表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、 【ログ】は全て保存してあります。 ─今から全て公開しますね。  作者: 渚月(なづき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話「ログ、全公開」

御前会議の広間は、あの夜と同じ場所だった。

 私が婚約破棄を宣告された、あの大広間。


 だが今日、私はここに被告としてではなく──証人として立っている。


 列席者の中にアルベール王太子がいた。隣にソフィアの姿はない。蒼白な顔で、あの夜の華やかさは消えていた。


 グレーテル宰相が壇上から宣言した。


「本日の御前会議は、メルヴィル侯爵家による国庫横領、公文書改竄、および関連する殺人教唆の件について、全証拠の提示と事実認定を行うものである」


 広間がざわめいた。殺人教唆。その言葉の重さが空気を変えた。


 ノエルが立ち、これまでに集めた全ての証拠を淡々と並べた。広間の空気が一つずつ重くなっていく。


 そして最後に──


「証人イレーネ・アシュフォードによる、魔法記録『ログ』の公開を請求します」


 私は壇上に進んだ。手が震えている。だが足は止まらなかった。


「私の魔法は、見聞きした全ての出来事を保存する『ログ』です。魔力に刻まれるため、外部からの改竄は不可能です」


 広間に魔法陣が浮かんだ。ログを可視化する術式。歴史的に、記録共有の魔法は裁判や外交の場で用いられてきた。証人の記憶は時間とともに変質するが、魔法記録にはそれがない。


「公開します」


 光の中に映像が浮かび上がった。


 メルヴィル侯爵が書記官に「記録の修正」を指示する場面。ピエールがダニエルに茶葉を渡す場面──包みの紙の色の違いが鮮明に映る。アルベール王太子が付箋つきの報告書を読み、何も言わずに閉じる場面。ソフィアが鏡の前で涙の練習をしている場面。


 広間は完全に静まり返っていた。


 グレーテル宰相が立ち上がった。


「メルヴィル侯爵ガスパールによる国庫横領──認定。公文書の組織的改竄──認定。宮廷会計士ダニエル・ロウに対する殺人教唆──認定。メルヴィル侯爵家の爵位剥奪。領地の王室管理への移管」


「王太子アルベールについて。不正の報告を受けながら看過した責任は重い。執務権限を一時停止し、再教育期間を設ける」


 アルベールは反論しなかった。その目は映像の中の自分を見ていた。


「イレーネ・アシュフォードの書記官解任は、正規の手続きを経ていない不当なものと認定する。即日、復職を命じる」


 私は深く頭を下げた。視界が滲んだ。



 会議の後、廊下でアルベールとすれ違った。


「私は──お前に酷いことをした。すまなかった」


 おそらく本心だった。だがそれだけでは足りないことも、彼自身が分かっているようだった。


「殿下。──次は、ご自分の目で記録を読んでください」


 それだけ言って歩き去った。


 廊下の先でノエルが壁に背を預けて待っていた。


「終わったな」


「ええ。──終わりました」


「これから、どうする」


「書記官に戻ります。記録を正しく残すのが、私の仕事ですから」


「なら──監察局にも、引き続き協力してもらえるか」


「もちろん」


 彼が歩き出した。私もその隣を歩いた。肩が触れそうで触れない距離。


 ──ただ、彼の歩幅がいつもより少しだけ小さいことに、私は気づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ