エピローグ
僕の家の玄関前まで送ってくれた勇者アレンと別れ、家に帰った僕を出迎えたのは母さんをギュウギュウ抱きしめている父さんと困ったように、でも幸せそうに笑っている母さんだった
「ただいま…ってどうしたの?」
「あぁ、おかえりなさいザック」
「父さん?」
「……ザック、よく聞きなさい。」
「うん?なぁに?」
「お前に妹か弟ができたよ」
「………は?」
「最近ちょっと体調…というか女性特有の物が遅れててやっと検査できる時期になったからしてみたんだけどね…」
「へ?え?ちょ、ちょっと待ってよ!!
何言ってんの!?」
「うーん…つまりね母さん妊娠したってことよ」
言葉の意味を理解すると、母さんに抱きつく父さんの横から僕もまた母さんに抱きついた。
こんなに嬉しいことってない。
弟だったら一緒にキャッチボールがしたいだとか、妹だったら結婚許さないとか父さんと話していると、母さんが気が早いって笑うんだ。
勇者アレンはさっきまでずっと僕のことを特別な存在みたいに言っていたけど、その特別はもう僕だけじゃない。
きっと次に勇者アレンに会えた時、彼はびっくりするだろう。
それで、妹か弟の誕生をとっても喜んでくれるはずだ。
勇者アレンの言う父さんはすごくかっこいい人だった。
でも、今は家でこんなに母さんにデレデレしてると知ったらどう思うんだろう?
『閃光』って世間に呼ばれる、スピードとスマートさが家に早く帰りたいからだって知ったら?
学生時代は母さんの友達に嫉妬して拗ねて、気を引きたくて失敗する。
そんな普通の男の人だったって知ったら?
彼なら…きっとがっかりはしない。
むしろ僕と一緒で二人の馴れ初めが面白くて堪らなくなるんじゃないかな。
今度会った時は勇者アレンの話ではなくて、僕が知った父さんと母さんの過去を聞かせてあげたいなって思う。
二人ともゲームとやらに関係なく生きているし、僕は二人にちゃんと愛されてることを知っている。
難しいことはわからないけど、それでいいんだと思う。
父さんと、母さんと、僕と、まだ見ぬ弟か妹、幸せだったらそれで。
「ほら、二人ともいい加減離れてよ。
ご飯の支度ができないわ」
「何言ってるんだ!
一人の身体じゃないんだよ?
僕が作るから座ってて!」
「そうだよ母さん!じっとしてて!!」
「二人とも大袈裟ね…少しくらい…」
「「ダメだよ」」
そうして、いつもあまりしない母さんの手伝いに追われて春休みが終わり、僕はシンフォニア王立学園の二年生になった。
「ザック!次薬学だぞ!走れ!
芋虫飲まされるぞ!?」
「それは嫌だ!!」
一年前から学園生活が始まって、たくさんの話を聞いたし、体験もして、色んなことを考えた。
でも、日常が変わったかと言われたらそんなこともなくて。
…いや、少し変わったこともある。
妊娠を機に父さんが鬱陶しいくらい過保護になった。
僕も人のことは言えないかもしれないけど…
母さんは慣れた様子だったから、僕の時もそうだったのかもしれない。
でも流石にトイレまで付いて行こうとするのはやり過ぎな気もするけど…
まぁ、つまり、母さんと父さんはいつも通り仲良しってこと。
学園に戻った僕はエリオットと授業を受けて、たまにブリジットとお話をして、同じように一年間の行事を越えながら進んでいく。
薬学の教室に走って向かう途中「廊下を走るな!」って声が遠くで聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。
遅刻したら大変だもの。
「どうしてこの学園ってこんなに広いんだよ!」
「知らないよ!!」
エリオットと共に息を切らせながら始業時間ギリギリに教室へ滑り込んだ。
その様子をクラスメイト達が呆れたような目で見ていたけれど、それよりも間に合って良かったっていう安堵の方が大きかった。
適当に空いていた席に座って、同じように隣に座ったエリオットとグータッチをする。
これで罰則は免れたって。
「グレイシー、シュゼット
私は廊下を走るなと言ったはずだが?」
始業時間ぴったりに入ってきた薬学の先生はなぜか大層怒っていた。
そして僕達を見て一言そう言ったんだ。
まさかあの時怒号をあげていたのが薬学の先生だったなんて思いもしなかった。
「罰として芋虫の味の感想を聞かせてもらおうか」
がっくり。
あんなに走ったのに結局罰則…
エリオットと僕は二人揃って肩を落とした。
そんな、どこか既視感のあるやり取りだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ハイファンタジーとして読むには恋愛色が強く、異世界恋愛として読むにはザックの冒険もあり、世界観も壮大な物語になりました。
作者としても最後の最後までジャンル分けで悩みました。実は今も、悩んでおります。
当初のイメージと違った方もいらっしゃるかと思いますが、それでも皆様の心に何かひとつでも残せたなら、それ以上に嬉しいことはありません。
ラストで勇者アレンが語っていたように、この話は「物語の筋書きで死亡が確定しているキャラクターが、もし救済エンドを迎えたら?」という発想が土台にあります。
最初は、そんな死亡フラグを抱えたセドリックとアイリスの異世界恋愛を書くつもりでした。
けれど、想像が先走って、もしも二人に子供がいたら?その子供はどんな子かな?
きっと明るい子になるかな?
そんなふうに想像を膨らませていくうちに、始まったのがこの話です。
死亡キャラクターを生かし、そのキャラクターの幸せなその後を描く。
それが目標でした。物語のシナリオで辛い思いをする分、幸せにしたかったのです。
主人公はアイザックですが、私の中心にいたのは最初から最後までセドリックでした。
皆様からいただいた感想や評価、ブックマーク、リアクションのひとつひとつが、物語をどのように感じていただけたのかを知るための、大切な道標になっています。
もしよろしければ、皆様が感じたことを聞かせていただけると嬉しいです。
改めてここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
まだ描ききれていないシーンや日常を、後日談として追加できたらうれしいな。
それではまたどこかでお会いしましょう。




