日は両親の結婚記念日なんです。今年で二十周年になるので……」


「八月十六日ですね」


私は予約台帳を思い浮かべながら、念のため確認した。


彼女は小さく頷き、不安そうな瞳で私を見つめた。


「……お部屋は、空いていますか?」


その問いに、私は胸が締めつけられた。


八月十六日――京都では「五山送り火」が行われる一年で最も予約が集中する日である。


何か月も前から予約で埋まり、すでに全館満室となっていた。


「申し訳ありません。その日は、全館満室となっております」


私は理由も含めて、できるだけ丁寧に説明した。


彼女は一瞬だけうつむき、小さく「そうですか」とつぶやいた。


そして、気丈に笑顔を作ると、


「分かりました。他のホテルを探してみます」


そう言って静かに席を立とうとした。


その後ろ姿を見た瞬間、私は思わず声をかけていた。


「少し、お待ちいただけますか」


彼女が振り返る。


「京都市内のホテルに空室がないか、私のほうでも確認してみます。十五分ほど、お時間をいただけませんか。」


彼女は驚いたような表情を浮かべると、深々と頭を下げた。


私は急いでフロント事務所へ戻り、受話器を手に取った。


市内のシティホテルへ次々と電話をかける。


一軒目――満室。


二軒目――満室。


三軒目も、四軒目も……。


受話器を置くたびに、胸の奥が少しずつ重くなっていく。


十軒近く問い合わせても、返ってくる答えは、すべて同じだった。


「申し訳ございません。本日は満室でございます。」


私はゆっくりと受話器を置き、大きく息をついた。


少女の願いを叶える方法は、本当にもう残されていないのだろうか――。


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